杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト24
「さてと、話はここまでにして食事としようか。とはいってもまだ準備中のはずだから、一旦君たちの部屋で待っていてもらいたい」
外はすでに薄暗くなっているが、夕飯の時刻には少し早い時間帯である。
アトラは外に向かって合図をするかのように一度手をたたく。するといつの間にか外へと出ていたメイドたちが、部屋の中に再度入ってきてテーブルに置かれていたカップを片付け始めた。それらのカップには、皆ほとんど口をつけておらず、中には冷めたお茶が残ってたままである。
「ふむ、冷めてしまったね。後で部屋に飲み物を持っていかせよう。ではまた後程食事のときに」
アトラは一言別れの言葉を告げると、そのまま部屋を出ていく。
トール達はアトラが部屋を出た後、一人のメイドに付き添われて自分達に宛がわれた部屋へと戻ってきた。
「では後程お飲み物を用意いたします。失礼いたします」
部屋までついてきたメイドは、一言皆へと挨拶して退出していった。
この部屋はナーリャとリューナに宛がわれたものだが、ここには来てすぐと同じくカルンとイオンも入ってきている。
4人と1本は部屋の中で思い思いにくつろげる位置へと行く。ナーリャとリューナは部屋に備え付けられている二つのベッドにそれぞれ腰を掛け、カルンとイオンは部屋にある椅子をベッドの前まで持ってくると、そこに座った。
トールは何となくナーリャとリューナの座っている間へと陣取った。
「さてと、食事の時間までどうしてよっか?」
「それなんだが、一ついいか?」
提案の声を上げたのはトールだ。
「なんでしょう、トールさん」
「実は提案があるんだ」
トールは浮かんだ状態で4人の中心に行くと、話し始めた。
「さっき狙撃されたときにイオンが掛けてくれた魔法があるじゃないか」
「風の護りの魔法ですね」
「そう。それを魔法陣化しておきたいと思ったんだよ。 出来れば首から下げれる装飾品のようなものに刻みつけておきたい。そうすればいざという時、すぐさま守りの魔法の効果が得られるんじゃないか」
トールはあの魔法、風の護りはかなり便利魔法だと考えていた。
えてして狙撃というものは防ぐのが難しい。防ぐ方法でトールが思いつくのは、狙撃をするポイントを把握し、そこから手が出ない道を使う。護衛を盾にするといったぐらいしか思い当たらない。
それを一度でも無効化できるというのは、かなり魅力的に映っていた。
「いつもイオンに魔法を使ってもらうというのも難しいだろうし、いつでも発動できるようになれば個人でもある程度動ける。いやまあ、個人で動いてもらっちゃあ困るんだが」
「それもそうだね。どうせコンテストまではお屋敷からも動けないんだし、いいんじゃないかな?」
トールの提案に対して、ナーリャは簡単に答える。しかしその様子とは反対に、リューナは少し渋い顔をしていた。
「すみません、イオンさん。トールさんに悪気があってのことではないのです」
イオンに対して、リューナは頭を下げる。
これにトールはなんだと疑問に思い、頭を下げられたイオンもまた慌てているようであった。
「えっと、その、リューナさん。すみませんがどうして謝られているのでしょう?」
「む、そうですか。失礼ですが、イオンさんも気を付けられた方がいいですね。では、少し脱線しますがお話しさせてもらいます」
リューナが語ったことは、「呪文」の価値である。
この呪文というのは、一般的に用いられているものというのは、親から子へと語り継がれていることがほとんどである。また、仮に何らかの理由で親から教わらなくても、だれかに聞けば教えてもらえるものだ。例えば水を生み出す魔法とか、火をつける魔法等だ。
しかしそれ以外、攻撃用の魔法であったり、特殊な作用をもたらすものとなると話は別になってくる。魔法の開発や習得までにかかるコストなど、単純に教えて、ではすまないことがほとんどである。それを教えてね、と気軽にいうことは失礼にあたるので、リューナはトールをたしなめたのである。
基本的にはそれなりの代価を支払う必要があるのだ。それでも教えない魔導士も多いのだが。
「そういった訳です。トールさんも気軽に呪文を相手に聞くのは気を付けてください。あとイオンさんも、やすやすと教えてしまっては、相手になめられるどころか同業者にも恨まれます」
「はい……」
イオンは特に叱られているという訳でもないのだが、何となく椅子の上で正座していた。トールはというと、体を乙の字にして、ベッドの上にいた。
トールは、≪知識の泉≫を所持している弊害だな、と反省していた。
