プロローグ
皆さんは異世界に召喚されたことが有るだろうか?
普通は、勿論NOだろう。
だが、もしも嘘偽り無くYESと答えられるという人は1つ質問してもいいだろうか?
貴方は一体、何回異世界に召喚されましたか?
真夜中、それも言葉通り一寸先は闇と言える程に暗い中灯りも何も無く話し合う姿があった。
「まだか、まだ勇者は見つからんのかこの役立たず共がァ!!」
真っ暗でじめじめした城にまるで猛獣の様な声が鳴り響いた。
その猛獣の様な声の主は正しく猛獣の様な……否、比べてしまっては猛獣の方が可哀想になる程に恐ろしい姿をしていた。
顔はまるで蜘蛛の顔に鰐の口を無理矢理くっ付けた様な形をしており、大きさは小さなテーブル程もあった。
体は人型ではあったが、全身にびっしりと鱗がありあまつさえ背中側には自らの身体の倍程の翼と、細長い獅子の様な尻尾があった。
どう好意的に見ても怪物としか表現出来ないソレは癇癪を起こし
ヒステリックに喚き散らし続けている。
怪物の部下らしき、これまた人間離れしている外見を持つ者達は余程怪物が恐ろしいのか、びくびくと震えるばかりで一向に喋ろうとはしない。
「魔王様落ち着いて下さい。」
と、怪物の横に立っていた者がゆっくりと丁寧な口調で言った。
その人物は大きな黒いローブを身に纏っている為どんな姿かはわからないものの、その声から怪物達とは違う人間らしさが伺えた。
おそらくは声の感じからして若いの男性である。
「ぬうぅ……しかし側近よ、我がこの者達に勇者の捜索を任せてからもう2ヶ月も経っておるというのにこの者達は勇者どころか、勇者の情報1つ録に見つからんと言うのだぞ?」
怪物は少しばかり冷静さを取り戻したようで喚くのを止めゆっくりと玉座に腰掛けた。
そう、玉座に腰掛けた事と先程側近と呼ばれた男性の呼び方から解る事だがこの怪物こそがこの世界における魔王である。
魔王
即ち闇の世界の、
即ち夜の世界の、
即ち恐怖を司る、
即ち畏怖の対象。
それこそが魔王である。
しかし、常に恐怖される側のはずの魔王は今、酷く恐怖していた。
先程の会話にも出て来ていた勇者の存在に。
勇者
即ち光の世界の、
即ち昼の世界の、
即ち希望を司る、
即ち尊敬の対象。
それこそが勇者であり、この世で魔王に対抗出来る唯一の存在である。
「勇者だ、勇者を亡き者にさえすれば我が恐れるものは何もないのだ。」
魔王は半ば自分に言い聞かせる様に言った。
「魔王様、勇者が見つからないのは当たり前でございます。」
側近は当たり前の事を言う様に言った。
「何、勇者が見つからんのが当たり前だと?
どういう事だ側近!」
見るだけで殺そうとする様な魔王の視線をものともせず側近は喋り続ける。
「魔王様は灯台もと暗しという言葉をご存じですか?」
魔王はその成人男性の拳程もある目を閉じてほんの少し考える様な仕草をするも首を横に振った。
「ご存じありませんか。
まぁ無理もないでしょうね、この言葉は私の祖国に伝わる教訓の様なものですので。」
「して側近よ、その灯台もと暗しとやらが一体なんだというのだ?」
魔王は若干焦れた様で側近を急かした。
「これは失礼を、そうですね……あまり遠回しな言い方をしても時間が掛かるだけですし、要点だけをかいつまんでお話し致しましょう。
灯台もと暗しとは簡単に言うと、探しものは案外近くに有るという意味でございます。」
「近くに……だと?まさか勇者がっ」
まさか勇者がこの近くに!
とでも言いたかったのだろうか?
残念ながらその答えは永遠にわからなくなってしまった。
他ならない魔王の頭が真っ二つになってしまったから。
夥しい量の血の様などす黒い液体がその断面から吹き出し、魔王は絶命した。
「まっ、魔王様ぁーっ」
「ぁあああああああああっガアアアアアア」
「どうして、どうして急にぃぃぃ」
先程まで一切喋らなかった魔王部下達が口々に叫ぶ。
ある者は主人の名を、
ある者は雄叫びを、
ある者は疑問を、
数分後、喚き声が弱くなると同時に幾分かの冷静さを取り戻した魔王の部下達は殆ど一斉にある違和感を抱いた。
しかも、幸運なのか不運なのかは別にしてその違和感の原因はすぐに解った。
黒いローブを身に纏っていた人物がその場から消えていたのだ。
魔王に側近と呼ばれ、
文字通り魔王の側に、
そして何より魔王の一番近くに居た正体不明の人物が。




