杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト41
暫くの間、出番が来るまでナーリャ達は雑談をしながら待っていた。
ナーリャも待機中資料の読み返しも終えて、他の面々と雑談をしている。若干の現実逃避も混じっているようではあったが。
そうして待っていると、次々と発表者たちが呼ばれていく。戻ってきたものは笑顔でいる者もいれば、落ち込んだ様子の者も見受けられた。
「結構後ろの方なんだな。順番ぐらい教えておいてもらってもいいもんなんだがな」
「そこまで気が回っていないんだと思いますよ。貴族相手ですから、私達に気をまわしていられないのでしょう」
「そんなもんか。まあ、貴族相手に何か粗相があったら問題にもなるからか。まったくなぁ」
学生時代にこういった研究発表の場を経験していたトールは、この進行に少し不満を持っていた。せめて順番ぐらいは事前に教えてほしいと考えていたのである。
「ナーリャ様、リューナ様! 会場までお越しください!」
「あ、はい!」
少しの後、ついにナーリャが呼ばれる。
返事をしたナーリャは急ぎ立ち上がると、トールと資料を片手に持ちつつ扉の方へと進んでいく。
リューナもその後に付いて行き、扉の前に立つとナーリャは一回深呼吸をする。
「大丈夫ですよ、ナーリャさん。練習通りに行きましょう」
リューナに励まされ、ナーリャは一回頷くと扉を開けた。
中は通ってきた時と変わらない内装であるが、そこには多くの貴族と思われる人達が席へと座っている。もちろんアトラとクリシュの姿もあった。
トールが他に知っている人間では王子であるディベルシオンが中央に座っており、その横にアトラとクリシュ、反対側にはレステ家の長女であるローザディエが座っている。しかし先日の社交会で姿を見たレステ家の長男、オンヘルックの姿は見えなかった。
他は壁際に沿って騎士と思われる人々が所せましと立っており、その中にぺルラやロカームの姿も見えた。
「よし!」
ナーリャは小さく掛け声をかけ、中へと進んでいく。途中クリシュが笑顔でナーリャに小さく手を振っていた。
一段部屋の前方に設けられた壇上へと上がると、貴族たちに向かって一礼をした。
「今壇上に上がりましたのは、ダナン侯爵家様ご推薦の魔導技師です。今回は新作のランプについてという事になります」
ナーリャが壇上に上がると、司会者がナーリャについて簡単に説明をする。そして一言ナーリャに、どうぞと言って下がっていった。
「国王陛下並びに王子殿下、貴族の皆々様、本日はこのような場を設けて下さり、誠にありがとうございます。わたしの名はナーリャ。ダナン城塞都市にて『流れる羽』と言います魔道具店の店主をさせて頂いており、本日はダナン侯爵家様より、お話を受け参上した次第であります。では、わたしの作成しました魔道具、ランプについてお話させていただきます」
意外と若い女が出てきたことにより、一部の貴族たちは小さく笑いを浮かべている。
その顔覚えたぞ、と内心トールが憤っていると、ナーリャはリューナに目線で合図をする。受けたリューナは壇上にすでに用意されていた魔道具のランプを持ち上げた。
「今回わたしが制作しましたのが、こちらのランプとなります。見た目今までのものと同様ですが、その光量を増幅させることに成功いたしました」
アシスタントに徹しているリューナが、ランプを起動させる。その中に浮かび上がった光は白く、その明るさを徐々に大きくしていった。
それを見た貴族たちから、感嘆の声が漏れる。従来のランプと比較して、その明るさは段違いであったためだ。
「このように従来の火の属性、もしくは火そのものを用いたランプとは異なり、白い光を発します。これは現状研究中ではありますが、特別な火がこの中で発生しているものと考えています」
本当は光の属性を用いているため、光そのものを出しているのであるが、光属性は一般には知られておらず、またこの場で言うと異端者扱いされかねないことから、話し合った結果こういう言い訳を考えていたのである。
「またこの特殊な明かりは、熱をほとんど発生させることがありません。たとえ落として割れたとしても、他に燃え移るといったこともなく、純粋に明かりとして扱えます。そして魔力をさらに込めることで、その光はまだ増大することができるのです。リューナちゃん、お願い」
「分かりました。皆さまには、これからこのランプの最大まで明るくした状態を見て頂きたいを思います。ご面倒をお掛け致しますが、眩しすぎたりする場合がございますので、ご注意願います」
ランプを持っているリューナは、それにさらに魔力をこめる。陽の入ってきている部屋で、すでにその明るさを主張していたランプは、さらにそれを増大させていく。その明るさは、見ている者をしかめ面にさせるに十分であった。
リューナは貴族達の反応を見て、一旦光量を増加させたランプを次第に元の明るさへと戻していく。
