杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト28
食事を終えた後、アトラは仕事があると言って部屋を出ていき、残された者たちは食後のティータイムへと移った。
そこではコンテストの話に戻して、魔道具のプレゼンについて語り合っていた。
「今回のランプは、基本目新しいものではありませんから、従来のものと比較した内容にした方がいいと思います」
「うん、そうだよね。そうするとやっぱり明るさが重要になってくるよね」
「ほかにも光量の調節なんかも話題にできないか? 従来のランプだと、火を使っていてそこまで出来ないだろう?」
「多少の調整はできるけど、ここまではできないよね。うん、それも話に盛り込もう」
トールとナーリャ、リューナの2人と1本でコンテストについて話を進めていく。
クリシュはそれを楽しそうに見ており、イオンは食べ過ぎたカルンに介護で付き添っている。
「そういえば、このランプってどういう仕組みなのでしょう? そこまで熱くもなく、なのにかなりの光量を得られているので、少し不思議に思っていたんです」
と、そこで話を聞いていたクリシュが疑問を口にした。
世間に知られている魔力の属性は4種類、火風水土であり通常のランプは火が用いられる。そのためランプには熱が籠りやすく、光量を得ようとすればするほどその傾向が顕著になる。
だが今回のランプは、知られている4大属性外の属性である光属性を使っていた。その存在を明るみにすれば、異端者として釣り上げられると考えて、トール達はそれを秘密にしようと考えていたのである。
「これは特殊な火を用いているんです。ですからそこまで熱くならないんですよ」
クリシュの疑問に対して、リューナがそう答える。
ナーリャはその答えを聞きながら、何やら言いたそうにしていたがそれはリューナの視線にさえぎられる。
「そうですのね。私もあまり魔導技術に詳しくないので、いろいろと教えて頂けると助かりますわ。それに、魔術についてもこれから先お勉強していきたいですし」
リューナの説明をすっかりと信じたクリシュは、館に着いた時に少し話をしていた魔術の勉強について話す。
その様子に、ナーリャは申し訳なさそうな顔をしている。なんだか騙している気分になっているのである。
「さてと、大体の方向性は決まりましたね。あとはコンテスト当日まで詳細を詰めて、少し練習しておきましょう。ゴーレムについては、トールさんにお任せしてしまってよろしいのですか?」
「おう。とは言ってもこの体だからな。魔道具が発表するっていうのは問題にならないかが不安だな」
何度も言っているがトールは杖である。そのため杖自体が発表者となれるのか、そこが気になっていた。
「おそらく大丈夫だと思いますわ。講演の前に、お兄様にそのことを一度お話してもらえばいいんですもの」
クリシュがいうには、アトラにトールが発表する前に一言話すことのできる杖が発表すると言ってもらえばよいとのことである。
ダナンの街ではすでに話せる杖がいることは有名になっており、ここ王都でもその程度の事では問題にならないだろうと考えていたため、トールはお願いすることにした。
「それじゃあクリシュ様。お手数ですが、アトラ様に申し添え願えますか?」
「はい、お任せください」
クリシュはにっこりと笑ってトールの要望に快諾する。その様子は少し嬉しそうである。
「私はお願いをしておきながら、コンテストについて全くお役に立てそうにありませんので、この程度でしたらいつでもお力になりますわ」
クリシュはそう華やかな笑顔をトールに向ける。彼女としては、役に立てたことが嬉しかったのである。
「すみません、クリシュ様。うちの杖がご面倒をおかけして」
「なんだかその言い様が気になるが、まあいいさ。華麗にこのゴーレムの有用性と発展性について語ってやるさ」
トールを手のかかる子のように話すリューナに対して、トールは少し気にはするがゴーレム発表について不安事項が解決されたため、上機嫌で浮かれているのである。
そのためトールは気が付いていなかった。杖が発表するということは、その杖自身がゴーレムを作り出したということで、その貴重性をかなり高めることになるのを。
