杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト20
ブランシュ達と別れた後、トール達は一通り魔道具について見て回った。
普通に魔法を使うより効率的に火をおこせる魔道具に、ナーリャが愛用している水を生み出す水筒のようなもの等、多種多様な魔道具が陳列されている。
他にも各種薬の類に、先ほどナーリャが持ってきていた液体状の爆薬もおかれている。
そしてこのラクテウス商会の店の特徴として、魔道技師相手の品物も多く取り揃えられていた。
「魔力インクに、魔紙? 魔紙ってなんだ?」
「魔力の通りを良くした紙ですね。普通の紙に書くより、魔法陣を発動するための魔力を抑えられるんですよ」
「なるほどな。色々あるもんだ」
トールはリューナの解説を聞きながら、魔道具を見て回っている。
ナーリャはというと、カルンとイオン相手に魔道具講義を熱心に行っており、トールはそれに巻き込まれないようにしていた。
「後は魔法陣を刻み込むための各種宝石ですね。この辺りは結構入手が困難なので、少しほしいですね」
「宝石? 魔石じゃないのか?」
トールがゴーレムを作り出すときに、各部に魔法陣を刻み込んでいる。魔法陣の形を彫り、そこに魔石の粉末を押し固めて魔法陣としているのである。
「魔石は汎用性が高いのですが、各属性に適した宝石があるのですよ。それらを使うことで、かなりの効率化が図れます。例えば……」
リューナは商品棚を覗き込むと、一つの宝石を取り出す。それは半透明の水色のものである。
「アクアシードといわれる宝石ですね。私達魔道技師の間では水石と呼ばれています。これはその名の通り、水属性に適しています」
「そうなのか。初めて知ったよ」
「……一応魔道技術の基礎なんですが。貴方は変なところで知識が抜けていますね」
そもそもトール魔道技術なんぞない世界から来ているので当然である。魔道技術に関して得た知識のほとんどは、基本ナーリャとリューナに聞いたことと、《知識の泉》から得たものである。
そのため体系的に学んでいないため、知識にどうしても偏りが出るのである。
「そうするとゴーレムを作るのに適した宝石ってのはどれなんだ? そもそもゴーレム作成の魔法陣って、どの属性に当たるんだ?」
「基本はゴーレムの素材となるものによりますね。金属であれば火と土が適しているといわれ、木ですと水と土といわれてます。ただ他の要素もあると考えられており、それも研究の対象になっていますね」
「ふむ、そうするとこのゴーレムだと火と土か。それに適した宝石ってどれだ?」
「そうですね……」
リューナは手に持っていたアクアシードを棚に戻すと、再度棚を眺めて二つ宝石を取り出す。それぞれ半透明の赤色と黄色の宝石である。
「フラムロードとラントガンデです。フラムロードは火、ラントガンテは土ですね」
リューナは一言説明を付け加えると、手に持っている宝石をトールへと渡す。
受け取ったトールは、それらの宝石を確かめるように店内を照らしているランプへと宝石を向けて、光を透かせる。
「うーん。ガーネットとトパーズっぽいな。似たような組成なのか? まあ見た目だけでは判断できないか」
「ガーネットとトパーズですか? 聞いたことのない宝石ですね」
「ああ、すまない、忘れてくれ。そういえば他の属性の適正の高い宝石はないのか?」
トールは地球の宝石のことを誤魔化すと、他の属性、重力、光、雷、時空の属性に適した宝石について聞く。
その質問を受けたリューナは、少しため息をつくと、トールへと答えを返した。
「そもそもトールさんに聞くまでそんな属性があるなんて知らなかったんですから、その他の属性に適している宝石なんて流通していませんよ」
「ああ、それもそうか」
トールはその答えに納得して頷く。
「おいおい探していかなければと考えてはいますけれどね。まずは落ち着かないことには、どうにも動き辛いですから」
