杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト43
魔導技師たちが解散し、あたりに人がいなくなると直ぐに岩製のゴーレムを見に行ったリューナが戻ってきた。
「ただいま戻り……皆さん、何をしているのですか?」
リューナは戻ってくると、ナーリャ達全員が展示スペースの中に入っているのを目撃したため、思わず聞いてしまっていた。自分たちも展示物にてもなったのかと。
「これは違うんだよ、リューナちゃん。いきなり大勢が押しかけてきて大変だったんだから。仕方なくこっちに避難していたの」
ナーリャはロープをまたいで、展示スペースから出る。トールはもちろんそのままである。
「いや~、凄かったすね。あんなに人にもみくちゃにされたの、初めてっすよ」
「楽しそうだね、カルンちゃん。私はすこし疲れたよ」
カルンとイオンもまた、ロープで区切られた展示スペースから出てくる。カルンは楽しそうに笑いながらであるが、イオンはすでに少し疲れた表情をしている。
「ああ、そういう事ですか。大方トールさんのゴーレムが珍しかったため、大勢押しかけてきたというところでしょうか?」
「おお、良く分かったな」
「あちらも同じ状況でしたから。やはり人に似せたゴーレムは珍しいのでしょうね」
リューナは先ほどまで自分が見ていたゴーレムに向かって指をさしながら話す。その先のゴーレムは、トールのものより若干大きい体躯で少し前かがみになりながらも、二本の足で立っている。
「やっぱ二足歩行は珍しいのか。まあロマンだからなぁ。それで、向こうのゴーレムはどうだったんだ?」
「それですが……」
トールの願いで見に行ったリューナは、そのゴーレムについて話そうとした。しかしそれは直ぐに中断されることとなった。ゴーレムを見に貴族の団体がやってきたのだ。ゴーレムに関しては、先ほどの発表のように発表者が入れ替わりするのではなく、こうやって貴族たちが回っているのである。これはゴーレムの移動は時間がかかるのと、場所の確保が難しいためにそうされているのである。
リューナは話を止め、トールの前に立つとナーリャ達に声をかけて一列に並ばせる。流石に貴族を迎え入れるのにバラバラに並んで、とはいかないのである。
貴族たちの先頭には騎士が並び、そのすぐ後ろは王子ディベルシオン、若干不機嫌そうな顔のアトラと笑顔のクリシュ、そして少しキツイ眼差しのレステ家のローザティエと続いている。そのさらに後ろに貴族たちが並んで付いてきていた。
「ここがダナン家の場所かい?」
「はい、その通りですわ、王子殿下」
ディベルシオンは展示されているトールのゴーレムの前に立つと、ほうほうと眺め始める。
「君らが製作者かな、可愛らしいお嬢さんたち。っと君はあのランプと作った子だね。あれは良かったよ」
「あ、はい、えっと、ありがとうございます!」
ナーリャは急に声をかけられて、慌てて返答する。
「王子殿下、少々よろしいでしょうか?」
「なにかな、アトランクス。今このお嬢さんと話を楽しみたいのだが?」
ナーリャ達はアトラの言った『王子殿下』という言葉を聞いてビクッ、となった。今話をしていたのが王子だと気が付いていなかったのである。
ナーリャはあからさまに視線をさまよわせ、リューナはどこか一点をじっと見つめている。その額には汗が浮かび上がっていた。
イオンは貴族の方をできるだけ見ないようにしているようであり、カルンだけは相変わらずのニコニコとした笑顔である。
「このゴーレムの製作者ですが、一つ面白い余興が御座いまして」
「ほう、君がそういうのだ。よほど面白いことなのだろう?」
「ええ、もちろんですとも。という訳だトール君、説明を頼むよ」
アトラはトールのゴーレムにをポンポンと二度叩く。
トールは今まで何となく黙っていたのだが、アトラの余興に乗ることにした。
「初めまして、王子殿下。私はトールと申します」
トールは挨拶をしながら、左腕を胸の前に当てて一礼をする。
そのトールの動作に、貴族たちは一斉に声を上げ、ディベルシオンもまた口を半開きでいた。
クリシュはハァ、と頬に手を当ててため息をこぼし、アトラはしてやったりといった顔をしている。
「私がこのゴーレムの製作者であります。ご所望であれば、このゴーレムについて解説を致しますがよろしいでしょうか?」
トールは頭を下げたまま話をつづける。
トールが話したことにより、貴族一行はいまだ驚きの声を上げている。しかし中には冷静に、それを受け止めているものも見られた。
「君が製作者だとでもいうのか? 自分を自分で作ったとでも?」
ディベルシオンは一度頭を振り、トールへと質問を投げる。
「正確にはこの中に入っているものです、王子殿下。今お見せ致しましょう」
その質問に、このゴーレムの中には人が入っているのかとディベルシオンは勘違いをする。しかしそれはすぐに間違いであることを認識した。
