杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト45
トールはまず近くにいる襲われている魔導技師の元へと向かう。犬ゴーレムはその男のローブの裾に噛みついて動きを封じており、魔導技師は持っていた杖で叩いて追い払おうをしていた。
「おらぁ!」
トールは裾に噛みついている犬ゴーレムを蹴り飛ばし、魔導技師から離す。
蹴り飛ばされた犬ゴーレムは、体をバラバラにしながら飛んでいき、地面へと落下する。そして各部パーツが震えると、すぐさま元の犬の形状へと集まっていった。
「とりあえず騎士たちの元へ! あそこなら安全だ!」
犬ゴーレムの方を見ながら、トールは魔導技師の男に対して叫ぶ。
男はビクリと体を一旦震わせると、すぐさま起き上がって貴族たちが集まっている方へと逃げ出した。
「しかし、これは厄介だな」
トールはばらけた後、すぐさま元通りに戻った犬ゴーレムを見てつぶやく。
普通の生き物なら胴体を蹴り上げられて吹き飛べば、それなりのダメージを負う。下手をすれば内臓までに及ぶだろう。
しかしこの犬型ゴーレムは、その衝撃を体のパーツをばらけさせることで、ほとんど吸収してしまっている。実際トールが蹴り上げた感触も、そこまで重いものではなかった。
「ゴーレムだとすれば、どっかに魔法陣が刻まれた箇所か、魔力を貯めている魔石が組み込まれているはずだが……」
トールが犬のゴーレムを観察していると、別の場所からも悲鳴が上がる。
トールは一旦思考を中止し、蹴り上げた犬ゴーレムも一旦おいて悲鳴の上がった方へとむかう。悲鳴の上がった場所へと行く途中でも、犬ゴーレムに襲われている者を、蹴りや殴りで救いながらも進んでいく。
「きりがない、な!」
先ほど悲鳴を上げた女中と思われる人を助けると、トールはあたりを見回す。最初数匹程度であった犬ゴーレムは、その数を徐々に増してきており、今では数十匹にも膨れ上がっている。
トールは素手では限界があるなと思い、出発するときに胴体内に入れていた袋を取り出す。空間拡張の魔法がかかった袋である。
トールは時間が惜しいとばかりに、袋を破く。すると中からは一つの武器が出てきた。いわゆるメイスというものである。
大きさはトールの乗っているゴーレムの腕と同程度。先端は縦長の八面体のような突起物が付いていた。
「良し、これで叩き潰せば動かなくなるだろう」
トールは基本的には戦いの素人である。剣や槍などの刃物はそれなりに訓練を積んだもの出ないと、扱いきれない。そこで通常の武器として考えていたのが、このメイスである。これならばただ単純に叩けばいいだけであるので、戦闘の素人であるトールにも扱えると考えていたのである。
トールは早速とばかりに狙いをつける。丁度近くにいた犬ゴーレムが、トールに目掛けて走ってきていた。
「よい、しょおぉ!」
トールは掛け声とともに、走って向かってきている犬ゴーレムに向かってメイスを振り下ろす。
それを避けることのできなかった犬ゴーレムは、頭に叩きつけられ地面へと打ち据えられた。犬ゴーレムの頭はひしゃけ、中に収められていた魔石ごと砕け散った。
「魔石は頭か。よし!」
頭を砕かれた犬型ゴーレムはその動きを止める。四肢はばらけたまま、再度終結することはなかった。
「読み通りか。頭を狙え! 頭の中にある魔石を砕けば動きが止まるぞ!」
トールは見つけた犬型ゴーレムの弱点を伝えるべく、大声で叫んだ。
それを聞いた騎士たちは狙いを頭へと変え始める。剣で突き刺し、中の魔石を砕こうとする者やいつかのペルラと同様に魔導甲冑を稼働させ、その筋力を増強し一刀で断ち切る者もいた。
「よし、これでいいんだが……」