「お嬢様、お部屋に戻られる時間です」
トール達が談話をしていると、そこに声が掛けられる。クリシュの護衛であるぺルラのものだ。
今まで彼女は黙って話を聞くことに徹していたが、夜もいい時間になったということで、クリシュにそれを告げたのである。
「まあ、もうそんな時間ですか。もう少しお話したいのですけれども、駄目ですか、ぺルラ?」
「駄目です。わがままを仰らないでください、お嬢様」
クリシュの要望はあっさりと却下され、食後のお茶会は解散となった。
トール達も自分らに与えられた部屋へと戻ることにして、クリシュとぺルラに別れを告げた後に部屋を出ていく。
部屋の外には、何名かのメイドが待機しており、彼女らの案内にて部屋へと戻ってきた。
カルンとイオンの二人は今回は自分たちの部屋へと戻っており、部屋の中にはナーリャとリューナ、それにトールがいるのみである。
「さってと、やることを纏めると、まずは風の護りの魔法陣をなんかに刻み付けること。後は講演の練習だね」
「そうですね。とりあえず風の護りの護符とでも名付けましょうか、それは私の方でやりましょう。講演の方はナーリャさんにお願いしますね」
「えー。なんかずるい……」
「何を言っているんですか。本番はナーリャさんが発表するんですから、纏めるのも練習のうちです。分からないことや、相談したいことがあるのであればいつでも受けますから、まずはやってみましょう」
「はーい」
そんな会話のやり取りを、トールは横から眺めていた。
髪の色や髪型は違えど、顔の作りはそっくりな二人である。まるで仲のいい姉妹のように感じられて、トールはほっこりした気持ちになる。
「さて、それじゃあ俺はどうするかな」
「あ、トールさんは念のためゴーレムについて纏めておいてくださいね」
トールが何をしようかと考えていると、そこにリューナの声がかかる。
「ゴーレムの? なんでまた」
「先ほどクリシュ様にはああ言って頂けましたが、もしトールさんが発表できないとなると、私達がすることになるのですから。私達はそのゴーレムについてあまり知らないので、必要になるかもしれないので纏めておいてください」
ああそうか、とトールは理解する。もし代打が必要になった場合知っておく必要があるということだ。
それならばとトールは、自分の柄のところに括り付けられているカバンを取り出す。ゴーレムを収めているものだ。
「どうしたんですか? まさかゴーレムを取り出す気じゃないですよね?」
「ああ、違う違う。前に少し話してあったと思うが、このゴーレムについて纏めたメモがこの中にあるんだよ」
トールは念のため、ゴーレムについて纏めたメモ書きをこの旅にも持ってきていた。ナーリャやリューナの、旅の途中や着いてからの暇つぶしになると思っていたためである。実際はそんな暇はなかったが。
「ああ、こちらへ来る前に話していたものですね。私にも見せてもらえますか?」
「あ! わたしもみたい!」
「もちろん二人には見せるさ。ちょっと待っててくれな」
取り出し口の小さいカバンの口元を魔法陣の効果で広げると、トールは≪守護者の巨人≫を使い細長い腕を作り出す。そしてそれをカバンの中に突っ込むと、端っこに置いてあった紙束を取り出す。
「ほら、これだよ」
トールは取り出した紙束をリューナに渡すと、≪守護者の巨人≫を消してカバンの口元拡大も解除する。
紙束をトールから受け取ったリューナは、そのをじっと見つめている。その横にはナーリャも来ており、二人はそれを声も出さずに見ていた。
「どうだ? わからないことがあれば聞いてくれ。大体の事は答えられるが、一部俺も不明瞭なところがあるからな。なに、≪知識の泉≫に確認すれば大丈夫さ」
トールはまるで自慢の一品を人に見せるときの様に、うかれた調子でナーリャとリューナに話かける。
しかしナーリャとリューナはそれに反応せず、ただただ紙束をめくっていた。
「おいおい、話くらい聞いてくれよ」
「……トールさん、一つお聞きしてもいいですか?」
「おう! なんでも聞いてくれ」
「ねぇ、トール。これ、何語?」




