杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト22
「どういうことですか、ナーリャさん?」
引きつった笑顔で先ほど自分の所為かもと発言したナーリャに対して、リューナは辺りを警戒しながら尋ねる。
「以前おばあちゃんのところに貴族様の使いが来てたって言ったでしょ? その時の中に貿易都市レステの一番偉い人っていうのが、たしかいたんじゃなかったかなって……」
そんなことを指をつんつんと突き合わせながらのたまうナーリャ。
貿易都市の一番偉い人。それはつまりその街の領主であり、現在ダナン家へと嫌がらせをしていると思われるレステ公爵家である。
その新事実に、ナーリャは今日何度目かになる額に手を当てて天を仰いだ。
「なぜそれを早く言わないんですか」
「だってだって! なんだか急に思い出したんだもん! ダナン家への嫌がらせ以外の可能性でって考えたら、ふっと浮かんできたんだもん!」
若干口調を幼くしながら、ナーリャは喚く。
トールもその新事実に対して、天を仰ぎたくなったが今は緊急時だと割り切り、それを押さえ込んだ。
「取り合えずは後にしよう。まずはこの場をどう切り抜けるかだが……カルン、相手の場所は分かるか?」
「んー、撃って来た場所ならなんとなく分かったっすけど、今何処にいるかまでは不明っすね。追っかけてみたら、もしかしたら分かるかもしれないっすけど、どうするっすか?」
「そうか。そうしたらカルンはその撃って来た場所まで行って、確認してきてくれ。いたら撃退、いなかったら周辺を調べて狙撃できそうな箇所をしらみつぶしにしてもらえるか?」
トールは必死に現状について考える。
おそらく狙撃ポイントから相手は既に移動しているだろう。そうすると今度は他の狙撃しやすい場所で、再度攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
その場所をカルンに潰してきてもらいたいと考えていた。
「良いっすけど、あたいもそんなに弩なんかを狙える場所は分かんないっすよ。それに今あたいが動いちゃうと、守りはどうするっすか?」
「大丈夫だ。手はある」
トールは意識を集中し、《守護者の巨人》を起動させる。
そして発生した薄い光の膜を、一行を覆うようにドーム状に展開させた。
「これでしばらくは安全だ。その間にカルンに犯人を追ってほしい。直ぐ傍にいないと分かったら、戻ってきてくれ」
「了解っす。じゃ、ちょっと行ってくるっすよ」
カルンはトールが《守護者の巨人》で作ったドームの穴から外へと抜け出すと、道端に置いてあるタルを台にして、そこから蹴上がって建物の屋根へと降り立つ。その姿はまるで雑技団の出演者さながらであった。
カルンは屋根へとたどり着くと、すぐさまその上を走り出した。
「おおう。すごいな」
「カルンちゃんは昔から木登りとか得意でしたから」
イオンの言葉に、トールはカルンが抜け出したドームの穴を塞ぎながら、普通木登りが得意でもあんな動きは出来ないと心の中で突っ込みをいれる。
「取り合えずはカルンを待とう。その結果で今後の作戦を決めよう」
いきなり狙撃されるという事態に対して、何とか落ち着ける環境を整えられたと思ったトールは、今後の動きについては即決を避けた方がよいと考え、他の面々にそれを伝える。
というか、正直どうしたもんかと頭を悩ませているというのが実情である。
「カルンちゃんも流石に直ぐには戻ってこないでしょう。その間に情報を纏めておきませんか?」
イオンの提案に、それもそうだとトールは同意する。ほかの2人も異存はないようであった。
「まず今回の襲撃に関して。当初はコンテストに出場する我々を害して、ダナン家への嫌がらせをするものだと考えていました。しかしそうではない可能性が出てきた、ということですね」
「そうだな。ナーリャ、その辺もう少し詳しく聞けるか?」
トールは《守護者の巨人》を展開しつつ、ナーリャへと尋ねる。
ナーリャも先ほどの引きつった顔を正して、真面目な顔つきで答え始めた。
「うん。まだ子供の頃の話なんだけど、おばあちゃんのところに貴族様の使いって人が来たんだ。その人はレステの一番偉い人の使いって話してて、おばあちゃんにレステに来てほしいって言ってたんだよ。でもおばあちゃんはダナンから離れる気がなくて、それを断ったの。そうしたらその人が怒り出しちゃって、わたしのことを叩いて、おばあちゃんに追い出されていたの」
トールは以前ナーリャが言っていた、貴族の使いに叩かれたというのを思い出す。トールが皆に貴族に対する意見を聞いた時だ。
「それで、貴族の使いとやらはそのまま帰ったのか?」
「うん、その時は。でもまた後日来たらしいんだけど、その時はわたしは危ないからって奥に引き篭っていたんだ。だから詳しい話は知らないんだけど、その後に貴族本人が来たこともあったって言ってた気がする」
