杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト19
ナーリャとトールは声を掛けられた方向に顔を向ける。
するとそこには以前鉱山ギルドにて契約の仲介者として世話になった、私服と思われる様相の司祭のブランシュともう一人フードを被った女性が立っていた。
「あ、こんにちはブランシュ司祭様」
「はい、こんにちは。こんな所でお会いするなんて奇遇ですね」
ブランシュは笑顔でナーリャへと話しかけてくる。
「本当にそうですね。そういえば先日は御世話になりました」
ナーリャはブランシュにお礼を言って頭を下げる。ブランシュに会うのは鉱山ギルド以来だったので以前の契約についてお礼を言いたいと思っていたのだ。
「いえ、これもお勤めですから。それはそうとナーリャさんはなぜ王都に?」
「実はある依頼でこちらに用ができまして。ちょっと詳しくはいえないのですけれども」
ナーリャはブランシュに聞かれたことを少しぼかしながら答える。実際は話してしまっても問題ないかもしれないが、危険がありそうな状況で巻き込む可能性を少しでも減らそうと考えたのだ。
「依頼ですか。ナーリャさんは勤勉ですね。そうするとリューナさんと、あのトールさんもご一緒ですか?」
「ああ、俺ならここにいますよ。この間は御世話になりました」
トールはナーリャの横に出ると、挨拶がてら頭を下げる。
いきなり現れた全身黒い鎧で覆われた男の出現に、ブランシュは眼を丸くしもう一人いた女性がブランシュの前へと出る。
かなり警戒されているなとトールは考え、誤解を解くべく話を続ける。
「今はこんななりですが、私はあの杖のトールです。この体は私が作ったゴーレムですよ」
流石にこの場でゴーレムから出るのは問題だと思ったトールは、警戒させないように両手を小さく上げながら、ブランシュへと語りかける。
その言葉を聞いたブランシュは再度眼を大きく見開いて、驚いた表情を作る。
「トールさんですか? 貴方様が……」
ブランシュはトールに近づこうとするが、前に出ていた女性に止められる。
「ブランシュ、危ない」
「大丈夫ですよ、アンジェ」
ブランシュはアンジェと呼ばれた女性を下げると、トールの方へと近づいてきた。
「触っても?」
「かまいませんよ」
ブランシュはトールに一言断りをいれ、恐る恐るといった感じでゴーレムの腕に触れる。
最初はおっかなびっくりといった様子であったが、そのうち慣れてきたのか色々なところを触り始めた。
「ゴーレムといっても、外装は鎧と違いはわかりませんね」
「ええ。外装は普通の鎧を使ってますからね。中身を見れば一目瞭然なのですが、さすがにこの場では……」
トールがあたりをも回すと、店の中には多くの客が見て取れる。
ここでいきなり大男風の者が鎧を脱ぎ出して、そして中身が金属による骨格を主とした骨組みであるとあれば、下手をしなくても騒動になるだろう。
一部だけを取り除ければよかったが、試作機としてのこのゴーレムはそういったことができない物であった。
「大丈夫ですよ。こうやって御話させて頂いて、以前と声は同じですから。流石にトールさんが人になったと言われるよりは、信憑性がありますよ」
手を口元に当てて、ブランシュはクスクスと笑いながらトールへ話す。
そのブランシュの態度を見て、トールは以外と驚かないものだなと考えていると、ふと彼女の後ろにいる女性が眼に入った。
先ほどトールが名乗り出た時に、ブランシュを庇っていた女性である。
「失礼。先ほどから共に居られる方はどなたでしょうか?」
「ああ、すみません。彼女を紹介していませんでしたね。彼女はアンジェ。私の護衛をしてもらっています」
アンジェと呼ばれた女性は、ブランシュの紹介にあわせて軽く頭を下げ、すぐさま直立不動の体勢に戻る。
「アンジェったら……すみません、無愛想な子で」
「いえ、お気になさらず。私はトール。これでも話す杖をしています。で、こっちが……」
「ナーリャです。宜しくお願いします、アンジェさん。ダナンの街で魔道具のお店を開いています」
トールとナーリャは合わせて自己紹介をする。
そしてナーリャは、辺りをきょろきょろ見渡して、リューナたちを探す。
「もう3人がいまして、ちょっと待ってて下さい」
ナーリャはリューナたちを見つけると、小走りでそちらへと向かっていく。
リューナ、カルン、イオンの3人は冒険者達が愛用する魔道具のコーナーで話していたようだ。
そこにナーリャが入っていき、二三言はなすと、ナーリャは3人を引き連れてトール達のいる場所まで戻ってきた。
「こんにちは、ブランシュ様。先日は御世話になりました。あと初めまして、アンジェさん。リューナと申します。ナーリャさんとは同じお店で働いています」
「初めましてっす。カルンっす。冒険者っす」
「カルンちゃんったら……初めまして。イオンと申します。カルンちゃんと一緒に冒険者をしています」
