杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト21
「む。申し訳御座いませんが皆様付いてきて頂けますかな?」
憲兵に番所まで来いと言われ、ロカームはナーリャ達に同行を求める。これは憲兵と揉めるのを防ぐため同行しなければならないと判断した上で、護衛対象の彼女らをほおって置くわけにはいかないためである。
しかし、横からそれを拒否する声が掛かった。
「すまないが仲間を連れて行くことは許可出来ない。共謀して嘘の内容を話されても困るのでな」
それは憲兵の言葉であった。
明らかにおかしいその言い分を聞いて、トールはそういうことかと理解した。つまりは護衛の分断作戦なのであろうと。
「何をおっしゃるか。そのような理由で同行を出来ないというのは、聊かおかしいのではないですかな」
「いや、俺達もそれでいいぜ。なに、正しいのは俺らなんだから、一緒に行かなくても問題ないさ」
ロカームが抗議の声を上げようとした時、憲兵の意見に同意する声がチンピラ達から上がる。それはこの意見に同意しなければ、何かやましいことがあるのではという物言いである。
そして外野からも、やましい事がないなら付いていけ! といった声が上がり始める。
「相手方は同意してくれるようだ。御仁は如何か?」
ニヤリ、といった表情で憲兵はロカームへと尋ねてくる。
ここまでのやり取りで、ほぼ確実にこの憲兵とチンピラ達はグルであろうとトールは確信する。そして相手が取るであろう次の一手を考える。
「仕方ありませんな。私はダナ……」
「ロカームさん、ちょっと。申し訳ないが、少し話をしたいので、よろしいかな?」
ロカームが名乗りを上げようとしたのを、トールは憲兵とロカームの間に入ってとめる。そして憲兵に断りをいれてロカームに耳打ちする。
「今回の目的は護衛であるロカームさんを引き離すのと、ダナン公爵家の名前を出させることだと思います」
「む? どういうことですかな」
「護衛の引き離しは言うに及ばないので省きます。問題はダナン公爵家の名を出した時です。おそらく公爵家の名を使い、犯罪者をかくまったとでも言うのでしょう。ここには衆人観衆の目があります。名を出してしまったら、そのまま噂でも流されるでしょう」
「なるほど。ではどう致しますかな?」
「取り合えずロカームさんはこのまま憲兵についていって下さい。護衛は俺とカルン、イオンで行います」
ロカームはトールの意見に首を振る。
「それはいけません。もしもお嬢さん方に何かがあれば、それこそダナン家の名折れ。例えいまダナン家の家名に傷が付いたとしても、ここは名を出して引かせましょう」
「いや、そこまで重く考えなくても大丈夫だ。はっきり言って街中で出来る嫌がらせなんかじゃ、裏通りに行かなければ、せいぜいさっきみたいにチンピラに絡ませる程度だろう。その程度じゃ、カルンが一蹴できる」
出会って2ヶ月あまり。トールは何度かカルンの稽古を見せてもらっていたが、自分の認識を改めさせられるのには十分だった。はっきり言ってしまえば、人外だと思っている。
幾ら異世界とはいえ、アレを相手に出来るのは数える程度だろうと思っていた。
「いや、しかし……」
「大丈夫だ。さっさと屋敷まで帰るしな」
ロカームは、口元に手を当てて少し考えるそぶりを見せる。そして周囲を一度確認すると、口を開いた。
「わかりました。そこまで言うのであれば、信用しましょうぞ。ただし、すぐさま屋敷まで帰ってください」
「我侭言ってすまないな。そうするよ」
トールは待っていた憲兵に手を上げて話が済んだことを伝える。
そして、ロカームとチンピラの一人は、そのまま憲兵へと連れられてその場から去っていった。
「さて、それじゃあさっさと帰ろうか」
「……そうですね。そのほうがいいでしょう」
トールに促され、一行は屋敷へと歩み始めた。
その際、残ったチンピラ風の男たちとすれ違う。トールがその表情を見ると、すこし戸惑った様子でこちらを見ていたが、特に何か行動を起こすといった事もなく、そのまま通りすぎることが出来た。
トール達はそのまま大通りを通り、貴族街へと向かっていく。皆黙っていたが、リューナが途中で口を開いた。
「トールさん、一ついいですか?」
「ん? どうした?」
リューナはトールの直ぐ傍まで来る。そしてぎりぎりトールが聞き取れる程度の大きさで話し始めた。
「先ほど、なぜダナン家の名を出すのを止めたのですか?」
「ああ、その話か。ちょっと思うところがあってな」
「思うところ?」
リューナはそのトールの言葉を聞き返す。
