↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
109/165

杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト26

 

 リューナによって魔力が込められた魔法陣は、その規則性に則り効果を発揮した。

 まずトールが≪守護者の巨人≫によって作り出した光る繭の周りを、緑色の光が一瞬覆った後すぐさま消える。それは、イオンが風の護りの魔法をかけたときと同じ現象であった。


「どうです、トールさん。なにか異常とか感じられますか?」


「いや、特にはないな」


「それじゃあ成功かな。じゃあ後は効果があるか試してみよう!」


 ナーリャは手元にあったペンを軽くトールへ投げようとする。


「まっ……!」


 ナーリャがペンを放り投げようとするのを、リューナは慌てて止めようとしたが、それは間に合わなかった。

 ナーリャの手から離れたペンはゆっくりとトールの方へと放物線を描いて飛んでいく。そしてトール、正確には光る繭に触れる直前にその進行方向を変えた。その勢いと共に。


「きゃ!」


「うお!」


 ペンはその勢いを増し、トールを避けるように横へ進行方向を変更して飛んでいく。その先にある部屋の壁へと向かって。

 そのまま勢いよくペン先が壁へと突き刺さり、ビーンという音を鳴らしペンは止まった。


「……えっと」


「えっと、ではありません!」


 しばらくの沈黙の後、ナーリャのつぶやきが部屋に響く。そしてその後のリューナの怒声が。


「ナーリャさん、何をしているんですか、何を!」


「いや、だってちゃんと効果が出ているか試さなきゃと思って……」


「弩の矢すら防ぐ風の護りですよ! そんなの効果が発揮したらどうなるか、わかるでしょう!」


「はい、ゴメンナサイ……」


「先ほども言いましたが、感性で物事を進める前に、一旦考えて行動をしてください! いつもナーリャさんは……」


 リューナの説教が部屋の中に響き渡る。


「ま、まあその辺で……」


「なんですか、トールさん!」


「いえ、何でもないです」


 トールは少し止めようかと声をかけたが、リューナの勢いを見てすぐさま止める。

 ナーリャはこっそりとトールに助けを求める視線を送ってきていたが、トールは宝玉を振り無理だと意思表示をする。

 そんなトールを見て絶望感たっぷりといった表情をしたナーリャに、リューナが「話を聞いているんですか!?」とさらに怒声を響かせていた。


 そうして1時間程リューナが説教をし、ナーリャがベッドの上で正座してそれを俯きながら聞き、トールがどうしたもんかとやきもきしていると、ドアがノックされた音が聞こえてきた。


「失礼いたします。ナーリャ様、リューナ様、トール様。お食事の準備ができました。ご案内差し上げてもよろしいでしょうか?」


 トールがノックに返事を返すと、ドアの外より執事の男性から声が掛けられる。


「はい、大丈夫です。……お説教は仕舞いにしましょう。以後、気を付けてくださいね」


「ハイ、ワカリマシタ」


 正座をし、なんだか魂が抜けた表情で答えるナーリャ。しっかりしろとトールに肩を揺さぶられ、ナーリャはハッ! と意識を取り戻す。そしてそのまま2人と1本は、執事に促されて部屋の外へと出た。

 部屋の外にはこの館の執事の男性のほかに、カルンとイオンもいた。ナーリャ達の前に声をかけられたようである。

 執事の案内に従って、一行は食堂へと歩みを向ける。階段を下り、一階に設けられた部屋に案内され、中に入るとそこにはすでにアトラとクリシュが席に座っており、そしてその護衛役のぺルラが後ろに立っていた。


「皆さま、ご無事で何よりです!」


 クリシュは座っていた席から腰を上げると、入ってきたばかりでドアの前に立っていたトール達のもとに駆け寄ってくる。そしてそのままナーリャに抱き着いた。


「ナーリャさんが命を狙われたと聞き、心の臓が止まるかと思いましたわ。本当にご無事で何よりです」


「クリシュ様、落ち着いてください。わたしは一切怪我も負っていませんから」


 ナーリャは抱き着いてきたクリシュの肩を落ち着くように軽くたたく。

 しばらくの間そうしてナーリャに抱き着いていたクリシュであったが、落ち着きを取り戻したのかゆっくりとナーリャから離れた。


「突然不躾な行い、申し訳ございませんでした」


 ナーリャから離れ、クリシュは頭を下げる。


「いえ、そんな、頭を上げてください!」


 頭を下げたクリシュに、ナーリャはかなり恐縮した様子で慌てて自分の頭を下げつつ、クリシュに頭を上げるように伝える。


「ナーリャさんには本当に大変申し訳なく、私がお話を持ってこなければこんなことにはならなかったと……」


「そんなことはありません。原因はわたしに関することのようですし、クリシュ様がお気にすることじゃあ……」


「いえ、それこそ私が依頼を持ってこなければ、こうやって知られることもなく、ましてや命を狙われるなんて……」


 両者ペコペコと何度も頭を下げながら、お互い自分が悪かったと言い合う。

 その光景に、思い描く貴族像とは程遠く、トールは思わず口に出して笑ってしまった。そして二人は、そのトールの笑い声を聞いて、キョトンとした表情をトールの方へ視線を向けた。


