杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト25
10分ほどリューナの説教が続いたころだろうか、ドアがノックされお茶を持ったメイドたちが部屋へと入ってきた。
リューナはナーリャへの説教を一旦止めることにし、ベッドに腰を掛けなおす。
メイドたちによって、カップの置き場となる小さなーブルも用意され、そこに4人分のカップにお茶が注がれる。
そうしてお茶の用意が済むと、メイドたちは一礼の後、部屋から引き揚げていった。
「とりあえず説教は後にして、お茶でも飲んで落ち着かないか?」
トールは柄のふるふると先端を振りながらリューナの説教をとめる。
リューナも気がそがれたのか、素直に頷いてお茶の入ったカップを手に取り一口含んだ。
「ふう。それもそうですね。先に呪文の魔法陣化をしてしまいましょうか。イオンさん、風の護りの呪文を教えて頂けますか?」
「はい。それでは……」
ナーリャとリューナはお茶を楽しみつつ、イオンから呪文を教わり、それを紙にメモを取っていく。
数度呪文を復唱してもらい、呪文のすべてをメモした二人は、それぞれ魔法陣化に取り組み始める。
「ナーリャさん。基礎陣の方を任せてもいいですか? 私は補助陣を先に完成させてしまいます」
「うん、わかったよ。基礎陣は任せて」
二人は呪文を魔法文字で書き出し、それぞれが作業へと入っていく。
取り残されたカルンとイオン、そしてトールはその作業を横から見守っていた。
「トールさん。魔法陣というのは、どのようにして作られるのですか?」
「ん? ああ、俺もそんなに詳しくはないんだがな。まずは魔法の呪文を書き出して、それを『意味を持つ形状』に変換していくらしい」
トールも当初はわからなかった魔法陣の制作方法であるが、ゴーレム作成にてある程度学んでいた。
魔法の呪文を魔法文字にて書き出し、そこから意味のある単語を抜き出してそれを『意味のある形状』と呼ばれる文様に変換していく。
そしてそれを魔力を流した時に、順番通り流れるように文様を配置していく、というのが簡単な魔法陣化の流れである。
その際に、単語と接続語、そしてそれらをつなげる線にも特有の形状があり、組み合わせは多種多様に広がる。そこから効率のよい組み合わせを考えだして魔法陣を作るのが、魔導技師の技量の見せ所となる。
「そうやってできた魔法陣に魔力を流し込むことで、魔法と同じ現象が発現するって寸法みたいだな」
「なるほど。理論を主として、思考で結果を生み出すというのはそういうことを言っているのでしょうね」
イオンは先ほどリューナが言っていた言葉に納得し、お茶を一口飲む。
なおカルンは、トールが説明をしている間にいつの間にかお茶を飲み干して、椅子に座りながらうつらうつらと舟を漕いでいた。
「カルンちゃん、寝ちゃいましたね。あんまりこういった話は得意じゃないですから」
「まあ、仕方ないさ。自分が使えないものは、どうしても興味が持てなくなるもんだからな」
カルンの体質、対外魔力排出不良は魔法が使えなくなる症状である。そのため魔法を一切発動できないカルンには、魔法関連の話は興味が持てないのだろうとトールは思っていた。
「その通りだと思います。実のところ、このカルンちゃんの体質を治すために旅に出ようといったのは、私の方なんです」
「む。というと?」
「実はカルンちゃん自身は、この体質の事をそこまで気にかけていないんです。魔法が使えなくても生きていけるし、何よりイオンがいてくれればいいっす、って」
苦笑いを浮かべながら、イオンはカルンの頭をなでる。それをカルンは寝ていながらも嬉しそうに、にへへと笑っている。
「でも、この世で生きていくのであればやはり魔法がないと不便だと思うのです。それに魔法が使えないというだけで、馬鹿にする人も出てきますし。だから私はカルンちゃんを連れだして、一緒に旅をしようを誘ったんですよ」
イオンは自分の座っている椅子をカルンの隣に寄せて、そこに再度腰を下ろす。そして寝てしまっているカルンを横に傾けると、自分の膝を枕にしてカルンを寝かせた。
「なるほどな。まあ、症状はわかっているんだから、解決策もそのうち判明するだろうさ。俺もいくつか考えているが、気長に見てもらえると助かる」
「はい。よろしくお願いしますね」
イオンは笑顔でトールにこたえる。
トールは内心イオンに申し訳なく思っていた。というのもここ最近はカルンの症状改善の方法を探しておらず、ずっとゴーレム作成に力を注いでいたからである。帰ったらちゃんと探そうと心に誓う。
その後イオンの一旦部屋へ戻るという言葉を聞き、トールは≪守護者の巨人≫で作りだした人型でカルンを部屋まで運んで行き、そこでイオンとも別れる。
ナーリャ達の部屋へと戻ったトールは、まだ作業中の二人をしり目にゴーレムをカバンから取り出す。
「さて、今日の活動でどの程度魔力量が減ったのか、確認しないとな」
