表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/31

第9話 お局さま ―お鈴、裏大奥に秩序を敷く―

 裏大奥の朝。

 昨日の賑やかな芸事教室の余韻が残る中、お鈴は静かに屋敷全体を見回していた。

 その目は、まるで軍師のように鋭い。


「やはり、問題だらけですね」

「お、お鈴殿? 何が問題なのだ?」


 兵庫が恐る恐る尋ねる。


「すべてです」

「す、すべて!?」

「はい。掃除の手順、生活動線、食事の時間、寝る場所の配置、物の置き方……このままでは裏大奥は回りません」


 お鈴は淡々と言い放った。


「今日から規律改革を行います」

「規律改革……?」

「はい。裏大奥を“家”として機能させるための改革です」


 兵庫は背筋を伸ばした。


(お鈴殿……ただ者ではない……!)


「まずは、生活の基本から整えます」


 お鈴は巻物を広げた。


「これは……?」

「裏大奥の生活規律案です」

「いつの間にそんなものを……!」

「昨日の夜に作りました」

「は、早い……!」


 お鈴は淡々と読み上げる。


「一、朝は日の出とともに起床すること

 一、掃除は当番制とする

 一、食事は三度、皆で揃って取ること

 一、兵庫殿は勝手に間食をしないこと」


「最後のは必要か!?」

「必要です。昨日、勝手に団子を食べていましたね?」

「み、見ておったのか……!」

「見ていました」


 お鈴は微笑んだが、目は笑っていなかった。


 ◆


 お鈴は皆を集めて生活の規律を説明した。


「お鈴殿、これは……かなり厳しいですね」


 お紺が巻物を覗き込む。


「でも、うち……こういうの嫌いやないで!」


 お梅は元気に頷く。


「ふーん。まぁ、秩序がある方が動きやすいかもね」


 お蝶は扇子をぱちんと鳴らした。


 お鈴は皆を見渡し、静かに言った。


「皆さんの力があってこそ、裏大奥は成り立ちます。だからこそ、無駄をなくし、効率を上げたいのです」


 その言葉に、三人は素直に頷いた。


 ◆


「では、兵庫殿。まずはあなたからです」

「な、なぜ拙者から!?」

「あなたが一番問題だからです」

「ぐふっ……!」


 お鈴は兵庫の部屋に入り、厳しい目で見回した。


「布団の畳み方が雑です。着物は脱ぎっぱなし。棚の上には意味不明な木片が置いてある」

「そ、それは……昔の思い出の……」

「捨てます」

「捨てるのか!!?」

「必要ありません」

「ぐはぁっ……!」


 兵庫は精神的に大ダメージを受けた。


「兵庫殿、裏大奥の番頭としての自覚を持ってください。あなたが乱れていては、皆が困ります」

「……はい……」


 兵庫はお鈴に頭が上がらなかった。


 そこへ若君がやってきた。


「お鈴殿、何をしているのですか?」

「若君。裏大奥を整えているのです」

「すごい……! お鈴殿は、なんでもできるのですね!」


 若君の言葉に、お鈴の表情が少しだけ柔らかくなった。


「いえ、私はただ……皆が暮らしやすいようにしたいだけです」

「僕、お鈴殿のこと、すごく頼りにしています!」

「……っ」


 お鈴の頬がわずかに赤く染まった。


「若君……ありがとうございます」


 その瞬間、兵庫は確信した。


(お鈴殿……完全に落ちておるな……!)


 ◆


 夕方。

 お鈴の改革のおかげで、裏大奥は見違えるほど整っていた。


 掃除当番表が貼られ、食事の時間が決まり、物の配置が統一され、皆が動きやすくなっていた。


「お鈴殿……これは見事でござる!」

「当然です。私は旅籠の娘ですから」


 お鈴は静かに微笑んだ。


「裏大奥は、皆が暮らす家です。だからこそ、秩序が必要なのです」


 兵庫は深く頷いた。


「うむ! これぞ裏大奥の柱でござる!」


 こうして――

 裏大奥は“秩序”を手に入れたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