杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト23
一気に路地を走りきったトール達は、その後狙撃されることもなく屋敷へとたどり着いた。
「皆様、どうかされましたか?」
走り、慌てた様子で戻ってきた一行を目にした門番は、すぐさま辺りを警戒しながら声を掛けてくる。
「先ほど弩で狙撃されました。すみませんが、中へ入れてもらえますか?」
「! 分かりました。こちらへ」
門番の一人が直ぐに屋敷のドアを開き、その他の門番は槍を構えて警戒を厳にする。
トール達が門番に連れられて屋敷へと入ると、漸く落ち着けるとナーリャとリューナは上がった息を整え始めた。
「これは皆様、どうされたのですか?」
屋敷に入ると、すぐさま執事の男がやってくる。その後ろにはメイドが後に続いていた。
「すみません、帰りに矢で狙われまして、走ってもどってきました」
「なんと! ではすぐさま落ち着けるよう飲み物をご用意いたしましょう。こちらへ」
執事はそういうと一行を案内するべく先行する。そして執事の案内で一階にある一室へと入った。その部屋の中は椅子が6つほど置かれており、中央にはテーブルが置かれていた。
各々は席に着くと、ようやく一息つけたとばかりにテーブルへと伏せた。
「皆様はここでご休憩下さい。すぐに御飲み物をお持ちいたします」
執事は一礼した後に部屋を出る。
残された面々は、最初は落ち着くためか静かにしていたが、時間が経つと共に顔を上げて話し始めた。
「とりあえず一安心だね」
「そうですね。ここまで来ればさすがに大丈夫でしょう」
「いやはや、危ない目にあったな」
トールも思わずゴーレムに入ったまま座っていたが、このままでは落ち着けないなと思いゴーレムの背から這い出る。
這い出たトールは、自分に括り付けたままであったゴーレム収納用のカバンを開くと、ゴーレムをしまい始めた。
「魔力の補給は後でするとして、いい実験ができたな。歩行による持久試験に走行試験。それぞれの魔力消費量もある程度分かったし、後は最大膂力とそのほかの動作での耐久性と持久性かな」
トールはカバンの口を魔法陣によって広げ、そのうえに外からゴーレムを操りその上に載せる。そしてそのままカバンの機能である空間拡張を作動させると、カバンの中にゴーレムが仕舞われていった。
「そのゴーレム外部からも操れたんですか?」
ゴーレムを中に入らず操るトールを見て、リューナが質問する。
「ゴーレムの操作は操作用の魔法陣に近づいて念じるだけだからな。別に中に入らなくても出来るんだよ。一応誤作動しないように使用者選別はしているけどな」
「使用者選別……相変わらず新技術をあっさりと使っていますね。どういった仕組みなんですか?」
「基本は魔力による選別だな。これは操作用の魔法陣に流す魔力を波長変換をあえてかまさないようにしている。魔力は他人のものとは基本反発しあうから、これで起動、操作はできなくなるな。あとはナーリャとリューナが傍にいるとき誤作動しないように、起動時に合言葉みたいなものを使っている」
もともとゴーレムとトールの魔力を補給しているのはナーリャとリューナである。魔力による個人認証だけでは、二人にも動かせるためにもうワンクッション置いてパスワードを使用しているのである。
「その合言葉を使わないと、わたしたちもゴーレムは動かせないの?」
ナーリャも興味がそそられたのか、トールに仕様について質問を始める。
「そうだな。まだ試している段階だからどの程度機能しているかわからないが、そのはずだ。後で試してみるか?」
「うん。後で試させてね」
トールはゴーレムをしまい終えると、杖の姿でふよふよと浮かんでナーリャとリューナが座っている間に位置取る。
「えっと、とりあえずゴーレムのお話しはおしまいでいいですか?」
トールが二人の間に陣取ると、イオンから声がかかる。
彼女はトール達が話始めてしまったゴーレム談義が終わるのを待っていたのである。それも襲撃について話会いたかったためである。
、
「あ、ああ。すまなかった」
トールは思わず謝る。どう考えても襲撃についての話のほうが優先順位は高く、話を脱線させてしまい悪いと思ったためである。
「カルンちゃんの話だと、狙われていたのはナーリャさんということだったよね?」
「そうっすよ、イオン。ナーリャの方に矢は飛んでいたっす」
「そうすると、やっぱりおばあちゃんに関してのことなのかな? わたしが狙われたのって」
「そう考えるのが妥当ですね。つまりトールさんの取った行動は逆効果だったということですね」
意地悪そうな笑顔でトールに向かって話すリューナ。それはトールがロカームを憲兵と共に行かせた話である。