ここ数ヶ月で人生観が変わりましたよ、とリューナは漏らしている。
トールとしてもまさに文字通り人生が変わっているので、同意するところであった。
「トール、まだ見たいものある?」
とそこでトールに声を掛けてくる人物がいた。カルンとイオンを連れていたナーリャである。
「そろそろいい時間になったから、御屋敷に戻らないとと思ったんだけどまだ見たいものあるかな?」
店には外の明かりを取り込むための窓が設けられており、そこをトールが見ると日が傾き始めているのが分かった。
トールも気がつかないうちに話に夢中になっていたようだった。
「いや、俺のほうは大丈夫だよ。リューナは?」
「私も大丈夫です。あまり遅くなってアトラ様にご迷惑をかけるわけにもいきませんから、そろそろ帰りましょうか」
そうして一行は何も買わずに店を出て行く。完全にウィンドウショッピングである。
店を出ると表の路上は昼と同じように人でにぎわっている。違いがあるとすれば、食料を買いに来ている女性が増えていることだろう。
「さてと、そうしましたらこのまま屋敷へ戻るでよろしいですかな?」
「はい、お願いします」
ロカームの確認に一同頷くと、そのまま屋敷へと向かい始める。
先頭をロカームが進み、その後ろにトールとナーリャとリューナ。そして最後尾をカルンとイオンの順である。
「それにしても、特に何にもなかったね。嫌がらせかなんかされるかと思っていたんだけど」
「流石に人目がつくところでは、何か出来るわけでもないのでしょう。騒動になってもあちらも困るのかも知れませんね」
普通に考えれば、コンテスト出場者がトラブルに巻き込まれて不参加になろうものなら、誰かしらの妨害と考えるだろう。ただ、トールはまだ十分ありえると認識していた。
相手は貴族の中でも、とりわけ権力の強い公爵である。対してこちらも公爵の庇護下にあるが、一般人程度であればどうとでも言い訳が点くだろう。
と、そんなことをトールが考えていると、いかにもチンピラ風の男達が5人ほど通りの向こうがらやってくるのが見えた。
まさか幾らなんでも、嫌がらせ要員としてはあからさま過ぎるなとトールが考えていると、そのうちの一人がロカームへ肩とぶつけてきた。
「おい、おっさん! いてぇじゃねえか!」
一見騎士風の男に絡むチンピラ風男。それだけ聞けばただのバカである。
トールとしても、もう少しマシな嫌がらせはないのかと天を仰いだ。
「おや、すみませんな」
ロカームとまともに相手してもしょうがないと思ったのだろう、そういうとさっさと通りすぎようとする。
しかし、やはりというべきか後ろにいた男達がその道を塞ぐ。
「おいおっさん。タダで帰れると思ってんじゃねぇだろうな!」
「おーいてぇ。肩を変に捻っちまった。これじゃあ医者へ行かねぇと、ダメだわ!」
「おいおいおっさん! どうしてくれんだよ!」
御約束のテンプレートとでも言うべき言葉の羅列に、聞いていたトールは頭が痛くなってくるのを感じる。
男達が大声で叫んでいたからであろう、トール達を囲むように辺りには人だかりが出来ていた。
「何をしている!」
するとそこに憲兵らしき男達がやってくる。
人垣と掻き分けて憲兵はロカームとチンピラたちの間に入り込むと、それぞれを睨みつける。
「貴様ら、往来の中心で何をしておるか!」
「おっと、聞いて下さいよ憲兵さん。このおっさんがいきなり人にぶつかって来て、それで怪我を負っちまったんですよ」
ふむ、と一言呟くと憲兵はロカームのほうへと向き直る。
「この者はこう申しているが、依存はないか?」
「いえ、先に当たってきたのはあちらの者でしてな。ぶつけられた挙句にいきなり騒ぎ立てられて、迷惑をしていたんですよ」
ロカームはありのままを憲兵へと伝える。
その言葉を聞いた憲兵は、両者をみると、こう口に出した。
「両者の言い分は異なっているようだ。すまないが一度番所へ来てもらおう」




