杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト42
そうして解放感から少し浮かれ気味でナーリャ達が話をしていると、何人かが発表をしに待機所から出ていく。そうして、すべての魔導技師の発表が終了したことが告げられた。
「皆様お疲れ様です。次は中庭にてゴーレムについての発表となります。案内に従って移動をお願いします」
魔導技師たちはそれぞれ立ち上がると、案内人に従ってその後ろに付いて行く。
「ちょっと、トールさん! アレ!」
リューナが少し慌てた様子で指をさした先には、トールのゴーレムが立っている。部屋の角で背を隠すように立たされていた。戻ってきてからも、そのまま放置されていたのだ。
「あ、やべ!」
トールは慌てて自分のゴーレムの中に入りなおす。移動のドタバタに上手く紛れられてようで、トールが中に入ったことに誰も気が付かなかったようだ。
「トール、急いで。みんな行っちゃうよ」
「すまない。今行く」
トールも無事にゴーレムの中に入ることができ、ゴーレムの背を閉めると起動させる。
ゴーレムは問題なく起動し、トールは一安心した後にナーリャ達の後ろを付いて行った。
「次はトールの番だね」
「おう、任せておけ」
案内人の先導の元、待機所を出て先ほどまでの発表会場を通り過ぎると、廊下へと出る。そのまま進んでいき、一行が案内されたのは説明通りの中庭である。
中庭とは言っても、その広さはかなりものであり、小中学校の校庭ほどあった。
そこにはすでにゴーレムが展示されており、各魔導技師たちはそれぞれ自分のゴーレムの方へと向かっていった。
「えっと、俺たちはどこに行けばいいんだ?」
「ちょっと聞いてくるよ」
ナーリャは近くにいた係員らしき男に尋ねに行く。数度会話を交わしたのち、トール達の元へと戻ってきた。
「わたしたちはあっちの方みたい。ついてきて」
ナーリャは先ほど聞いた方へと歩みを進める。それについていく形で、トール達も自分の場所へと向かっていった。
そうしてたどり着いたのは、簡易的にロープで区切りを作られたスペースである。ほかのスペースでは、その中にゴーレムが飾られていたが、トール達のものには何も飾られていない。
「ああ、ナーリャ様ですか?」
「はい、そうですけど」
その場に着くと、前に立っていた男に声をかけられる。ローブ姿の男で、彼もまた職員なのだろう。
「良かった。あなた様のゴーレムが到着していないんですが、大丈夫なんでしょうか?」
彼はひっきりなしに汗を拭きながら、ナーリャにゴーレムの行方について尋ねる。
ナーリャはトールの方をちらりを見ると、職員にこたえる。
「はい、大丈夫です。今着いたので」
「えっと、どちらでしょう? できれば登録札を付けておきたいのですが」
「これですよ」
ナーリャはトールの事を指さす。
職員の彼は、トールの事を見るとはてなマークを浮かべてナーリャに再度問い直す。
「すみません、ゴーレムなんですけど」
「ですからこれです。この黒鎧のがゴーレムです」
トールはなんだか信じてもらえてないなと思い、張られているロープをまたがって展示スペースへと入り込む。
それを見た職員の男は、なんだか頭を抱えつつも、ナーリャに札を渡してきた。
「あーいいです、はい。ではこれを付けておいてください。どこの誰の物かを表す札になります」
「分かりました」
職員の男は、札を渡すとそそくさと立ち去っていく。
「なんだか信じてもらえてないようですね、トールさん」
「まったく、ゴーレムと言ったら人型に決まっているじゃないか。このフォルムのすばらしさが理解できないだなんて、あの男は解ってないな」
「なに寝ぼけたことを言っているんですか。ほら、さっさとナーリャさんから札をもらって付けてください」
リューナに突っ込まれてトールは釈然としないながらも、ナーリャから札を受け取る。札は本の栞に紐が括り付けられている。その紐をトールは自分のどこに付けるかを悩むと、とりあえずつけやすい指先へと括り付けた。
「なんだか動物園の檻に入れられている感じがするな」
「なに、どうぶつえんって?」
「動物を鑑賞する場所なんだが、まあそれは置いておいて。これじゃあ他のゴーレムを見に行けないな」
トールは内心楽しみにしていたゴーレム鑑賞が出来なさそうだと思い、すこし残念に思っていた。
トールのいる場所からも、馬型、犬型、はては象っぽい何かのようなゴーレムが見える。そして少し離れた先には、人型のものもいた。
それはトールがイメージするゴーレムの形をしていた。岩をつなぎ合わせたように人型をなしており、いかにもファンタジーといった様子である。
「ナーリャ、はここを離れるとまずいか。リューナ、ちょっと行ってあのゴーレムを見てきてくれないか?」
「どれのことです?」
「あの人型のゴーレムだよ。岩で作られているっぽい奴。あれがどういった動作ができるのかとか、ちょっと聞いてきてほしいんだが」
「……ハァ。仕方がありません。ナーリャさん、少し行ってきます。カルンさんとイオンさんも、ナーリャさんの事お願いします」
「分かったよ。気を付けてね」
「分かりました」
「了解っす」
リューナは皆に一言言って、トールが言っていたゴーレムの方へと進んでいく。
それを見送った一同は、始まるまでおしゃべりでもしようとする。しかしそれはできなかった。トールの事を目にした魔導技師たちが、それを見に集まってきたのだ。
「これは……」
「まるで人だな。本当にゴーレムか?」
「先ほどの部屋にいたものじゃないのか?」
最初は数人が見に来て、そのままどんどんと人が集まってくる。
ナーリャ達はその人だかりにもみくちゃにされながら、展示スペースの中に入り何とか人込みから逃げ出す。
「あー苦しかった。トール大人気だね」
「そうだなぁ」
トールはなんでこんなに魔導技師が集まっているのかが理解できていなかった。そんなに変か? とか思っていた。
実際は、人型のゴーレムは今回のコンテストでは2つしか展示されていないためかなり珍しかった。もう一つはトールが先ほど気にしていた、岩でできたゴーレムである。
一方トールの方は、全身鎧の人間にしか見えなかった。ここまで人型にこだわったものは珍しく、またどういった動作までできるのか興味を持たれたのである
「本当にゴーレムなのか? 中に人が入っているだけじゃないのか?」
そのうち、そんな声が響いてくる。
その言葉に、トールはカチンと頭にきた。そんなイカサマをして何の得になるのかという思いと、何より自分の作ったゴーレムがそんなイカサマ扱いされたのが腹が立ったのである。
トールはゴーレムの腕を兜にかけると、それを脱いだ。中からは頭の部分に収められている魔力貯蓄用の魔石が出てくる。
それを見た魔導技師たちからは、おお~と声を上がる。先ほど文句を言っていたものは、バツが悪そうにしていた。
「皆さん、今から貴族様方がいらっしゃいますので、自分の持ち場へとお戻りください!」
魔導技師たちが集まってやいのやいの言っていると、職員から解散の声がかかる。
流石に貴族たちがやってくるとなるとその場にいたらまずいという事で、集まっていた魔導技師たちは解散していった。




