終わりのような、始まりのようななにか
何も無い真っ白な部屋で、誰かと誰かが話している
「なんで……なんで俺なんだ‥?」
体格の良い青年が尋ねる
「なんで?なにが?
君は僕に何を訊きたいんだよ?
ちゃあ~んと主語と述語使わないと国語のテストで点取れないぜ?」
青年の数m前で胡座をかいて、あまつさえ自分の膝に右肘を置いてそのまま右手で頬杖までついている少年は青年を馬鹿にするような口調で答えた。
「‥‥言わなくたってわかんだろ」
青年が若干の怒気を含ませながら少年にもう一度尋ねる。
「わかんねぇよ。
僕は君の恋人じゃあねぇ~んだぜぇ?
そんな都合の良い以心伝心、この僕に……いや、君の人生にある訳ねぇ~、だろ?」
キャハハ、と少年は人を小馬鹿にしたように笑う。
「そうだよ、それだ!それ!!
俺の人生の事について言ってんだよ!
なんでなんだ!なんで‥‥なんで俺だけがこんなに辛いんだよ!!」
その少年の態度に青年はキレた。
そして、キレたままで少年に怒鳴るように尋ねた。
「俺だけ、俺だけ、俺だけねぇ~。
いやぁ~、君はスガスガしい程に愚かだなぁ。
辛いのが自分だけ?君だけが不幸~?
笑わせんなよ、人間」
途中まではずっと青年の神経を逆撫でするような口調だったが、最後の言葉は、最後の言葉だけは違った。
まるで虫けらに吐き捨てるように、
まるで畜生に説き伏せるように、
氷のように冷たい口調で言った。
そして少年はまだ続ける。
少年の思わぬ口調の変化に面を食らい固まっている青年を無視して。
「もし、自分が一番辛いって言いたいんなら今すぐその手と足切り落とせよ
一人じゃ無理だって言うんなら僕も手伝ってやるよ。
もし、自分が一番不幸って言いたいんなら今すぐその目と脳ミソ抉れよ
一人じゃ駄目ならサービスだ、僕が手伝ってやるよ。」
少年の畳み掛けるような言葉に若干たじろぎつつも、青年は大きく深呼吸をしてから言う。
「‥‥その、悪かったよ‥‥頭に血が行ってたんだ」
その言葉を聞いて、少年は元の雰囲気に戻って再び話始めた。
「そうそう、わかれば良いんだ、わかれば
物分かりの良い奴は好きだぜ?
まぁ、一番好きなのは言わなくてもわかる奴だけどなぁ~」
「あんたは……一体何なんだ、何者なんだよ?」
青年が少年に尋ねた。
勿論、青年とてコロコロと雰囲気が変わったり、少年ではあり得ないレベルの威圧感を出したから尋ねたのではない。
青年は、最早会った回数を数えるのが面倒な程にこの少年と会っているのだ。今更そんな事では驚かない。
それでも青年が尋ねたのは、こうやって少年にその正体を尋ねるのが一種のお約束になっていたからだ。
そして少年もまた、そのお約束通りに口を開く。
「何者?何者だって~?
おいおい、そりゃあ僕に訊いてんのかい?
キャハハ、そんなに知りたいんなら教えてあげるよ!」
そう言うと少年はその場で勢い良く立ち上がり、その勢いのまままるでスケート選手のようにクルクルと回った。
そして幾らか回転して満足したのか回転を綺麗に青年と向かい合う位置で止めて、そのまま右手をビシッと前に突き出した。
「僕はねぇ、君たち人間の言うところの………神様って奴さ!!」
少年は右手の人差し指で青年を指差したままでそう言った。
「流石にこのやり取りも飽きてきたな………」
青年は少し疲れたように言う。
「ん~?そうなのかい?
じゃあ僕もそろそろ新しいのを………ん?
もう時間かい?」
「ああ、みたいだな。」
そう答えた青年の体は、うっすらとだが透けて行っていた。
「………次はいつ会える?」
「キャハハ、君は僕の恋人かよ?」
「茶化すなよ………答えてくれ。」
青年の真剣な眼差しに参ったのか、少年は少し間を置いて答えた。
「大体…‥‥2回ってトコだな、僕もまぁ丸っきり暇って訳でもないしな。」
「そうかよ、そりゃまたお早い再会になるな。
………ん、本当にもうすぐだな。」
青年の体は最早濃い霧程度にまで透けていた。
「キャハハ、行ってらっしゃぁ~い。
世界を救う英雄さん?」
少年は手を振りながら青年が完全に透けて居なくなるのを見送った。