「申し訳ございません。クリシュ様のご様子があまりにも私の貴族に対するイメージとかけ離れていたもので」


 トールは例によって柄の部分をめげて、宝玉部を下げて謝罪する。


「そうだろう、トール君。我が妹は自身の行いに恥じることがあれば、それは平民だろうと過ちを認め、謝る心優しい淑女なのだよ」


 クリシュの兄であるアトラも、いつの間にかドア付近にいる一行の近くまでやって来ていた。


「さて、こんなところで立ち話をしていては料理が冷めてしまうよ。皆、テーブルに着こうじゃないか」


 そう促され、クリシュとナーリャの謝罪合戦は一旦終了を迎える。

 それぞれが執事とメイドに案内された席に着くと、アトラは一度手を叩く。それが合図なのか、その後次々と料理がテーブルの上に運ばれてきた。

 白い柔らかそうなパンを筆頭に、色とりどりのサラダ、魚の切り身を焼き白いソースがかけれているもの、透明な色の野菜が入ったスープ、鳥と思しきものの姿焼き。ほかにもトールが全く見たことのないような料理が次々と運ばれてきた。


「さあ、それでは食べようじゃないか!」


 大仰に手を広げてアトラが言った開始の合図にて、それぞれが食事を始めた。

 トールはその様子と、料理が一緒くたに運ばれてくることに少し驚きを感じていた。


「なあ、リューナ。こういった場での料理って、こんな一緒に全部運ばれてくるものなのか?」


「はい? そうですね、格式ばった場では、一品ずつ運ばれてくることもありますが、今回は我々、というか庶民に合わせてくれたのではないでしょうか? 私達は普段料理を一皿ずつ持ってきてもらうことなんてありませんから」


 気を聞かせて頂いたんですよ、とリューナはトールへ説明する。ただ若干アトラに誤解が混じっているのか、大量の料理が一気にテーブルの上に置かれ、その広かったスペースは埋め尽くされている状態である。

 これでは食べたいものを食べられないのではないかとトールが考えていると、給仕の女性たちがいろいろとテーブルに置かれた料理を小分けにし、それぞれまで運んでいた。


「さて、食べながら聞いてほしい。今日君たちが出かけている間に、コンテストについて連絡があった」


 アトラとクリシュは小さく料理を切り分け、口に運んでいた。他はナーリャとリューナも似たように小分けにして食べていたが、イオンはきょろきょろとあたりを見回しており、どうしていいかわからないといった様子が見て取れていた。

 そしてカルンは、そんなの気にしないっすとばかりに、どんどんと料理を口に入れている。その勢いは、普段街の料理屋で食べているより早いくらいである。そしてかなりの大食漢なのか、給仕が小分けにして持ってきてくれた料理を、すぐさま空にしてまた持ってきてもらうといった具合である。

 そんな様子をアトラは見ながら、満足そうな笑顔で話を続けた。


「まず最初は魔道具部門だね。これは例のランプが我々の出品物となる。そしてコンテスト自体の内容だが、実演を交えた講演形式となる」


 その言葉を聞いた瞬間、リューナは眉を少し動かした程度であったが、ナーリャは食事の手をピタリと止めた。


「まあ、見に来るのの主は王侯貴族たちだからね。実際に動かしてみて、それを魔導技師が説明をするといった手法を取らないと、理解ができないといったことも考えられる。そのため、製作者が説明しながら動かしてもらうのが一番だ」


 アトラは器用に食事を続けながらも話を進める。


「そしてもう一つ、ゴーレムの方だね。こちらも似たようなことになるそうだが、先の魔道具の方は学院の一室で執り行い、こちらは庭で行うそうだよ。それぞれのゴーレムの特徴をアピールすることになるだろう」


 今度はトールがほう、とつぶやく。

 ランプの魔道具はナーリャ達にまかせっきりにする気満々のトールであるが、ゴーレムの方はそうではない。ここらで自分が作り出したゴーレムの有用性をアピールしてやると、やる気十分である。


「すみません。ゴーレムの実演について、例年どういったことが取り出さされるんでしょうか? というか、毎年やっているんでしたっけ?」


「毎年、というわけではないが数年に一度似たようなことは行われているね。私が過去に一度だけ参加したものは、ゴーレムは運搬できる量を競っていたかな?」


 話を聞きながら、トールはうなずく。

 トールは画期的なシステムを全面に押しても理解が得られず、即物的なものをアピールすべきかと考えていた。

 こういったプレゼンにおいて、技術者がやりがちなのは専門的な話を全面に押し出してしまい、理解を得られないということである。あるあるである。

 トールも過去に一度、日本での会社勤めの時にやらかした経験を持っていた。


「なるほど。何ができるかを主に話した方がよさそうですね」


「うん、私もそう思う。まあ、細かいことは君たちに任せるよ。さて、コンテストについてはこんなところだ。聞きたいことはあるだろうが、その前にクリシュの社交界について先に話をさせてもらおうか」


 アトラはにっこりと笑顔で話をつづけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。