一連の手順を行いゴーレムを取り出したトールは、まず最初に魔力を貯蔵している魔石を見るべく、ゴーレムにかぶせてある兜を取る。
その中の中心にある魔石に、自分の宝玉部を当てると、残りの魔力残量を確かめた。
「(残り半分ってところか。結構使っているな。王都に来る道中で倒木をどかした時は10分の1程度の消費量だったことから、もう少し消費が朝得られるかと思ったけど)」
トールは魔力量を確認した後、今度は足回りのチェックを行うべく片方の足当てを外す。
骨格部や関節部から油圧部を一通り見て、とりあえずは破損らしきものがないことを確認する。特に油圧部と関節はしっかりとみていた。
「関節は特に異常なさそうか。磨耗痕も今のところ見られないし大丈夫かな? 油圧も漏れもなさそうだし、あとは少し継続してみていくしかないかな。 ああ、スケールがほしい」
声に出しつつこの世界にはない計測機器を夢想したあと、トールは他の部分のチェックに戻る。各関節から骨格、それと魔法陣の異常の有無やらトールが思いつく限り確認していった。
そうして一通り目視確認を終えると、トールはゴーレムをもとの状態に戻した後カバンへと収納していく。
「よし、とりあえず終了っと。目視しかできていないが、これ以上の検査は無理だし今後の課題として後で考えるか。さて、そっちはどうなった?」
トールは自分の作業が終わりひと段落ついたことで、ナーリャ達の進捗が気になり声をかける。
彼女らもちょうど一区切りがついたようで、両手を上に伸ばして伸びをしていた。
「こっちはほぼ完了かな。リューナちゃんはどう?」
「私の方もほぼ完了です。あとはナーリャさんの方と統合して、微調整をすれば完成でしょう」
二人とも軽い解放感に包まれているのか、笑顔でトールへと答えていた。
ナーリャとリューナは、カップに残っていた冷めたしまったお茶を一気に飲み干すと、今度はそれぞれが作成した魔法陣を統一すべく、作業に戻る。
「基礎陣はこれだね。あとは補助陣と接続だけど」
「それはこの形状を使えばよいでしょう。風の魔法と相性がいいはずですし」
二人の作り出した魔法陣をもとに、ナーリャが一つの魔法陣を描いていく。途中リューナがいくつか口を出し、修正しながらも、それは完成した。
「よし、これで完成だね」
「ええ。ナーリャさんも魔法陣化を手早く行えるようになりましたね」
「えっへん。あれだけ勉強すれば、わたしだってこのくらいできるよ」
胸を張りつつ、ナーリャは少し前の事を思い出していた。この王都に来る前、実は苦手であった魔法陣化についてリューナに徹底的にしごかれていた時のことを。
そもそも自分の祖母からは、ほとんど魔導技術について教わったことのないナーリャは、体系的に魔導技術を学んできていない。祖母の残したメモ書きや書物、制作物から独自で学んできたのであった。そこでリューナに一から教わることにしたのだが、リューナの教えはスパルタであり、ナーリャは時折半泣きになりながらも魔法陣化の勉強をしていたのであった。
「私としても、ここまで出来ればうれしい限りです。ナーリャさんは元々知識はありましたから、あとは基本概念を抑えれば、すぐに出来るようになりましたからね」
「うんうん、任せてよ。さてと、それじゃあ試しに使ってみる?」
リューナに褒められてうれしかったナーリャは、頬を指で掻きながら笑顔で新たに作成した魔法陣を試そうか確認する。
「そうですね。早めに試しておいた方がいいでしょう。というわけで、トールさんお願いします」
「はい?」
いきなりのお願いに、トールは何の事だかわからずに聞き返す。
「魔法陣の対象になってください」
そんなトールに、ごく自然にリューナは答えを返した。
「いやいや、なんで俺?」
「だってもし何か問題があったら危ないじゃないですか」
「いやいやいや、それって俺も危ないんじゃないか?」
「大丈夫ですよ。トールさんってほら、杖ですし?」
「杖ですし? って答えなってねえじゃねえか」
クスクスと小さく笑い声を上げるリューナを見つつも、トールは体である柄の部分をうねらせながら文句を言う。
「すみません、冗談ですよ。いや、対象になってほしいというのは冗談ではないのですが」
「対象にするのは本気なのか……」
「だってトールさんには、≪守護者の巨人≫があるじゃないですか。魔法の規模からいって、もし仮に何かあったとしても、私達でも皮膚が少し裂ける程度でしょうし、トールさんは≪守護者の巨人≫を使っていればまず問題ないでしょう」
ああ、それもそうかとトールは思い直す。
≪守護者の巨人≫で防御していれば、その程度の魔法は問題なく防げる。危険はないはずである。
「確かにその通りだわ。んじゃ、やってみるとしますか」
トールは≪守護者の巨人≫を起動し、自身を覆う繭のように展開した。
トールが光る繭に覆われるのを確認したリューナは、魔法陣を描いた紙を持ち、トールの方へと突き出す。
「それでは行きます。いいですか?」
「おう、いつでもいいぞ」
トールの返事を聞いたリューナは、魔法陣へと魔力を込め始めた。




