杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト38
部屋の外へと出た2人と1本は、メイドに連れられて玄関へとたどり着く。そこにはすでにアトラとクリシュにぺルラ、カルンとイオンが待っていた。
「来たようだね。では出発としようか……とも思ったんだが、トール君はその姿でいくのかい?」
「ええ。向こうで取り出すのもまずいですし、この姿で向かいたいと思うのですが」
「それもそうか。いやぁ、君たちと一緒にいたからか、常識というものを忘れかけていたよ」
ゴーレムを収納している空間拡張バッグを、コンテスト会場で使用するわけにはいかない。そのためゴーレム姿で向かおうとするトールであったが、そのことについてアトラもすっかり忘れていたようだった。
「その姿じゃあ馬車には入れないから、歩きになる。構わないかな?」
「もちろんです」
「そうかい。それじゃトール君は歩きで。後は我々とカルン君とイオン君も一緒に乗っていくか。では出発しよう」
その言葉で全員が行動をし始める。
アトラの宣言通り、アトラ、クリシュ、ぺルラ、ナーリャ、リューナ、カルン、イオンの六人が乗り込む。トールは先ほど言った通り、外で歩きとなる。
馬車は青を基調とした色で彩られており、その中心には紋章が描かれている。ダナン侯爵家のものだ。
馬車は全員が乗り込むと、アトラの合図でゆっくりと進み始める。その脇には幾人かの騎士と、トールが付き従う。
屋敷の従者達のお辞儀で見送られた馬車は、コンテストの学院へ向かって進み始めた。
「トール殿」
トールが歩いていると、声をかけられた。王都初日にともに買い物へと出向いた初老の騎士ロカームである。
「ロカームさん。あなたもご一緒だったのですね」
「私はアトランクス様の護衛も兼ねてですな。それと、先日は申し訳ございませんでした」
ロカームは歩きながらも、トールへ頭を下げる。先日、というのは王都へ買い物に出かけた際のことである。ナーリャが命を狙われたとき、ロカームは憲兵に連れられてその場に居合わせることができなかったのである。
「よしてください。あの時ロカームさんに、憲兵について行ってくれと言ったのは私です。ロカームさんの責任ではありません」
トールとしては、頭を下げられる方が困ってしまう。そもそも憲兵に付いて行くようロカームにお願いをしたのはトールであったからである。それも貴族に恩が売れるかもと思っていたころもあって、罪悪感が湧き上がってくる。
「そういって貰えると有難いですな。しかしその判断をしたのは私ですからな。トール殿にそれを押し付けるのも、おかしな話ですぞ」
トールはゴリゴリと罪悪感が上がっていくのを感じる。その場の思いつきであり、そのせいでロカームが罪悪感を感じているという事に。
トールは体を持っていたら全身に汗をかいているだろうなぁと思った。
「いえ、それこそ私が余計な事を言わなければ良かったことです。あの時素直に頼ればよかったんです」
「はっはっは。では互いに次は気を付けましょうぞ。次がありますからな」
そう、次がある。それは先の件は幸い何事もなく済んだという意味であり、もう一度襲撃があるかもしれないという意味でもあった。
「ええ、今回もよろしくお願いします。彼女らも久しぶりの外ですから、少しはしゃぐかもしれませんしね」
「お任せ下され」
トール達が話をしていると、馬車は貴族街を抜けて、歓楽街へと出る。学院はこの先である。
歓楽街へと馬車が出ると、路上にいた人々はその存在に気が付くと同時に道を開ける。
馬車も通るよう考えられて作られている道路であるため、道幅はかなり広かったが、それでも騎士等の護衛を連れてとなるとかなりの幅と取っていた。
そして道端に避けた人々は、馬車が自分の傍を通るときに頭を下げている。
「やはり貴族様ですかね」
「そうですな。今回は大きな紋章付きの馬車でありますから、民たちは敬意をもっていますな」
ロカームの話だと、普段使いの馬車は紋章が大々的には描かれていないそうだ。アトラが注目を集めるのが好きではないためだという。
今回はさすがに王家主催のコンテスト参加というのもあって、一番堂々とした馬車を選んだという事だ。
「馬車にもいろいろとあるんですねぇ」
「その通りですぞ」
そうした小話をしつつトール達は馬車に付いて行く。
そうして10分ほど歩いたあたりであろうか、視界の先に大きな門が見えてくる。門の横にはこちらの世界で『王立魔術研究所』『王立魔術学院』と書かれた銘板が備え付けられており、さらにその下にすこし綺麗な『王立魔導技術研究所』『王立魔導技術学院』という銘板があった。
トールはそれを見て、ここが学院かと認識する。リューナが通っていた学校であり、今回のコンテストの会場でもある。
ナーリャ達が乗る馬車が門の近くまでたどり着くと、門番に馬車内から二三言ぺルラがなにかを告げたのち、門が開けれていく。
馬車の案内役が付き、その人が先導して馬車を誘導する。このあたりは王城での社交の時とあまり変わらない。
そうして馬車置き場までたどり着くと、中にいた面々が降りてくる。