少しずつ犬型ゴーレムを排除し始めた騎士たちであったが、その数は一向に減った様子がない。むしろ増えていっている。
犬型ゴーレム達は、物陰から次々と姿を現し続けていたのだ。
「どこから湧いて出ているんだ、こいつら」
思わず悪態をつくトールであったが、今は数を減らすことが重要だと思い次を狙う。まだ襲われている一般人に向かい、その近くにいた犬型ゴーレムを叩き潰す。
2体、3体と叩き潰していると、犬型ゴーレム達の挙動が変わってきた。今まではばらけて襲っていたのに対して、その目標をトールに絞り始めたのだ。
「おうおう、どんどんこいや、犬っころ!」
トールは気合を入れるために叫ぶと、同時に襲ってきた犬型ゴーレムに対してメイスを振るう。しかし警戒をしていたのか、犬型ゴーレムは散開すると、それを華麗に避けた。そしてトールのゴーレムに対して爪でひっかく。ギャリ! と音が鳴り表面に傷がつけられる。だがそれだけである。
トールの装甲はフルプレートの鎧を着込んでいるため、犬型ゴーレムのひっかき程度では傷がつくだけである。
「まだまだぁ!」
トールはメイスをバットのようにフルスイングし、犬型ゴーレムの頭に直撃させる。当たった頭は勢いよく飛んでいくが、砕くまでには至らなかった。衝撃が逃げたためだ。
トールは叩き潰さないとダメかと考え、叩きつけるような動作へと変更する。しかし犬型ゴーレム達も学習したのか、トールのそれは綺麗に避けられていった。
「ちっ! 避けんな!」
トールがメイスを叩きつけ、それを犬型ゴーレムが華麗に避けひっかきや噛みつきを仕掛けてくる。
トールは噛み付いてきた犬型ゴーレムの頭をつかむと、それを両手で押しつぶし中の魔石ごと砕く。当然、その犬型ゴーレムは動きを止めて四肢をばらけさせた。
「なかなか致命打は難しいか。とりあえず先に救出するのが得策だな」
トールは優先目標を救出へと再度変更し、襲われている人間の元へと駆け寄っていく。
魔導技師をはじめとし、女中、教員、取り残されていた貴族などを襲っている犬型ゴーレムを片っ端から殴りつけていく。そして助けた者に騎士たちと合流を促し、自分は犬型ゴーレムを引き付けながら他の要救助者へと向かっていく。そうしてほぼ襲われていた者達の救出したころには、トールは多くの犬型ゴーレムに狙われ囲まれることとなった。
「ほとんど助けたか? まあ、これだけに囲まれるとこれ以上は身動き取れそうにないな」
優に30は超える数に囲まれながら、トールはメイスを握り直す。
まるで威嚇しあう獣のようにじりじりと距離を詰め、トールは一気に集団の中へと飛び出した。まずは近くにいた犬型ゴーレムに対してメイスを振るう。それを避けきれなかった犬型ゴーレムの一体は、直撃を受けると頭を粉みじんにされる。
続けてメイスを振るうと、今度はそれを交わしてトールに数体噛みついてくる。ガリガリと金属を削るような音を立てながら、トールは噛みついてきた犬型ゴーレムの頭を掴み、潰す。
そうしている間にも、他の犬型ゴーレム達はトールを目掛けて俊敏な動作で攻撃を仕掛けてくる。爪でひっかき、牙で噛みつく。トールの装甲には、すでに数えきれない傷ができていた。
「埒が明かないな。仕方がない、試すか」
トールは今噛みついている犬型ゴーレムの頭を掴むと、地面に叩きつけてそれを踏む潰す。
そして胴体にある収容スペースに手を突っ込むと、手に収まるほどの大きさの袋を取り出した。トールがそれを破ると、中に入っていた物が飛び出してきた。
「初弾装填済み、安全装置……は無し。魔力装填開始。標準よし」
中から飛び出してきたものをつかむと、それの先端を犬型ゴーレムに向かって向ける。そしてその引き金を引いた。
