第7話 畑づくり ―お梅、裏大奥に命を植える―
裏大奥の庭は、雑草が生い茂り、石が転がり、まるで何年も放置された荒れ地のようだった。
兵庫は腕を組み、ため息をつく。
「ここを……畑にするのか?」
「するんや!」
お梅が胸を張って言い切った。
「畑はな、土が生きとるかどうかで決まるんよ。この庭、荒れとるけど、土は悪くない」
お梅はしゃがみ込み、土を手に取って握った。
「ほら、しっとりしとる。ええ土や」
「お梅殿、土のことが分かるのか?」
「当たり前や! うちは農家の娘やで!」
お梅は笑顔で鍬を担ぎ、庭に踏み出した。
◆
「よいしょっ!」
お梅が鍬を振るうと、固かった地面が一瞬で割れた。
「お、お梅殿!? その力は……」
「普通やで?」
「普通ではない!!」
兵庫が叫ぶ横で、お梅はどんどん土を耕していく。
石をどけ、根を抜き、雑草をまとめていく姿は、まるで戦場を駆ける武将のような迫力だった。
「お梅殿……もしや拙者より強いのでは……?」
「兵庫様が弱いんや!」
「ぐふっ……!」
そこへ若君が駆けてきた。
「お梅殿、何をしているのですか?」
「畑を作っとるんよ。若君もやってみる?」
「はい!」
若君は小さな手で土を触り、目を輝かせた。
「ふわふわしてます……!」
「せやろ? 土は生きとるんよ」
お梅は優しく若君の手を取って、土の触り方を教える。
「こうやってな、土をほぐすんよ。優しゅう、優しゅうな」
「はい……!」
若君は真剣な顔で土をほぐす。
その姿に、お梅は目を細めた。
「若君はええ子やなぁ……」
兵庫はその光景を見て、胸が熱くなった。
(お梅殿は若君にとって母のような存在になれるかもしれぬ)
◆
「よし、拙者も手伝うでござる!」
「兵庫様、無理せんでええよ?」
「無理ではない! 拙者は武士である!」
兵庫は鍬を振り上げ――
「ぬおおおおおっ!!」
振り下ろした瞬間、鍬が地面に跳ね返り、兵庫の肩に直撃した。
「ぎゃあああああ!!」
「兵庫様!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫……ではない……!」
お梅は慌てて兵庫の肩を揉んだ。
「もう、無茶したらあかんて……!」
お梅の手は温かく、力強かった。
「お梅殿……優しい……」
「当たり前や! 兵庫様は大事な人なんやから!」
「だ、大事な……?」
兵庫が赤面した瞬間、お梅も真っ赤になった。
「い、いや! その……裏大奥の番頭として……!」
「そ、そうでござるな……!」
二人は顔をそらし、若君だけが首をかしげていた。
◆
夕方。
庭は見違えるほど綺麗になっていた。
雑草は消え、土はふかふかに耕され、お梅が植えた野菜の苗が整然と並んでいる。
「すごい……!」
お紺が目を丸くする。
「お梅、やるじゃないか!」
お蝶が拍手する。
「見事な仕事です」
お鈴が感心したように頷く。
お梅は照れながら笑った。
「みんなが食べるもん、うちが作るんや。任せとき!」
若君が嬉しそうに言った。
「お梅殿の畑、楽しみです!」
お梅は胸を張った。
「若君のために、美味しい野菜いっぱい作るで!」
兵庫は畑を見つめ、深く息を吸った。
「お梅殿、本当に見事でござる。裏大奥に、命が宿ったようだ……!」
「兵庫様が言うと、ちょっと照れるなぁ……」
お梅は頬を赤らめた。
夕日に照らされた畑は、まるで未来の希望のように輝いていた。
こうして――
裏大奥は“生命力”を手に入れたのであった。