聞けばすぐに教えてくれる≪知識の泉≫を持っていることで、魔法の価値についてかなり低く見積もってしまっていたのである。本来知識というのは価値がある物で、それをただでくれと言われるものではない。
「さてと、話が脱線してしまいましたが、それを踏まえてどうでしょう、イオンさん。対価はお支払いしますので、魔法を教えて頂けませんか?」
リューナは話し終えると、改めてイオンへ魔法の伝授をお願いする。
「あ、はい。大丈夫です」
若干気圧され気味であったイオンは、リューナの提案に素直にうなずく。
「ありがとうございます。報酬については、1万オーロでどうでしょう?」
1万オーロ。日本円にして大体5万円である。
トールはこれが高いのか安いのかは判断できていないが、元いた日本でも研修等を受けるのに1日で数万円かかっていたことを思い出し、そんなものかと納得していた。
「わかりました。それで大丈夫です。でも魔法を教えるのにお金をもらうのも、なんだか違和感がありますね」
イオンは少しはにかみながら、そんなことを発言する。本人が一番知識の価値に疎いのかもしれない。
「私のいた村だと、特に報酬の支払いとかはなく、普通に教わりましたから」
田舎の村々では、基本口伝で魔法を後世へと伝えている。そうした役割を持つのが老人たちである。
村の子供にそれを伝えるのは、村を維持するのに必要なため報酬等は特になく伝達されているのである。正確には報酬はないわけではなく、それをすることで村から各種必要なものをもらっているのだが。
「イオンはすごいっすよ。お婆の魔法をあっさりと理解して、すぐに覚えちゃったんすから」
カルンがなぜか胸を張りながら、イオンについてほめたたえる。
褒められたイオンは、顔を少し赤くしながらそんなことはないと謙遜をしていた。
「魔法って覚えるのは大変なのか? いまいちそのあたりの感覚がわからないんだが」
トールはそう疑問に思い、体を?字に曲げながら質問する。
以前魔法が使えないかと、トールは試したことがあったが使えなかったのである。これは杖であるトール自身に魔法を扱う機能がないのか、それともトールに才能がないのか不明だったため、少し気になったのだ。
「魔法は呪文さえ覚えてしまえば、あとは魔力の流れと現象を理解すればすぐに使えますよ。そんなに難しいことではありません」
イオンの説明に、なんだか天才特有の感性が混じっているのを感じたトールは、ちらりとナーリャとリューナの方を見る。
そんな杖の視線に気が付いたのか、リューナはゴホン、と一つ咳をした。
「まず呪文を覚えるのが大変かもしれませんね。体系的に学ぼうとすると、まずは魔法文字の習得が必須になります。そのほかにも、各単語の意味と効果。それに実践で使う際にはそれぞれの魔力配分等と魔術師を生業をするには、かなりの知識と経験が必要になると思います。まあ、単純な魔法だけであれば、意味を知らずとも練習すれば使えるようになるはずですが」
「魔法文字もよく見れば規則性がありますし、呪文の単語も同じですよ。あとは実際使ってみて、その感覚を自分に覚えさせることができれば、そんなに難しいことでもないですよ」
あっけらかんとイオンはそんなに難しくないと発言する。
その言葉を聞いて、ハァとため息をリューナはつく。これだから天才肌は、とつぶやきながら。
「だとすると、俺が二人に呪文を教えたときはすんなり使えたよな? そのあたりはどうなんだ?」
「ある程度学んだ人間だと、呪文さえ知っていれば発動はできるんですよ。トールさんに教わった魔法は、現象を把握できてはいませんでしたが、その分魔力配分と操作、それと魔法の名称からある程度推測して使っていました。慣れた今では、簡単に使えますが、最初のころは結構気を使って呪文を唱えていたんですよ」
リューナの解説に、トールとなぜかナーリャまでもが、なるほどと納得している。
「……なぜナーリャさんまでも納得しているんですか」
「えへへ。だってわたしもそんなこと考えたことなかったから。トールに教わったときも、何となくで唱えていたし」
ここにも天才肌、というか感覚派がいたようである。
リューナはハァともう一度ため息をついて、天を仰いだ。
「魔術師の方ならばともかく、魔導技師たるナーリャさんがそれでどうするのですか。理論を主とし、思考で結果を生み出すべき者が、その理論を置いてどうするのです。いいですか、普段から常々思っていましたがナーリャさんは……」
何かの琴線に触れたのか、ナーリャへ対しての説教が始まる。
トールはこっそりとそばを離れ、カルンとイオンと共にその説教を眺めているのであった。
長々と更新が滞ってしまい、申し訳ございませんでした。
できるだけ更新していきたいと思っていますが、現在少し業務多忙なため、更新が不定期となってしまうと思います。