筒状のそれは、トールの動作によってその機能を発揮する。乾いた破裂音とともに、中から複数個の鉄球が飛び出す。そしてそれはトールの狙い通りに犬型ゴーレムの頭に命中し、それを易々と砕いた。
「良し! うまくいっている!」
トールは筒の後方部を開くと、中に残っている薬きょうを取り出し、次弾を装填する。
そう、トールが新たに取り出したのは火器、世にいう散弾銃もどきである。
トールがハーピーとの戦闘時に火力不足を感じたことから、少しづつゴーレム開発の傍らに作っていたものだ。トールは銃器に関しての知識はほとんどなく、火薬で銃弾を押し出すという事ぐらいしか知らなかった。それを自分なりに設計し、いくつかの試作を重ねて作っていたのが、この散弾銃もどきである。
もどきというからには、それなりの理由があった。まず現代の銃器の構造をまったく知らなかったため、ゲームなどで見たことのある中折式のショットガンを模倣することにした。爆風を逃がさず、かつ容易に装填できるように銃弾も薬きょうを持たせた。そして火薬にはナーリャ達が使ったプラーミァを改良してある。
プラーミァの特性として、魔力を流し込み数秒立つと爆発するというものがある。それを小型化し、複数の鉄球とまとめて薬きょうに入れて弾薬としているのだ。そして弾薬に使われている小型プラーミァは、魔力が流れると同時に爆発するように改良を施してあった。
トールが引き金を引くことで、魔力がプラーミァへと周り爆発を引き起こす。それによって銃弾が飛び出す仕様になっていた。なので撃鉄機構は無く、魔導的な細工が施されていた。
そこまでは良かったのだが。
「うおわ!」
トールが装填し、発射しようとしたところで散弾銃もどきの根本が爆発する。暴発である。
この散弾銃もどきはまだまだ欠陥品である。特に銃の知識のないトールが、結構なやっつけで作ったこともあり、放熱やつまり対策などはさっぱりなのである。他にも強度面での検証など、ほとんどしていないのが実情だ。
幸い、というかトールはいまゴーレムに乗り込んでいるためほぼダメージはない。それも見越して今回の使用を決めたのであるが。
「くそっ、次!」
トールはもう一度胴体内部の収納スペースより袋を取り出して中身を取り出す。散弾銃もどきは試作品合わせて3丁ほど持ってきていた。
新たに取り出した散弾銃もどきを構え、犬型ゴーレムに向かって撃ち出す。複数回撃ち、犬型ゴーレムの頭を吹き飛ばす。何発か外れてはいるが、先ほどのメイスによる叩きつけ攻撃よりは撃退数が上がっていた。
そうしているうちに、もう一度暴発が起こる。中折部が吹き飛び、衝撃がトールの操っているゴーレムに伝わる。
「後一丁!」
トールは最後の一丁を取り出し、弾を込めて発射する。
出来るだけ後ろに人がいないタイミングを見計らい、犬型ゴーレムの頭を狙っていく。やはり慣れていないため、半数程度は外れているが、それでも残り半数は命中させることができ、犬型ゴーレムの数を減らしていった。
「結構使えるな!」
火力が必要だと思った時に思いついた銃器であったが、その出来にトールは満足していた。暴発はするが、ゴーレムに乗っている今であれば問題ない。人間が使うとなるともちろん駄目だが。
幸運にも、3丁目は出来が良かったようで、なかなか暴発しなかった。撃った数は10発を優に超え、持ってきていた弾数もあと残すところ数発という状況になっていた。
トールが弾が切れたらどうするかと悩んでいると、またもや遠くで悲鳴が上がった。トールがまだ逃げ遅れていた者がいたのかと振り向くと、そこには一目で大層厄介だと分かる物が鎮座していた。
今までの犬型ゴーレムより一回り大きく、そのガタイは獅子を思わせるもの。そしてその体は全身金属でできていた。