ブランシュと会った事のあるリューナは軽く彼女に挨拶をし、アンジェへは軽い自己紹介をする。
カルンとイオンは、ブランシュとも初対面のため、2人に向けて自己紹介を行った。
「皆様こんにちは。ブランシュと申します。ダナン城塞都市の教会にて、司祭を賜っているものです。そしてこちらがアンジェ。私の護衛をしてもらっています」
ブランシュはカルン達の挨拶に対して、頭を一度下げて丁寧なお辞儀をする。
アンジェのほうは、先ほどと同様、軽く頭を下げただけである。
「まさかここでお会いできるとは思っていませんでした。王都へはどのような用事で?」
「教会の御仕事で少々こちらに用事がありまして。せっかく王都に来たので、こちらにしかないような物を見て回っていましたの。王都といえば、最近はやはり最新の魔道具が多いですから」
「そうですよね、王都と言ったら魔道具ですよね。わたしも王都に着たら絶対魔道具を見ようと思っていたんです。まだそんなに見て回れていないんですけど、やっぱり種類の豊富さはすごいですよね。さっきも初めて見るものがあって、取り扱い注意だったんですけど、それを知らないでぐるぐる回しながら見ちゃいました。やっぱり真新しい魔道具って素敵ですよね。あ、そういえばさっきちょっと見ただけなんですけど、気になったものがあって……」
「ナーリャさん、落ち着いて下さい」
ブランシュの魔道具を見に来たという言葉を聞いて、ナーリャは一気に魔道具談義を始める。
ある意味いつものそれに、慣れた様にリューナは冷静に突っ込みを入れて止めに掛かった。
「すみません。ナーリャは魔道具のこととなると、話が長くなってしまって。やはり王都は魔道具で有名なんですね」
トールがナーリャをフォローするようにブランシュへ話しかける。
ナーリャの一気呵成の魔道具話に少しばかり驚いていたブランシュは、表情をいつもの微笑みがかったものに直すと、トールへと向きなおした
「はい。このクリーオス王国は魔道具の最先端をいっていますから。その王都ということで、多種多様の魔道具が集まるのです。私も用事があって王都に来る際には、こうやって色々な魔道具を見て回ることが多いですね」
ナーリャの祖母、サーフィが魔道技術を発見して数十年。
トールはそれ以前のこの世界を知らないが、今では魔道具はかなり生活に根付いていると認識していた。その発祥の国として、クリーオス王国は地位を築いてきたのであろうと納得する。
「しかし魔道具であるトール様にそのような質問をされると、なんだか妙な気持ちになってしまいますね」
クスクスと小さく笑いながら、ブランシュはそう付け足す。
「確かに、魔道具である自分が魔道具のことについて質問するというのも可笑しい話ですね」
トールもそれにつられて笑い声を上げる。
2人が笑っていると、リューナに窘められたナーリャが改めてといった様子でブランシュへと話しかける。
「ブランシュ様、よろしければ一緒に見て回りませんか?」
そのナーリャの提案に対して、ブランシュは一瞬嬉しそうな表情を見せるが、後ろにいたアンジェに突かれ直ぐに何かに気がついた表情となり首を振った。
「申し訳御座いません。この後用事があるので、御暇させて頂きます。次に機会があれば是非にでもお願い致します」
ブランシュがそういって断りをいれながら頭を下げると、慌てた様子でナーリャは手と首を振る。
「いえいえ。わたしも急なお話を振っちゃってごめんなさい。それでしたら今度ダナンで一緒に買い物にでも出かけましょう」
「そうですね。ぜひお願いいたします。それでは失礼致します」
ブランシュはもう一度丁寧に頭を下げると、トール達の前から立ち去っていった。
残った面々は、ブランシュ達の姿が見えなくなるまで、その場になんとなく残っていた。
「司祭様と御知り合いだなんて、ナーリャさん達はお顔が広いんですね」
そう口を開いたのはイオンだ。
通常教会などでお祈りをする際に出ては来るが、その人と個人的に付き合いがあるというのはまた別の話である。そういった意味で個人的なつながりがある2人に驚いたのだろう。
「そうですね。実はあの鉱山に行く前に、鉱山ギルドとの契約の際に御世話になったのですよ。ブランシュ様もトールさんに興味があったようで、そこで少し御話させていただいたんです」
「なるほど。杖の兄さんに興味を持つっていうのも、良くわかるっすよ」
カルンの相槌に、リューナは本当に、と漏らしている。その視線はトールの方を向き、さらに何かを言いたそうである。
トールはそれに気付かない振りをして、そういえばと声を上げる。
「それじゃあ魔道具を見て回るのを再開しようじゃないか。俺も色々と見てみたいしな」
わざとらしく声を上げて率先して商品の方へと向かうトールを見て、ナーリャとリューナは揃って笑い声を上げていた。
長らく更新が滞ってしまい申し訳御座いませんでした。
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