杖と魔道技師とゴーレムとコンテスト18
リューナの案内の元、最初に訪れた魔道具店は個人経営の店であった。
店の規模としてはナーリャのそれと大きく違わない。中は商品棚が並び、奥に店員のいるカウンターが設けられている。
中には数人の冒険者らしき男達と、主婦のような女性、それにその子供と思われる男の子が見受けられた。
「まずはここがナーリャさんと同じく個人経営をしているお店です。私も以前はよくご厄介になっていました」
リューナは少し懐かしそうにしながら、店について紹介する。
商品にはナーリャの店にも最近置き始めた薬関連や、家事などで使用する魔道具などが並べられている。その他には冒険に必要な魔道具や、各種攻撃用の道具なども置かれていた。
「そうなんだ。わたしの店と比べても、色々なものがおかれているね」
「面白いっすね。これなんてなにに使うかさっぱりっすよ」
「カルンちゃん。あんまり弄らないでね?」
少女達は思い思いに商品と手に取りながら、会話を楽しんでいる。
トールは軽く回りを見渡して、特に危険はなさそうだと素人判断してから自分も商品を見て回ろうと思っていた。
「いやはや、年頃の女性達が最初に来る店に魔道具の店を選ぶとは。小生も随分と感覚が古いようで」
と、観て回ろうとしていたトールにロカームが声を掛けてくる。
「女の子といっても魔道技師だからな。あの2人が特殊だと思うぞ。それにカルンとイオンは冒険者だし、この手の物に興味があっても不思議じゃないしな」
「なるほど。確かにそう言われればそうですな。いやはや、年を取ると頭が固くなっていけませんな」
はっはっはと笑い声を上げながら、ロカームもその辺りにある魔道具らしきものを手に取る。それは手のひらに収まる程度の大きさの石であった。
「それはなんだ?」
「これですかな? 小生も手に取っただけで、良くわかりませんな」
「それは冷却石だよ」
トールとロカームが手に持った石について話をしていると、何時の間にか戻ってきていたナーリャが声を掛けてくる。
「冷却石?」
「そう、冷却石。魔力を込めることで石自体が冷えるんだ。そこまで冷たくなるわけじゃないんだけど、旅なんかする時使えば持って来た食べ物なんかが長持ちするんだよ。これは火の属性を使っているんだ。火なのになんで冷やせるかというと、魔道学的には火というのは低温も司っていると考えられているからだね。まだまだ原理は良くわかっていないんだけどもね。だから氷なんかを作り出す場合は、火と水の複合属性になるんだよ」
ナーリャは怒涛の勢いで魔道具説明を始める。
ロカームはその勢いに押されて、引きつった笑顔を表情に浮かべていた。
一方トールは、火の属性の見解について考えていた。
そのそも火というのは基本的には酸化反応で発生した光と熱のことである。それを人は利用し、文明を築き上げてきたといっても過言ではないだろう。
だがこの世界の火の属性が冷却についても司っているというのであれば、おそらく正確には火ではなく熱を司る属性なのだ。エントロピー云々かもしれない。
トールがそんなことを考えていると、さらに魔道具への解説が白熱してきたナーリャをリューナが止めていた。
「ナーリャさん、落ち着いて下さい」
「う、うん。えっと、スミマセン」
「いやいや、大変勉強になりましたぞ」
ナーリャはロカームに謝り、彼はフォローを口にする。
カルンとイオンは店の奥のほうで色々と手にとって観て回っているようである。
「さてと、それでは他の店に行ってみましょうか。魔道具最大手のラクテウス商会の本店が王都にありますし」
ラクテウス商会。
以前トールが《知識の泉》にて作成方法を検索した魔力インクを一手に扱っている商会である。
「うん。一回行ってみたかったんだよね、ラクテウス商会」
ナーリャは楽しそうにリューナへと話かける。そしてカルンとイオンを呼ぶと、皆を連れて店を出て行く。
外に出た一行は、リューナの案内の元今度はラクテウス商会へと向かっていった。
商会は王都の大通りの進んだ先にあるようで、どんどんと人ごみが多くなってくる。何とかはぐれないようにトールもついていくと、リューナの歩みが止まった。
「ここがラクテウス商会です」
そこは大通りの先にある広場に隣接する建物であった。
外観は石造りで高さは優に10mを超えており、外から見た広さは流石に日本のデパートと比べれば狭いが、それでもかなりの広さを誇っている。
「うわぁ」
「すごいっすねぇ」
「お店がこんなに広いなんて……」
初めて来た3人は、それぞれ感嘆の声を上げている。その様子は完全に御のぼりさんといった感じだ。
リューナとロカームは来たことがあるのでそこまでは驚いていない。というかリューナに関しては、トールがそれほどまでに驚いていないことに不満の声を上げていた。
「トールさんはここでもあまり驚きませんね」
「いや、そんなことは無いぞ。少しは驚いているさ」
トールとしては石造りでこれだけ大きい建物は観たことがなかった。だがやはり高層ビルなどと比べると、そこまで驚きの声を上げるというほどでもなかったのである。
「まあいいです。さて皆さん、中に入りましょうか」
「そうだね」
リューナに促され、一行はラクテウス商会の商店へと入っていく。
そこは商品の種類ごとに区画が設けられており、魔道具だけでなく日用品など様々な物が並べられている。
初めて組の3人は店の入り口付近できょろきょろと辺りを見回しており、後ろから来た客の道を塞いでは謝って道を開けていた。
「魔道具はこちらですよ」
そのリューナの言葉につれられて、2階にある魔道具区画へと入っていく。
そしてその区画にたどり着いた時、ナーリャは思わず声を上げていた。
「すごーい! こんなにいろんな魔道具があるなんて!」
ナーリャは小走りで商品棚へと駆け寄ると、すぐさまそこにある魔道具を手に取り始めた。
他の面々を歩いて商品棚へと行き、それぞれ見始める。
「トール、トール。これ何かわかる?」
「ん? どれだ、ナーリャ」
ナーリャがトールに差し出してきたものは、ビンに詰まった無色透明な液体だった。
「さて、なんだろうな」
「うーん、トールもわからないかぁ」
ナーリャは首をかしげて、ビンを持ち上げてしたから見たり、くるくる回したりしながら見ている。
トールもナーリャが知らない物ということに興味を持ち、《知識の泉》を使って調べてみることにした。
……画像参照:液体火薬と判明。火想草を磨り潰した液体と、フレート石を万魔の溶融剤にて液化したものを混合させろ過した物。燃鉱石より作り出した火薬より火力が高い反面、軽い衝撃等で反応するため取り扱いに注意が必要
うげ、とトールはその《知識の泉》の調査結果を聞いてうめいた。
「な、ナーリャ。取り合えずそれを静かに置こうか」
「? 何で?」
様々な角度でビンを眺めながらナーリャはトールに聞き返す。
「それ、火薬の一種だ。衝撃を与えると爆発するぞ」
そのトールの言葉を聞いた瞬間、ナーリャはピタリと動きを止める。
ナーリャはゆっくりとビンに視線を向けると、そのままゆっくりとした動作でビンを棚へと戻していく。
「ふわぁ、こわかったぁ」
ビンを棚に戻すと、ナーリャは胸に手を当てて大きく息を吐き出す。
トールも今は持っていないはずの心臓がバクバクしているのを感じていた。
「あら、ナーリャさんではありませんか?」
そんな時、ナーリャに対して横から声が掛けられたのだった。
9/13 追記
長らく更新を放置状態にしてしまい申し訳御座いません。
次回更新は9/15(木)の予定となります。