「御覧頂きました通り、このランプの光量は従来のものと比較してもその明るさは大きいものだと自負しております。今はランプの形状をしておりますが、他の形状、例えばもっと大きなものとして作れば、その明るさもさらに大きくできるものだと考えております。その他の特徴といたしましては、消費する魔力の大きさは今までのランプと大差ないことです。少ない魔力で大きな明るさを発することができます」
ここまでで大体7,8分といったところである。ナーリャもゆっくりと話をし、聞き取り安さを重視している。
「さらに、先ほどお見せしました通り、このランプは明るさの調整が楽に行えます。従来のランプですと、火を明るさとしているので、調整に失敗すると最悪ランプ自体が燃え上がるということがあります。しかしこれですと熱を発しないことから、たとえ誤って最大にしたとしても燃え上がるといったことはありません」
意外と魔道具のランプでこの事象が多いのだという。開発された当初は魔力を込めただけ火が強くなるといったものもあったのだとか。
最近のものは魔石を用いた一定出力のものが主流であるので、安全を考慮されていると言っていいだろう。と、リューナの受けおりをトールは思い返していた。
「最後になりますが、本魔道具のランプの特徴としては、光量が従来のものより多く出せる。明るさの調整が容易である。熱をほとんど発せず、安全性が高い。この3点となります。以上で発表を終えさせていただきます。ご清聴ありがとうございました」
ナーリャはそういうと、深々とお辞儀をする。そうして頭を下げていると、少し後貴族たちから拍手が送られてくる。
発表を終えたナーリャは、少し笑顔となって頭を上げる。ようやく終えた解放感に包まれているのだろう。
ナーリャが再度お辞儀をして、そのまま退出しようとすると、司会者が壇上へと上がってきた。
「では、何かご不明の点がございましたら、御聞き下さいますようお願いいたします」
発表後の質疑応答のアナウンスである。
通常こういった発表の場では当たり前に行われていることであり、トールもまたこれからが面倒なんだよなと考えていた。
しかし当のナーリャは、慌てた顔をしてトールの宝玉部を自分の顔付近まで持ち上げる。
「トール! トール! これってなに!?」
小さな声でトールに呼びかけるナーリャ。トールは一体ナーリャが何を聞いているのか理解できなかった。
「なにって、質疑応答の時間だろ? 発表が終わったらこういった質疑応答があるだろうさ」
「質疑応答? 何か聞かれたら答えなきゃいけないの!? そんなの練習してないよ~」
うげ、とトール思わず小さく口にしてしまった。
実のところトールはナーリャの練習に関しては、クリシュの社交への同行があったためあまり参加していなかった。他のメンツに任せっきりだったのだ。
しかし質疑応答と言うものは、一般的にも当たり前だと思っていたため、その辺を全然確認してこなかったのである。
トールはリューナの方をちらりと見ると、彼女もまた少し同様しているようであった。学院で慣れているとはいっても、まだまだ16歳の彼女も抜けがあったようである。
「では、私の方からいいかな?」
「ハ、ハイ!」
そういったのは、この国の王子であるディベルシオンであった。
ナーリャは直立不動の姿勢を取ると、ディベルシオンに向かって礼をする。
「このランプって、どういった原理なのかな? 普通の火を使わずに明かりを作れるんだっけ?」
「は、はい! わたし達は普通の火ではないと考えています。従来の火であればどうしても熱を持つのですが、その熱もないのですからです」
若干怪しい口調で答えるナーリャ。
そんなナーリャとみて、ディベルシオンは少し笑いながらも質問をつづけた。
「そうか。どういった火なのかは、まだわからないのかな?」
「そ、その通りです! まだ原理がつかめておらず、またおなじ魔法の知見も得られていないことから、不明となっております」
「なるほど。良く分かったよ、有難う」
「は、はい!」
背筋をピンと伸ばしながら、ナーリャは王子の質問に答える。それに満足したのか、王子からも質問を終える。
他にも幾人かの貴族からの質問に対して、ナーリャは何とか答えていく。そして質問が途絶えたところで、司会者からの一言があった。
「では以上で終了とさせていただきます。ご清聴ありがとうございました」
その司会者の一言で、ナーリャはゆっくりと待機室へと戻っていく。その様子は来た時よりも緊張した面持ちをしていた。
「ふぇぇ。ようやく終わったよ~」
ナーリャは待機室の自分が座っていた席に戻ると、一気に崩れ落ちる。
「おつかれさんっす、ナーリャ」
「お疲れ様、ナーリャさん」
「ありがとう、カルンちゃん、イオンちゃん」
席に戻ると、カルンとイオンの出迎えがあった。
二人もナーリャの表情から無事にに終えることができたとみて、慰労の言葉をかける。
「本当にお疲れさまでした、ナーリャさん。まさか最後にあんな質問の時間があるとは」
リューナもまた、ナーリャにねぎらいの言葉をかけつつ、自分の座っていた席に着く。
そうして終えた安心感からのナーリャの感想を皆で聞きつつ、トールは質疑応答についてまったく話をしていなかったことは黙っておこうと心に決めていた。




