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杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト37

 

 バタバタと二人が部屋の中を走り回っていると、朝食の準備ができたことを告げる知らせがきたため、とりあえず二人は追いかけっこをやめた。


「ハァ、ハァ。とりあえず、あとで、お話があります」


「ハァ、ハァ。うう、ゴメンってば」


 息を荒げながらもナーリャを睨んだままのリューナに、ナーリャは降参とばかりに謝る。

 その後息を整えた二人は、部屋から出て食堂へと向かっていく。今日はカルンとイオンは途中で会わず、食堂の中に入ると、すでに二人は席についており、他にもクリシュとぺルラ、そしてアトラの姿があった。


「やあ、おはよう。これでそろったかな」


「すみません、お待たせしました」


 ナーリャとリューナも席に着き、トールはいつものポジションである二人の間に陣取る。

 アトラは二人が席に着いたのを確認すると、手を二回たたく。するとすぐさまメイドたちによって料理が運ばれてきた。


「さて、それでは今日が本番のコンテストだ。準備は大丈夫かな?」


「はい、大丈夫です」


 今日の朝食は、パンと白いスープ、それとサラダである。さすがにいつかのような大量の料理は運ばれてこない。

 それらを歓談を交えながら取り始める。相変わらずカルンは多くお代わりをし、リューナも量は多くないが、美味しそうに食べていた。


「一応おさらいしておこう。この後、昼前には出発の予定だ。到着後まずは魔道具のコンテスト。私達はランプだね。この発表がある。そしてその後は、ゴーレムの発表となる。こちらの方はトール君にお任せしてよかったんだよね?」


「はい、お願いします」


 杖であるトールが発表するにあたって、一言アトラに発言してもらう予定である。何かしらのいちゃもんを付けられないためだ。


「うん、任せておいて。そしてその後は昼食会となり、それで解散の予定だ。同行者は私とクリシュ、ナーリャ君とリューナ君。護衛にぺルラと、カルン君とイオン君にも来てもらうこととする。個人で雇った護衛だけれど、まあ特例みたいなものだよ」


 実は少し前に話題になっていた。カルンとイオンを連れて行けるのかどうかが。

 二人はあくまでナーリャとリューナが個人的に雇ったものであり、それを貴族達があつまるコンテストに出席させて問題ないかということである。

 そこでアトラは臨時にダナン家が雇った護衛という事にし、参加するに問題を無くした訳である。


「はい、分かりました」


「了解っす」


 イオンとカルンはそれぞれアトラへと返事をする。


「基本的には二人にはナーリャ君とリューナ君に付き従ってもらう。ぺルラは基本クリシュにだね。私もほとんど一緒にいることになるだろうからね」


「はっ、承知しました」


 ぺルラは腕を胸に当てて答える。


「よろしくね、ぺルラ」


「もちろんです、お嬢様」


 クリシュはぺルラに視線を向けると、笑顔でぺルラに話しかける。ぺルラもまたそれに笑顔で答えていた。


「さてと、それじゃあ出発まで少し時間があるから、朝食を食べ終えたらそれまで部屋で待機していてくれ。時刻になったら呼びに行かせるから。では、少しやることがあるから、私はこれで失礼するよ」


 話している間も食事を器用に取り続けていたアトラは、いつの間にか食事を取り終えていたようだった。目の前の食器は綺麗になっている。

 そうしてアトラが部屋と退室すると、残された者たちはおしゃべりをしながら朝食をつづけた。


「そういえばクリシュ様、一つお伺いしてもいいですか?」


「はい、なんでしょう?」


 トールは丁度いい機会だと思い、一つ疑問に思っていたことを聞くことにする。


「社交会で立食式のパーティーで歓談なんかしていましたが、ダンスとかはしないんですか?」


「ダンス、ですか?」


 トールの知識だと、ああいった貴族の社交の場というものはダンスが付き物だと思っていた。しかしクリシュに付き従って参加した社交会ではそういったことは一度も行われていなかったのである。