トールはゴーレムの背を開くと、その姿を現す。杖の姿を。
「改めましてお初にお目にかかります、王子殿下。話す杖のトールと申します」
ゴーレムがしゃべったと思ったら、中から杖が出てきて、浮かんで挨拶をし始める。端から見ると奇怪極まりない状況である。
アトラは王子が呆然とトールの事を見ている姿を見て、クックックと笑いをかみ殺している。それを見たクリシュは、またもため息をついていた。
「王子殿下、いかがですかな? 楽しんで頂けましたでしょうか?」
アトラは一旦笑いを止め、ディベルシオンへと話かける。
ディベルシオンというと、惚けていた顔を整えると、アトラの事をにらみつける。
「アトランクス。ああ、とても楽しませてもらったよ。この性悪め」
「おやおや、王子殿下。楽しんで頂けたのなら、臣下としてこれ以上の喜びは御座いません」
「クッ。 覚えていろよ、アトランクス」
トールは二人の様子を見て、実はこの二人仲がいいんじゃないかと思い始めている。喧嘩するほど、というやつである。
「それで、そこの杖。名は何と言ったか?」
「トールで御座います」
「ではトール、ゴーレムについて聞かせてもらおう」
「承知いたしました。ではまずは……」
トールは自分のゴーレムについて語り始める。
「このゴーレムの特徴は、ほぼ人ができることすべてを行えるという事にあります。ちょっと失礼」
トールはゴーレムの中に入りなおすと、手を挙げる。
「このように手を挙げるといった動作から、何かを運ぶ、木材であったり石材であったりですね。他にもその石材を積み上げたり、木の杭を打ったりとです」
トールは持ち上げる動作や、槌を振る動作をする。
「他にももちろん通常の荷物を運んだりもできますし、ある程度の戦いも出来ます。膂力としては、普通の人間よりも大きいでしょうが、そのあたりは魔力保持量と動作時間次第な点があります」
剣を振る、何かを背負う、持ち上げるといった動作を繰り返してトールは行い、貴族たちの反応を確認する。
興味を持たない者、何となく理解したような者、そして熱心に聞くものと反応は様々である。その中でも、王子の反応は顕著なものであった。
彼は顎に手を当て、何かを考えるようにじっとトールの方を見つめている。
「そのゴーレムは君が中に入って動かしているのか?」
「その通りです、王子殿下」
「すると、そのゴーレムは他の人間が入ることも可能なのか?」
トールはその質問に、少し驚きを覚えた。その利点に気が付くとは思っていなかったのである。
トールが作ったゴーレムの画期的な点と言えば、魔力効率の高さではない。人が中に入った時に発揮されるものだ。
膂力が低い人間でも、このゴーレムに入ることで樹ですら持ち上げる力を得ることができる。要はパワードスーツの発想なのである。
トールは、人間に即した体がほしかったというものもあるが。
「はい。このゴーレムでは中に骨格が入っていますから無理ですが、将来的には可能になるでしょう」
「そうか。いいな、コレ。俺もほしいな」
そう王子が言った途端、貴族たちの反応が変化する。
トールに直接話しかけるのは恐怖があるのか、そばに立っているナーリャ達に積極的に確認をし始める。
「これは売ってもらえないのか? いくらでなら売ってもらえるか?」
「待ちたまえ。これは私が買おう」
「いやいやヘンドリック卿。これは私が……」
いきなりの貴族たちの反応に、ナーリャは若干押され気味に答えている。
貴族たちは王子がほしい、と言ったので献上品にいいと判断したのである。そのため購入することに決め、それに付いてナーリャ達に問い詰め始めたのだ。
「諸兄、これについては私を通していただきたい。なにせダナンに所属する魔導技師なのだからね」
とナーリャ達が困惑していると、助け舟が出される。アトラだ。
「それにまだこれは研究段階なのだから、中に人は入れないよ。そうだろう、トール君」
「その通りです、アトランクス様。まだ中に人が入るスペースは確保できていません」
トールは一応その場の空気を読み、アトラを本名で呼んで答える。
「という訳で、諸兄。完成した暁には連絡をしようじゃないか。今は抑えてくれたまえ」
アトラに言われ、詰め寄っていた貴族たちはしぶしぶと言った感じで引き下がっていく。
王子もまた、少し残念そうな顔をしていた。
「そうか。ではアトランクス、完成した時はぜひ私にも送ってほしい」
「承知いたしました、王子殿下」
アトラの一言で貴族たちからの詰め寄りから解放されたナーリャは安堵しているようである。流石にこのゴーレムを売ってくれと言われても、どうしていいかわからなかったのである。
何せ設計図はあるが、その構造等はトール謹製のものである。まだナーリャが理解できていない点も多く、量産や改善点など把握しきれていなかったのである。
「実に面白いゴーレムであった。では次に……」
王子がこの場を切り上げ、次に行こうと言おうとした瞬間。
少し離れた場から、突如悲鳴が上がった。




