プロローグ第2
「んっ……あっ、あああ……、クソっ、おめぇんだよっ!!」
そう言うやいなや先程まで側近と呼ばれていた人物は先程まで羽織っていた黒いローブを脱ぎ捨てた。
それによりやっと側近と呼ばれていた人物の容姿が露になった。
腰まで届く程に長い黒髪
少し太めで更に濃い眉
意思の強さを感じさせる切れ長で鋭い瞳
一本筋の通った鼻
やや大きめながらも決して不恰好ではない口
そしてその口から覗く印象的な八重歯
部分的に見ても全体的に見ても美形に入る類いの端正な顔立ちをした男性だった。
と、ここまで男性の容姿について描写したが何故彼がローブを脱ぎ捨てたのか説明していなかった。
理由は単純、走るのに邪魔だったからだ。
では、何故彼は走っているのだろうか?
これもまた単純な理由だ。
何故なら彼はこの世界の闇の王である魔王を殺してしまったからだ。
魔王の配下の異形の怪物達が彼を捕らえようとするのは当然の結果と言えるだろう。
しかし、彼は大した焦りもなく独り言のように呟いた。
「んー、やっぱ追って来るかぁ、でもまぁ、上手くは行ったかな?
結果的には大した労力も使わずにできた訳だしなぁ。」
彼はまるで怪物達に追われている事が大した事ではないと言うようにまるで意に介さずにペースを落とさず一定の速度で走り続ける。
「んっ?…………はぁ、やっとかよ。
まだなんか満たしてねぇ『条件』があんのかと思って焦ったぜ。」
そう言うと彼は突然立ち止まった。
体力が尽きたのだろうか?
しかし、彼は汗をかき、息を切らしてはいるものの決してその顔に疲労の色は見えず、体力切れで立ち止まったようには見えない。
彼はゆっくりと、まるで朝起きて直ぐかのようにストレッチをして。
これまたゆっくりと、いっそ緩慢と言っても良い程の仕草で後ろを振り向いた。
彼の背後から迫って来ていた怪物の姿を彼はやっと目視するも、彼はまるで興味が無いとでも言うような顔で怪物達を見ていた。
そう、例えるならば全く自分と関係の無いテレビの中の怪物を見るかのように。
馬と蟻をミキサーの中に入れてシェイクしたかのような姿の怪物が彼に向かってその蹄のようななんとも形容し難い手の様なものを伸ばした。
しかし、その手の様なものは大した抵抗も無く振り抜かれた。
彼が避けたのではない。
そもそも彼は先程から指先一つ動かしていない。
では、怪物の手の様なものが彼の身体を豆腐の様に貫いたのか?
それも違った。
確かに怪物の手の様なものは彼の腹部を貫通している様に見えるが、そこからは一滴の血も流れていなかった。
そう、怪物の手の様なものは彼の腹部をすり抜けていたのだ。
まるでホログラフィーの様に。
勿論これは怪物の仕業ではない。
怪物の狼狽える様を見れば直ぐにわかる事だ。
彼の腹部を貫いている(様に見える)怪物が狼狽えているのに対して、彼は至極落ち着いた口調で怪物に喋り掛けた。
「おーおう、狼狽えちゃってまぁ。
見苦しいったらありゃしねぇ。」
彼はその端正な顔をこれでもかと歪ませて、厭らしい笑みを浮かべながら怪物達を嘲笑う。
怪物達がその笑みに怒りではなく底知れない恐怖を感じだした頃、ある変化が起こった。
なんと、彼の身体が徐々に透明になりだしたのだ。
いよいよ恐怖を抑えきれなくなった怪物はガラスを引っ掻いた様な声をあげながらその場から飛び退いた。
すると、彼の身体は更に勢いを増して透けていき、やがて霞みの様に消え去った。
後に残ったのはすっかり怯えきった怪物達だけだった。