「一つは少しでもダナン家に貸しを作っておきたいと思ったことだな。まあ、もしかしたらダナン家の名を使わなかったほうが、心象が悪くなるかも知れないけどな」
ダナン家の保護下にある状態で、逆にダナン家の名を使わないほうが貴族としての自尊心を刺激しかねない。しかしトールはあえてその行動を取ることを提案していた。
「駄目じゃないですか。それでしたらどうしてこのような行動を?」
「もう一つは、少しでも裏をかきたかったからだな。おそらく貴族であれば、普通は保護下の者を守るのに、その名を使うだろう。だからあえてその方法を取らずにおきたかった。仮に相手側に何かしらの計画があったのだとしたら、初手で少しは躓かせることが出来るかなと思ったんだよ」
貴族の普通の考えであれば、自分の保護下にある者を守るのに名を使うというのは当たり前である。それを初手として、今後の計画は練られているとトールは考えていた。
それをいきなり違う方向へ持っていけば、計画を修正せざる終えない。ちょっとしたことであるが、そういった修正の積み重ねというのは、得てして計画自体を破綻させかねないのである。
「だから、一言で言えば相手への嫌がらせだな」
「よくもまあ、そこまで頭が回りますね。トールさんって実は貴族の魂でも入っているんじゃないですか?」
残念、設計者の魂だとトールが考えていると、貴族街へと続く道に差し掛かる。そこは大通りと比べて若干狭くなっているが、それでも十分人の通りは多い道である。
すると、カルンが立ち止まって皆に呼びかける。
「うーん。なんか嫌な気配がするっすね。ここはあたいが先頭になるっす。直ぐ後ろにナーリャとリューナは付いてきてほしいっす」
カルンは目線だけで辺りを確認し、そのまま先頭へと出る。
先ほどカルンに言われたとおり、ナーリャとリューナはその直ぐ後ろについて行き、そのまた後ろをイオンとトールが付いていく形になる。
先頭を行くカルンは、特に何事も無かったかのように頭の後ろで手を組みながら歩いている。
「嫌な気配って、なんだか分かるか、イオン?」
「私には分からないです。でもカルンちゃんはそういったことには敏感なので、間違っていないと思いますよ」
イオンも目線で周囲に気を配りながら、トールの質問に答える。
トールとしては、はっきり言って気配とかまったく分からないので、大人しく従うことにする。餅は餅屋の精神である。
数分ほど歩いた後、カルンは急に立ち止まった。
「どうしたの、カルンちゃ……」
ナーリャが疑問に思って声を掛けようとした瞬間、カルンは手に持っていた槍を一振りする。すると、ギン! という音と共に、何かが弾かれるのが見えた。
「矢っすね。弩だとは思うっすけど、細かいとこは分かんないっす」
カルンは特に慌てた様子もなく、そう話す。その目線はある建物の屋根ら辺に向いている。
弾かれた矢は、そのまま直ぐ傍の建物の壁へと突き刺さった。それに気が付いたあたりの住人は、一瞬の沈黙のあと一気に騒然となった。
「な、なんだ!?」
「なになに、どうしたの!?」
「誰かが矢を撃ってるぞ!」
行き交う人々は我先に走り去ろうとして、更なる混乱を巻き起こす。屋内へ隠れようとする者。取り合えずその場から離れようとする者。自分の子を抱えて走り去ろうとする者。
そんな混乱した状況の中で、一行は身動きが出来なくなっていた。
「どうするっすか。下手に動くと、この群集に紛れ込まれたら対応できないっすよ」
「一旦壁際へ行こう。そして辺りが落ち着くまで待つ」
トールもこういった経験は皆無なのでどうしていいか分からなかったが、取り合えず警戒する必要がある方向を限定しようと、壁へと向かうことを提案する。
その案に一同が頷き、ゆっくりと壁際へと進む。
「まさかここまでしてくるとは、思いませんでした」
リューナの呟きに、トールとしても内心同意していた。
少なくとも、最初はコンテストを降りろとか、そういった脅しから始まると思っていた。それがいきなり命を狙われるとは露とも思っていなかったのである。
「まいった。完全に誤算だ。ナーリャとリューナ貴族に恨まれるようなことでもしたか?」
「流石にそんなことはしていませんよ。ねえ、ナーリャさん?」
トールのおどけた様にした質問に対して、リューナもそれに合わせてナーリャへと振る。
しかしナーリャは、少し引きつった笑顔でトールとリューナを見た。
「もしかしたら、わたしの所為かも……なんて」
ちょくちょくと更新できずに申し訳御座いません。
毎日更新が少し難しくなってきてしまいました。おそらく2日に一度ぐらいの更新頻度になるかと思います。




