杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト39
「さてと、ローブは帰ってから拵えるとして、他の人たちはどこ所属なんだ?」
ここにいる魔導技師たちは、先ほど説明にあった赤地に黒刺繍のラクテウス商会、白地に青刺繍の学院関係者とみられる者たちのほかにも存在している。
リューナが着込んでいるような茶色地のローブに青地のローブ。真っ黒なローブ姿に真っ白で刺繍もないローブ姿。
トールが見た限りでは、他にもいるようであった。
「彼らは無所属、もしくは私が知らないどこかの所属でしょう。学院を卒業したものは、多くはラクテウス商会に引き抜かれていきますが、もちろん他の道を選択する者もいます。貴族に雇われる者。別の商会に雇われる者。個人で活動する者。道は多様ですね。他にも学院で学ばず、独自に研究を行っている者もいるでしょう。ナーリャさんみたいにですね。ただナーリャさんのように店を開いている人は結構少ないのですが」
ナーリャのように個人店を経営している魔導技術者であるというものは、存外すくない。ラクテウス商会のような商会に雇われる者や、貴族の庇護下、ひいては国に雇われたり援助を受けたりする者が大半である。それもこれもお金稼ぐ時間があるなら、研究に没頭したいということである。
「そういえば、今学院ってどんな研究をしているんだ?」
ふと、トールはそう疑問に思った。自分たちの事だけで、あまり他の魔導技術者の事を聞いてこなかった気がしていた。
「私がいた時の知っている範囲では、ゴーレム研究に各種素材の魔力属性の探査。他にも混合陣による制作物の研究や呪文の記号化などが主ですね」
「こんごうじん?」
トールには聞いたことのない名称であった。
「混合陣。私達がプラーミァやペリエ薬といったものを作るときに使用する魔法陣です。簡単に言うと、魔力を込めて素材を混ぜ合わせることができるものです。これらは適切な魔力を用い、適切な素材を適切な割合で混合することで、新たな効果を持つ物を制作することができます。その、適切な素材、適切な配合を研究している、という訳ですね」
「ああ、そういう事か。プラーミァもかなりの威力があったし、ペリエ薬もすごい効果だったが、やっぱり魔力が関係しているのな」
「そうだよ。一般的には、その素材が持つ効力同士が互いを高めあって、そこに魔力を込めることでさらに効果が上がるんじゃないかって言われているんだ」
と、そこで待機所のドアが開かれる。新たに参加者がやってきたようであった。
トールが視線を向けると、そこには煤けた白のローブを纏ったものが入ってくる。顔つきはローブで覆っていて見えないが、猫背でひょろっとした体格が見て取れた。
その男はキョロキョロとあたりを見回し、トールの方を見た途端早歩きでやってきた。
「おや。おやおやおやおや。素晴らしい。こんなゴーレム見た事が無い。魔力配分もさることながら、待機魔力がここまで少ないとは。一体どういう構造をしているのやら。そして二足歩行。素晴らしい出来ですなぁ」
トールの事をあっさりゴーレムと見破ると、その男は興奮した様子で一気に語り始める。
手をわしゃわしゃと動かしながら、上へ下へとその視点をかえて、トールの全身をなめ回すかの如く見ている。
その様子に、鳥肌が立つ思いをしたトールは、とりあえず誰なのかを聞くことにした。
「すまないが、あなたは誰だ?」
「おっと、これは失礼おば」
男は座り込んでトールのゴーレムを食い入るように見ていたが、声をかけられたことで立ち上がると尻についていたホコリを落とす。
「わたくしの名はインテルム。インテルム・ダードゴンと申します。以後、お見知りおきを。と、今どなたでしたかな? ここには女性しかいらっしゃらないようですが」
インテルムと名乗った男は頭を下げ挨拶をした後、キョロキョロとあたりを見回す。
「話しかけたのは俺だが」
そのインテルムの様子に、トールはとりあえず声をかける。
「おお? おお! 今のはゴーレムですかな!?」
「そうだけど……」
「なんと! 話せるのですか!? いや、中に人が入っているという可能性も。しかしこの波長はゴーレム特有のもの。という事は、やはりゴーレムがしゃべっていることになりますねぇ。素晴らしい! ぜひともわたくしとおしゃべりをば!」
テンション最高潮とでもいうべきか、インテルムはトールのゴーレムに顔を近づけると、またしても観察し始める。