最初はぺルラ。次にカルンとイオンが降りて、そしてナーリャとリューナが降りる。クリシュがぺルラに支えられて降りた後には、ゆっくりとアトラが降りてきた。
「アトランクス・ダナン様、クリシュタール・ダナン様。ようこそ学院へおいで下さいました。開催まで少々時間が御座いますので、まずは休憩室までご案内申し上げます」
「ご苦労。任せる」
おそらく教員であろう、ローブをまとった男がアトラの前へと進み出た。彼はアトラとクリシュに挨拶をしたのちに、案内を始める。
それについて行こうとしたナーリャとリューナであったが、それは別の人に止められた。
「今回発表者様に関しましては、別室をご用意しております」
ナーリャはアトラの方へと、確認のため一度視線を送る。アトラはそれに頷き返した。
「分かりました。案内よろしくお願いします」
ナーリャとリューナはその案内人にお願いする。そしてその後ろにカルンとイオン、そしてトールがその後ろを付いて行こうとした。しかし、それもまた止められる。
「申し訳ございませんが、護衛の方も別室にて……」
「それは困るな」
トール達を止めた男に、アトラは声をかけた。
「彼女たちは我がダナン家にとっても、重要な人材なのだよ。それを護衛無しで行かせるというのは承認できないな」
「しかし、規則で御座いますので……」
「なんだい? ダナン家の護衛達が、他の出場者を脅かすとでも?」
「い、いえ! 決してそのような……」
少し気の弱そうなローブをまとった男は、アトラの言葉にたじたじで答える。
ちょっとかわいそうだなと感じるトールではあったが、ナーリャ達に何かあってからでは遅いからなと、口を閉じている。口はないが。
「わ、わかりました。護衛の方々と共にお進みください」
「すまないね。という事だから、よろしく頼んだよ、君たち」
アトラはカルンとイオンに向かってウィンクすると、クリシュやぺルラ、それに他の護衛の騎士たちを引き連れてそのまま案内人の先導のもと、休憩室へと向かていった。
ナーリャ達もまた、別の案内人に連れられて待機所まで進んでいった。
馬車置き場から一つの建物に案内される。石作りでかなりの広さを持った建物である。高さはそれほどなく、おそらく2階立てであるが、それでもその広さは立派なのものであった。
中に入り、石畳みの上にひかれたカーペットの上を歩き、休憩所まで案内されている途中、トールはちらちらを視線を感じていた。通り過ぎた数人からは驚いた様子で声を上げられることもあった。
トールな内心、今回は杖が飛んでいるわけじゃないんだから、そんなに驚くことないよねぁ、などと考えていたが、普通黒いフルプレートの大男が、研究所も兼ねている学院にいれば誰でも驚くというものだろう。
そうしてのんきな事をトールが考えていると、発表者たちの待機所までたどり着いた。
「こちらになります。開始時刻になりましたら、再度ご案内いたします」
ナーリャとリューナは促されるまま中へと入っていく。その後ろにカルンとイオン、そしてトールも続いて行った。
その中はトールが知る、いわゆる大学の講義室のようであった。前方には黒板、そしてそれを中心として段々と高くなりなりながら、机が設置されている。
そうした中、ローブ姿の男女が20人以上、思い思いの席に座っていた。着ているのはほぼ全員がローブであり、その色は多種多様である。一部刺繍をしている者もいたが、そのほとんどが無地であった。
「ローブにある刺繍も見ると、数人はラクテウス商会の人間でしょう。他にも学院関係者も見受けられます。あとはフリーの方でしょうね」
リューナは周りにいる人たちの予想をしながら、ナーリャと共に設けられている座席の端に座る。その横でカルンとイオン、そしてトールは座らずにいた。
「ラクテウス商会って、王都の最大手の商会だったよな」
「そうです。初日に行った店もラクテウス商会のところですね。王都に住む貴族たちは、あそことのつながりもあるでしょうから、それらの伝手を使って依頼したものと考えられます。後は学院関係者ですね。こちらも同様、王都在住の貴族に依頼されたのでしょう」
トールが見回すと、白地に刺繍が入ったローブを纏っているのが数人見受けられる。リューナと同じである。
他の刺繍を入れている者たちは、赤地に黒色で刺繍をされている者たちである。こちらがラクテウス商会の者だろう。
「ローブはその人の所属を表すものです。有名どころは一目はわかりますね」
リューナはちょっと得意そうに説明する。
「なるほど。そうすると、今回リューナがいつものローブではなくて、ナーリャに借りたローブを纏ったのも……」
「下手に学院関係者と思われるのが嫌だったからですね。勝手に代表面しては、いい気もされないでしょうし。それに私は、半追放状態ですからね」
そう言ったリューナの表情は、少し寂しげなものではあったが、トールの眼からは悲観した様子は見られなかった。何かしら自身の中でケリが付いているのだろう。
「そうすると、リューナにも新しいローブを作らなくちゃだな。そうだろ? 『流れる羽』店長さん?」
「もちろん! 今度一緒に生地を買いに行こうね、リューナちゃん」
トールの問いかけに笑顔で答えるナーリャ。それを見たリューナもまた笑顔になってはい、と答えた。




