杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト40
インテルムが去った後は誰が来るわけでもなく、トール達はそれぞれ行動していた。
ナーリャとリューナは試験前の学生のように、発表資料の確認をし、それを邪魔しないようにトールとカルン、イオンは少し離れて話をしている。
「トールさんは大丈夫なんですか?」
「ん? 発表のことか? それなら、まあ頭の中に入っているからな。何とかなるだろうさ」
前世である程度経験を積んでいるトールは、結構気楽に考えていた。
これは当人の感覚的なものもあるのだろうが、設計者時代より緊張していない。デザインレビューなどの前日はかなりの緊張感をもっていたのだが、今回のはかなり気楽に考えている。
おそらくそれは、自分以上に緊張しているナーリャを見ているせいだろう、とあたりを付けていた。自分よりテンパっている人を見ると、自分は意外と落ち着くものなのである。
「杖の兄さんって、なんか変っすよね?」
「いきなり失礼だな、カルン」
「だって、あたいはこういったのって良く分かんないっすけど、杖の兄さんはなんか手馴れているっぽいっすもん」
結構鋭いな、とトールは思った。
いつもあまり考えていない風のカルンであるが、時々鋭いことを言う。勘が働くというか、本能的なもので察することがある。
ナーリャの発表練習の時も、ほとんど専門外にもかかわらず、鋭い意見をいう時があった。
「まあ、いろいろとあるんだよ、俺にも」
「杖なのにっすか? やっぱ変な兄さんっすよ」
ケタケタとカルンは指をトールにさして笑う。
それをイオンに静かに、と怒られ、カルンはショボンとしていた。
「発表者の皆さま、お待たせいたしました。会場の方までお運びください」
ナーリャ達が最終確認を、トール達は雑談をしながら待っていると待機室のドアが開けられ、おそらく職員であろう男からそんな声が聞こえてきた。
その声を皮切りに、この部屋で待っていた者達は一斉に立ち上がり、ぞろぞろと外に出ていく。その後をトール達も付いて行った。外に出ると、他の待機所があったのか別の集団と合流しながら一同は進んでいく。その数は40人を超えていそうである。
途中ナーリャはぶつぶつと何事かを呟き、リューナはそんなナーリャに落ち着いてくださいと言いながらも、発表者達と会場へと向かっていく。
中庭と吹き抜けになっている通路を渡り、その先にある大きな講堂の前へとたどり着いた。
「皆様は発表者席にて、ご自分の発表まで待機をお願いいたします。場所は今からご案内いたします」
中へ入る前に一度大声で伝達があり、その後に講堂の扉が開かれる。
講堂の中はトールが思っていたより狭かった。広さだけであれば先ほどの待機室と同じくらいである。トールの考えだと、もっと広く体育館程度の広さの中行われるのではないかと思っていたため、意外と狭く感じたのである。
数人が立てる大きさの壇上に、聴衆者たちが座るであろう席がその前に並べられている。その距離は目算にして2mといったところか。
「皆様はこちらになります。付いてきてください」
案内の職員に連れられ、発表者たちはその講堂の中を通り過ぎると、その先にある別室へと招かれる。そこにはどこからか持ってきたと思われる椅子が並べられており、結構ぎゅうぎゅう詰めである。
「皆様はこちらより合図がありましたら、先ほどの扉より中へとお進みください。そして発表が終えられましたら、またこちらの部屋へと戻っていただくこととなります」
そういうと、案内役の職員はさっそうと部屋を出て行ってしまった。
残された者たちから、この部屋の狭さと扱いに文句が出ているのがトールの耳に入ってきた。
「とりあえず少しでも楽な場所を取りましょう」
リューナの提案に、異論はなかった他の面々は一番後ろの端の席を確保する。
トールはその図体が大きかったため、その横で立っていることとなった。
「それにしても、この感じだと他の発表は見れないのかもしれないな」
「そうですね。技術交換を目的としたものではないのでしょう。要は貴族様に、ひいては王族の方々に見せることが主眼なのでしょうね。私達は二の次といったところでしょう」
「わたしもちょっと他の人の発表みたかったなぁ」
「あたいは別にいいっすけどね。堂々と寝てられるっす」
「カルンちゃん、私達は護衛なんだから、寝てちゃだめだよ」
それぞれ好き勝手に話をしていると外の部屋、先ほど通ってきた講堂が騒がしくなる。貴族たちが入ってきたようだった。
「来たみたいだな。後は順番待ちか。ナーリャ、大丈夫か?」
「うん、任せて。ここまで来たら、後はやってやるだけだよ」
トールの心配する声に、ナーリャは元気に答える。ちょっと手は震えていたが。
「では、アーガルンド様とその助手の方々お入りください」
部屋の入口の方から、そんなアナウンスが飛んでくる。
それに反応した数人が席から立ち上がり、そのまま入って生きた扉の奥へと進んでいった。
「始まったみたいだな。何とか見れないものかな」
「あきらめましょう。それより、これだとナーリャさんの発表もトールさんは見れませんよ」
先ほど呼ばれたのはおそらく発表者とその助手であった。
ナーリャの場合はリューナが付いていくとして、カルンとイオンはさすがについてはいけないだろう。そして全身鎧に身を包んだ大男風のトールもである。
「げ、そうか。そうしたら杖の形で出ていくか。リューナ、ちょっと手伝ってくれ」
トールはそういうと、壁を背に立つ。
そして見えないようにゴーレムの背を開くと、本体である杖を固定している固定具を外す。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
リューナは慌てて小さく叫ぶと、立ち上がってトールのゴーレムの背の方へと回り込む。
そしてトールが収められている所に手を伸ばして、トールの事をひっつかんで取り出した。
「有難うな。さて、閉じろ」
トールはゴーレムの開いていた背の部分を閉じると、そのままおとなしくリューナに運ばれる。リューナはトールを持った状態で、自分の座っていた席に戻っていった。
「トールさん、少しは物事を考えてから行動してください。下手にみられていたらどうするんですか」
「いや、すまない。リューナならすぐに反応してくれると思ってな」
「まったく」
幸いにも、特に周りに気が付かれるといったこともなかったようである。いや、一人だけトールの方を見ていた男がいたが。
「まあ、これで俺も一緒にいけるだろう」
「そうですね、だけれどトールさんは別に一緒に来なくてもよかったんですよ。私とナーリャさんだけでも」
「そう寂しい事言うなよ。俺だって見てみたかったんだし。さすがに覗くわけにもいかないだろう?」
トールはドアの隙間から一人の全身鎧の男が、少女たちの発表しているのを覗いている姿を思い浮かべる。十分事案である。
トールは、ふとドアの方を見る。すると一人の男が発表中の中を覗こうとしているのが見えた。インテルムである。
彼はしゃがみ込み、ドアの隙間より中を覗こうとしており、その姿は変質者のそれとしか見えない。それを慌てて護衛らしき男が止めに入り、インテルムはそれに抵抗していた。
「俺にああなっても良いと言うのか」
「いや、さすがにあれは嫌ですが」
トール達だけでなく、他の発表者たちもインテルムの姿を見てげんなりとしている。
インテルムは少しの抵抗の後、騎士風の男に引きずられて自分の席へと戻っていく。そして少しでも動きがあると、すぐさま騎士風の男に取り押さえられていた。
「すごい兄さんっすね。根性あるっすよ」
「そういう問題じゃないと思うよ、カルンちゃん」
カルンは楽しそうにインテルムを褒め、それにイオンが突っ込みを入れていた。