その全身くまなく見始めたインテルムに、トールは得も知れぬ恐怖を感じたため、一歩下がる。
「落ち着け。そして近い」
「おっと、失礼をば。つい興奮してしまいました」
インテルムも一歩下がり、謝罪を口にする。そして彼は自分の白く煤けたローブのフードを取り払った。
彼の顔つきは、その印象とたがわぬものであった。頬は若干コケており、その顔色も少し青い。しかしその瞳には強い意志が感じられ、その目でトールの事を見ている。
「それで、あなた様は中に人が入っておられるのですかな? それとも……」
「中に人は入っていない。まあ、別の物が入っているがな」
「ほうほうほう。それは一体なんでございましょうか? こうして話ができる魔道具? いやいや、それは考えたこともありませんでしたな。ゴーレム自体にその機能は無く、別の物を組み込んでいる、という事ですかな。思考し、ゴーレムにその動作を伝達。素晴らしい!」
段々とインテルムの声が大きくなるにつれて、周囲の注目も集まってくる。
「そのあたりは秘密だ。それと声が大きい。もう少し小さく話してくれないか」
「おっと、これは失礼。いけませんね、つい興奮してしまって。これはわたくしの悪い癖です」
インテルムはニヤリ、といった感じで笑みを浮かべる。それは嫌味たらしいものではなく、トールは不快感を感じられなかった。
「えっと、あの?」
ガンガン話しかけてくるインテルムに、押されていたナーリャは、意を決して声をだす。
「おや、お嬢さん。勝手な真似をしてすみませんでした。あなたが彼のマスターですかな?」
「あ、はい。正確にはわたしと、こっちのリューナちゃんですけど」
「そうでしたか。改めましてインテルム・ダードゴンと申します」
「わたしはナーリャと言います。こっちはリューナちゃんです」
「こんにちは。リューナと申します」
改めて挨拶され、ナーリャとリューナは自己紹介をする。
それに返答するかのように、インテルムは頭を下げた。
「ご丁寧にどうもありがとうございます。それでは、あなたが彼を作り出したのですか?」
「えっと、それは……」
ナーリャはどう答えたものかと悩む。このゴーレムはトールが作り出した物であるが、それを素直に答えてよい物かという考えと、話せる杖が作りましたと言って信じてもらえるかとも思ったからである。
「そのあたりはコンテストの場でお話するつもりですが、あなたも参加者なんですよね?」
そこでリューナが助け舟を出す。
リューナとしてはどうせコンテスト前にアトラに説明してもらうことで、今話しても問題ないと思ってはいたが、ここでまた騒がれても面倒だと思ったのである。
「おっと、その通りです。いやはや、お金を出してもらっているのは助かるのですが、こういった催しものに出されるとなると、面倒で仕方がないですね。おっと、わたくしが言っていたことは内緒にしておいてください」
その台詞を聞いて、トールはああ、と納得した。この人間はまれにいるタイプだと。
技術者の中には、研究だけをしていたいと思う者は多くいる。しかし実際には組織で働いている以上不可能な場合が多い。年月が経てば、それだけ部下が出来て面倒を見なければならなくなる。しかしてそれでも、それを貫き通そうとする人がいる。いうなれば管理職なんて絶対にお断りだという人間である。
「ただまあ、いろいろな技術者の発想を見られるのは面白いですが。今ここで彼に会えただけでも、わたくしとしては十分収穫ではありました。この後の本番も楽しみになってまいりましたし」
インテルムは話をしている間、落ち着きなく指を動かしている。
「インテルム殿、そのあたりで」
すると、インテルムの後ろから声が掛けられる。
声をかけてきた男性は、金属鎧を着こんでおり一見すると騎士のように見えた。
トール達は気が付いていなかったが、インテルムがこの待機所に入ってきたあとに来た者である。
「そろそろ席の方に」
「おや、そうですか。仕方がありませんね。パトロン殿のお目付け役には従いましょう。では皆様、失礼します」
またもキョロキョロとあたりを見回した後、来た時と同様に少し早歩きでインテルムは前の方の離れた席へと向かって歩いていく。
声をかけた男性もまた、トール達を一瞥した後その後を追った。
「なんだったんだ、あれは」
「さぁ、なんだったんだろうね?」
いきなりやってきて、あっさりと去っていた男の後ろ姿を見ながら、トール達は首をかしげていた。