貴族本人が来て、それでも断られたとすればそれは面子を潰されたと認識しても可笑しくはないか、とトールは考える。しかしそれだけであれば、いきなりここに来て命を狙われるというのも不思議な話だとも思っていた。
「うん、まだ貴族に対する認識が不足している気がする。その辺りどうなんだろう、リューナ?」
「そうですね。確かに本人が来て断られたというのであれば、面子を潰されたと怒る貴族もいるでしょう。しかしそれだけで命を狙われるとは、ちょっと思えないですね。まあ、貴族の中には平民は人ではないと豪語する者もいますが、それにしてもなぜ今になってというのが気になります」
「すみません、貴族様というのにそんなに詳しくないのですが、都会の方ではこういうトラブルは良くあるのですか?」
リューナの考えの後にそう聞いたのはイオンである。彼女は他国の、それも田舎出身であるため、貴族といわれる人々とつながりはなかったのである。
「普通はありませんよ。大衆の前でバカにされたとかであれば逆上して剣を持ち出す貴族もいますが、要請を断られたからといって命を狙うのはほとんどいません。確実に、といえないところがアレですが……」
リューナは少し言い辛そうに髪を弄りながらそう話す。
と、そこにあたりを見てきたカルンがいきなり上空から降って来た。屋根から目の前に飛び降りたのである。
「よっと。見て来たっすよ」
カルンは華麗に着地を決めると、手を振りながら何事もないように《守護者の巨人》の外から声を掛けてきた。
トールはカルンが飛び降りてきたであろう屋根を見上げ、3mは下らないなとその高さから平気で飛び降りてきたカルンを改めてどうなっているんだと考えてしまう。
「取り合えず中に入れてもらって良いっすか?」
「あ、ああ。すまない、今開ける」
トールが呆然とそんなことを考えていると、カルンから中へ入れてほしいと頼まれる。
トールはそれに快諾して、作られているドームの一部に穴を開けるとその中にカルンを招き入れた。
「いやぁ、逃げられちゃったみたいっす。流石に辺りには狙えそうなところはないっすね」
「そうか、ありがとう。助かったよ」
「いえいえ、これも仕事っすし、何よりナーリャとリューナを狙う悪党はあたいも放ってはおけないっすから」
「ありがとね、カルンちゃん。助かったよ」
「ありがとう御座います、カルンさん」
ナーリャとリューナの2人からもカルンへの感謝の言葉を追加で言われ、いやぁと頭をかきながらカルンは照れている。
「ちょっと聞きたいんだが、最初に狙ってきた矢は誰を狙っていたか分かるか?」
照れているカルンに、トールは質問をする。先の矢が誰を狙ったものなのかを確認しておきたかったのである。
「そうっすね、おそらくナーリャを狙っていたと思うっすよ。大体頭ら辺っすね」
「そうか。ありがとう」
トールはやはり先の矢はナーリャを狙った物であり、先ほどから話しをしていたナーリャに関するゴタゴタが原因というのも信憑性が増したなと考える。
すると、今後はナーリャの身辺警護に関して認識を新たにする必要があるなと、心の中で思っていた。
「それでどうするっすか? 取り合えずここを離れて、さっさと屋敷へと戻ったほうが良いんじゃないっすかね?」
「それもそうだな。屋敷まではそんなに距離がないから、一気に駆け抜けようか。前はカルンに任せても平気か?」
「うっす、了解っす。後ろはどうするっすか?」
「後ろは俺が《守護者の巨人》を展開して守る。遠くからの狙撃だったら、何とかなるだろう」
「そうですね。後は念のために魔法をかけておきましょうか」
トールとカルンが陣形を確認していると、その横からイオンの提案が上がる。
「魔法? なにかいいのがあるのか?」
「はい。皆さん少しじっとしていて下さい」
イオンは杖を取り出すと、集中し始める。
「vawJ msXKaKvx amvC gnGnYJ bnSJGio mawqdaY AGU yAr」
イオンが呪文を唱え、手に持った杖を一行にかざすと、その杖の先から緑色の光がトール達の体を覆った。
「風の護りの魔法です。多少の矢であれば、逸らしてくれるはずです」
「おお」
トールは、魔法の万能性に改めて感心している。それと同時に、早く言ってくれていればさっさと逃げられたんじゃないかとも思った。
そんなトールの内心を読んだ様に、イオンから追加の説明が入った。
「この魔法はあくまで1本程度であれば大丈夫ですが、同時に来られると破られます。カルンちゃんが調べてきてくれたので、多分大丈夫だと思いますが、念のためです」
つまりは、先ほどまで状況が分からなかったためこの魔法で切り抜けようとは思わなかったのである。いまは狙ってくる者もほぼいないだろうということで、本当に念のためにかけたのだろう。
トールが納得していると、カルンが既に前の方へと進んでおり、皆に声を掛ける。
「それじゃあ、一気にいくっすよ。付いてくるっす」
カルンの掛け声で、トール達は一斉に走り出した。
2日に一回の更新と言っておきながらの体たらく、申し訳御座いません。