トールが当初考えていたのは、貴族の思惑を初手から躓かせることであった。普通貴族が保護下にある者を守るのに、その名を使うのは常套手段といってもいい。それを止め、あえて護衛を引き離す事をしたのは、相手がそう想定していたであろう、その後の計画を少しでも狂わせられたらと考えたためである。
しかし、今回はいきなりナーリャを狙撃するといった手段に出てきた。これはナーリャの狙撃が主目的で、ダナン家の名を落とすというのは副次的なものであると推測できた。
そういった意味で、トールが取ったあえて護衛であるロカームと別れた行動は悪手といえるものであったのだ。
「まさか本当にいきなり命が狙われるとは思っていなかったんだよ。すまなかった」
トールはナーリャに向かって頭、というより杖の宝玉部を下げる。
対してナーリャは少し慌てたように手を振った。
「ううん。こっちこそ後から話しが出てきちゃってごめんなさい。わたしも命をいきなり狙われるなんて思っていなかったもん」
人と杖が互いに頭を下げるというある意味奇妙な光景でいると、ドアがノックされる。それにナーリャが答えると、ポットとカップを持った執事とメイドを伴ったアトラが入ってきた。
「やあ、大変だったみたいだね。少し話を聞かせてもらってもいいかな? とその前に、飲み物の準備をしようか」
アトラは椅子の一つに腰を掛ける。
一緒に連れられてきたメイド達は素早い動作で各人の前にカップを用意し、その中にお茶を注いでいく。それがすべて用意されると、アトラは再度口を開いた。
「さてと、それじゃあ改めて。いきなり矢で狙われたということだったけど、その通りかい?」
アトラは手をテーブルの上で組むと、皆にそう尋ねてきた。
「はい。狙われたのはわたしのようで、カルンちゃんが弾いて防いでくれました」
「ふむ、そうか。ロカームはどうしたんだい?」
「それは私から話しましょう。まずは……」
トールがナーリャに代わって今までの経緯を話し始める。
魔道具店を見回ったあと、帰路の途中にチンピラ風の男たちに絡まれたこと。その後憲兵の登場によって、おかしな理由でロカームに対して同行を迫られたこと。トールの考えで、ロカームにはその憲兵について行ってもらったこと。そしてその後弩で狙撃されたことを。
「……というわけです。ロカーム殿は無理にお願いして、憲兵について行ってもらいました。私の判断ミスによるもので、ロカーム殿に落ち度はないと思っています。ですので……」
トールとしては自分の提案でロカームに何かしらの処罰が下りるのは、申し訳ないと考えていた。そのため、ロカームに落ち度はないと伝えたのであった。
「なるほど、そういう訳だね。分かった。トール君がそういうのであれば、ロカームはお咎め無しとしようじゃないか。お嬢さん方もそれでいいかな?」
他の4人もそれに同意するように首を縦に振る。
「よし、それじゃあロカームについてはこれでいい。ではナーリャさんが襲われたことについてだが、正直言って私も驚いている。まさか白昼堂々と、しかも通りで命を狙われるとは思ってもみなかったんだ。これについては何か思い当たる節はないかな?」
「えっと、それに関しては少し思い当たる節があります」
ナーリャはアトラの質問に対して答える。
アトラはふむ、とつぶやくとお茶を一口飲んだ。
「それはどういったことかな?」
「それは……」
今度はナーリャが狙われた原因と思われることについて話始めた。
自分の祖母の事と、その祖母が貴族に誘われたときに断っていたこと。そして断った貴族というのが、レステの領主だと思われることである。
話を聞き終えたアトラは、手を顎に当てて悩んだ素振りを見せた。
「なるほどなるほど。ナーリャさんが狙われたのは、そういった事柄が原因じゃないかということだね」
「はい。それ以外は思いつかなくって」
「ふむ。確かに以前勧誘を断られた者が、対立する我が家のそれを受けたとなると、そういった手段をとってくるのも考えられるね。今まではすべての勧誘を断りダナンで暮らしていただけだったから、特に何かしらの行動を取ることはなかったが、今回の一見で矜持を刺激されたとあれば、納得のいく話だ」
アトラは自分の考えを纏めるかのように最後の方は少し小さめの声で話すと、一つ頷いた。
「よし、今後はその前提で動くことにしよう。ナーリャさんとリューナさんには申し訳ないけれど、コンテスト当日までは基本屋敷に留まってほしい。外は危険だからね。何か必要なものがあれな言ってもらえれば準備しよう。いいかな?」
「はい」
「わかりました」
ナーリャとリューナはそれぞれの言葉で、アトラの要請に同意した。




