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杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト44

 

「どうした! 何があった!」


 騎士の一人が叫ぶ。しかし状況を把握できている者はおらず、返答はない。

 必然的に悲鳴の上がった方へと視線が集中する。走る魔導技師。護衛が何かと争っている様子は見えるが、そこで何が起こっているかの具体性は把握できない。


「くっ! 皆様はここで待機を! アルト、ついて来い!」


 騎士の一人が別の騎士を呼び、悲鳴が上がった方へとかけていく。トール達は何があったかが把握できずに、その場で立ち尽くしていた。


「カルン、分かるか?」


「犬っぽい何かが走り回ってるっす。 数人やられているみたいっすね」


 普段の笑顔を引っ込め、カルンは状況を確認する。常人より優れているカルンの視覚で、彼女は確認強いようとするが、人だかりで詳細は確認出来ないようであった。

 トールも悲鳴の上がった方向へと集中する。トールが入っているゴーレムの2mほどの身長が功を奏したのか、他の者よりも状況を見ることができた。

 それは犬もどきだ。見た目木材のようで、手足の先には鉄のような爪を備え、口にはそれもまた鉄のような牙を持っている。

 数体が近くにいた魔導技師を襲い、爪で切り裂き牙で噛み千切ろうとしている。それを必死に倒れながらも防ごうとしている魔導技師に、近くにいた護衛が引き離そうとしていた。


「木でできた犬だ。ゴーレムか? 魔導技師達を襲っている。護衛が引き離そうとしているが……」


 トールが状況を説明しようとしていると、別の場所でも悲鳴が上がる。

 反射的にトールはそちらの方を向く。そちらもまた木材でできている犬が駆け、周辺の人らを襲おうとしているようであった。


「皆様はここを動かないで下さい!」


 騎士が連れていた貴族に対しそう叫び、鞘に納められていた剣を抜き放つ。

 カルンも背負っていた槍を構え、イオンも腰に下げていた杖を取り出していた。


「ゴーレム殿、状況はつかめるか!?」


「木でできた犬だ! それが人を襲っている! 爪と牙を持ち、それらは鉄のような物で出来ている見たいだ!」


 先程何かを言いかけたトールに対して、騎士は問いかける。トールはそれに答えながら展示スペースより出てナーリャ達のすぐそばへと寄る。。

 四肢に木目を持った犬は中庭の木々の裏手や生垣の中から次々と飛び出してきており、その数をさらに増やしていく。それはこの中庭の各所で起きており、周囲は一層悲鳴で覆われることとなった。


「総員、一匹たりとも通すな!」


 貴族個人の護衛も含めて、10名ほどの騎士達は貴族を取り囲むように配置する。騎士たちは貴族の護衛を最優先したようであった。

 2,3匹の犬たちが他の人間たちに目もくれず貴族たち目掛けて襲ってくるが、騎士たちが剣で打ち倒す。

 しかし、犬たちは切られ四肢が離れても、すぐさま元通りになり再度襲ってきた。


「なんだ、こいつらは!」


 騎士が襲い来る犬たちに剣を振るが、腕や足がそれによってばらけるがすぐさま元に戻っていく。

 トールは警戒しつつ、襲ってきている犬を観察する。よく見るとそれらは、手足や胴体を構成する木材の一個一個は繋がっておらず、何かしらの力で犬のような形になっているようであった。


「関節がつながっていないな。あれもゴーレムの一種か?」


「おそらくは。あのような形状では消費魔力が増大するはずですが」


 関節を精巧に、かつ動かすのに無駄な力を使わない形状にすることでゴーレムの魔力使用量は減る。しかし木で出来た犬のゴーレムが、それをあえてしていない。


「なるほど。そういう考え方もあるのか」


 ゴーレムの関節がないことについて、トールは発見する。

 この犬型のゴーレムは関節部を接続しないことによって、手足が吹き飛ばされてもすぐにつなぎ合わせ、元に戻ることができている。そして攻撃をされるときに手足が固定されていないことにより、その衝撃を吸収しているのである。


「攻撃されてもすぐに戻る、ですか。これは厄介ですね。それにしても、よくもまああんなに魔力の無駄遣いをする構造を思いついたもんです。私には出来ない発想です」


「俺もだな。駄目だな、効率化ばかり目がいっていると、こういうことも見逃しちゃうな」


「二人とも、落ち着いて語ってないでよ!」


 トールとリューナが犬ゴーレムについて検証をしていると、ナーリャに抗議を入れられる。たしかに襲われている現状で話をしている場合ではない。


「それもそうだ。さて、どうするか」


 トールが考えをまとめるために、どうするかと口に出していると、何人もの魔導技師が助けを求めて走ってくる。こちらには貴族の護衛のため騎士が多くおり、それに助けを求めてきているのである。そしてその中には、魔道具の発表前にも話をしていた男、インテルムの姿もあった。

 彼は慌てる様子もなく、ゆっくりと歩いてくる。その後ろにはトールが気にしていた岩でできたゴーレムが付き従い、散発的に襲ってくる犬ゴーレムを撃退しながらインテルムの後を追っていた。