 当初は貴族の階級によって行ったり行われなかったりするものかと考えていたが、昨日の王家主催のものでも行われなかったので、少し気になっていたのだ。


「そうですね。特にそういった催しは通常開かれないと思います。私もそう多く参加したこともないので、あまり詳しくはないのですが」


「ああ、そうだったんですね。すみません、変なことを聞いて」


 トールはこの世界での常識では、そういうものなのだろうと納得して宝玉部を揺らしている。そのしぐさを、リューナはじっと見つめていた。


「ごちそうさまでした」


 その横では丁度ナーリャは朝食を取り終え、手を合わせる。それを皮切りにして皆もそれぞれ食事を終えた。

 そして皆はまだ時間があるという事で、部屋へは戻らずにその場で食後のお茶会となだれ込んでいた。


「明日には王都を出発するんですよね?」


「はい。これで皆様とお別れするのも寂しいのですけれども」


「大丈夫っすよ、クリシュ様。ダナンに戻ってもいつでも会えるっすから」


「それに、ダナンまでの道程もありますから。もう数日はご一緒させていただきます」


 お茶を楽しみながら会話を続ける少女たち。最初は食後のお茶菓子をクリシュが用意しようとしていたが、それをリューナとイオンが必死になって止めていた。

 トールは少女たちの会話には参加せず、少し離れてそれを見守っている。見守っているというと聞こえはいいが、要は年頃の女の子の会話に入っていけていないだけだが。

 そうして暫くの間お茶と会話を楽しんだ後、それぞれの準備があるという事で解散となった。クリシュはぺルラと共に自室へと戻り、ナーリャ達もまたメイドに案内されて自分たちの部屋へと戻ってきた。


「さてと、ちょっとお茶で時間を使いすぎたから、少し急いで残りの準備をしないと」


「そうですね。ああ、ナーリャさん、ローブを一着お借りしてもよろしいですか?」


「ん? 別にいいけど、どうしたのリューナちゃん」


 リューナはいつも羽織っている白地に青で刺繍されたローブを畳みながら、ナーリャへとお願いする。それを聞いて、ナーリャは首をかしげながらも自分のバッグをあさり始めた。


「このローブは学院のものですから。これを着たままというのも、ちょっと居づらくて」


 リューナのローブは基本学院生が着ているものである。そしてリューナは、実質学院から追い出された身であった。

 そうした理由があり、そのローブを着ていくことに、躊躇いがあったという訳である。


「そっか。それじゃあちょっと地味かもだけど、これ着て」


 ナーリャは予備の茶色いローブをバッグから取り出すと、それをリューナに手渡した。リューナはそれを広げて少し確認した後に羽織る。


「うん、丁度いいみたいだね」


「ええ、有難う御座います」


 ナーリャもリューナがローブを羽織った姿を確認して、満足そうに頷く。そして自分もまた緑色のローブを羽織った。


「よし、準備完了っと。あとは呼びにくるまで待つだけだけど、トールはもう平気?」


「ちょっと待ってくれ」


 トールは朝食の前に出しっぱなしにしていたゴーレムの中に入り込む。起動用の魔法陣に魔力を込めて、意識をそれに集中する。


「よし、起動完了。あとはいくつか忍ばせてっと」


 ゴーレムの中に入ったトールは、脇腹に備え付けてあった解放口を開けると、その中に小さなバッグをいくつか収納していく。その中には武器類が入っていた。


「こうしておけば、ばれないだろ。もし見られても、ゴーレムの部品の一つです、とでも言っておけばいいしな」


「悪知恵は働きますね、トールさんは」


「別に何事もなければ問題にならないんだから、いいんだよ」


 そうして準備を終えた2人と1本は、出発の声がかかるまでそれぞれ思い思いに過ごす。

 ナーリャとリューナはコンテスト発表の最終確認を、トールもまた資料を読み返してどうゴーレムの紹介をしていくかを頭の中でまとめていく。

 そうして時間が少し経過した後、ドアをノックする音が響いた。


「ナーリャ様、リューナ様、出発のお時間となりました。玄関までお越しください」


「あ、はい。分かりました」


 ナーリャとリューナは資料をバッグへと仕舞い、忘れ物がないか最終確認をする。それを確認し終えると、立ち上がって部屋の外へと出ていった。



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