「いやはや、参りましたね。こんなことが起こるとは、露にも思っていませんでしたよ、はい」


 あまり参っていない様子で、インテルムはトール達の集団へとやってくる。騎士たちによって構成された防御陣の中に入ると、トール達の事を見つけて寄ってきた。


「無事なようだな」


「はい、おかげさまで。しかしこれは色々と問題がありますねぇ。物陰からまだまだ出てくるようですし、どうしたものですかね?」


「……そうだな」


 トールもそれには気が付いていた。犬のゴーレム達は物陰より次々とその姿を現してきており、数は増える一方である。しかしトールとしては、いざという時ナーリャ達を守れなくなるのは問題であり、この場より離れるという選択肢はなかったのである。

 しかし、その考えをさえぎることになる。


「……トール、お願い。みんなを助けてあげて」


 ナーリャは離れた場所で襲われている魔導技師たちを見つめながら、トールにそう懇願する。

 襲われている魔導技師たちは、未だ死者は出てはいなさそうであったが、それも時間の問題であろう。爪と牙によって引き倒され、必死に顔の前に腕を持ってきて何とか防いでいる者。自分の杖を振りながらこちらへと逃げ出そうとしている者。

 そのほかにも、使用人たちや職員と、多くの者たちも各地で犬ゴーレムに襲われているのが見えていた。


「しかし……」


「わたし達は大丈夫。お願い、トール」


 二度にわたりお願い、と言われトールはナーリャの事を見る。彼女は少し顔を青ざめさせていたが、トールの事を力強い眼差しで見返す。


「……騎士に話を通してくる。カルン、イオン! ここは任せる!」


「了解っす! 任せてほしいっす!」


「分かりました。お二人の安全は私達がお守りします」


「……ありがとう、トール」


 トールは諦めの境地でしぶしぶ了承する。そのトールの返答を聞き、ナーリャはトールに頭を下げる。

 カルンとイオンに、トールはよろしく頼むと一言いうと、指揮を執っている騎士のものとへと走り出そうとする。すると、横から声が掛けられた。


「そちらのゴーレムを出すというのであれば、私のゴーレムを出さざるをえませんね」


 声をかけてきたのはインテルムである。彼は自分が従えてきたゴーレムを叩くと、にっこり、ではなくニヤリと笑う。


「あなたのゴーレムはその所作を見る限り、かなり精巧な動きができそうですね。素晴らしい限りです。私も負けてはいられません」


 岩でできたゴーレムは、その姿を近くで見ると岩だけではないようであった。各関節部には球状の宝石とみられるものがあり、そこを関節とし岩がくっ付いている形である。


「球状関節に魔石の類を使用することで、動作を効率化させているのです。各部に魔石を備え付けることにより、費用が掛かる大がかりな魔石を使うことなく、コスト削減をしているのですよ、はい」


 トールが岩ゴーレムを見ていると、インテルムは楽しそうに解説を始める。それはもうウキウキと。


「さらに動作させるにあたって……」


「すまないが、今は緊急の時だ。話しは後にして、そのゴーレムも戦力になるんだな」


「おっと、いけませんねぇ。ついつい。もちろん戦力になりますとも。では参りましょうか」


 インテルムに話を中断させると、ナーリャとリューナに一度手を振ってからトールはインテルムとそのゴーレムを連れて指揮を執っている騎士の元へと向かった。

 指揮を執っている騎士は、目まぐるしく変わる戦局を前に、次々と叫びながら他の騎士たちに指示を送っている。今のところ統率のとれた騎士たちによって、犬ゴーレムの襲撃に対して何とか防いでいるといった状況である。


「すまない、我々も攻勢に出ようと思うが、いいだろうか?」


「君は……まあ、細かい事はいい。出てもらえるというのであれば助かる。我々はここで貴族様方を守らねばならん。すまないが、襲われている人々を助けてもらえるだろうか?」


 指揮を取っている騎士は、意外と若い声でそうトールに言う。

 話しかけられすぐに判断を下した騎士に対して、兜はかぶっていて顔は見えないが、優秀そうな人材だと感じたトールは、その指示に従うことを了承する。


「分かった。インテルムのゴーレムはどうだ?」


「私の方は細かな動作ができません。単純に殴る蹴るなどはできますが、だれかを助けるといったことは難しいのです、はい。なので、適当な場所で暴れさせておきましょう」


 インテルムは何事かを自分のゴーレムにつぶやく。するとゴーレムは走り回っている犬ゴーレムに目掛けて突進を始めた。岩ゴーレムは、すぐ目の前にいた犬ゴーレムをつかむと、地面に叩きつける。そしてすぐさま別の犬ゴーレム達に向かって行った。


「凄いな。これだけ自立稼働できる人型のゴーレムか。後で話を聞こう」


 トールはインテルムのゴーレムのできに感心しながら、自分もまた襲われている人に向かって走っていった。



投稿が途絶え申し訳ございません。

また少しの間投稿が不定期になるかもしれませんが、なにとぞよろしくお願い致します。

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