表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/31

第5話 みんなで大掃除

 裏大奥――と兵庫が勝手に名付けたボロ屋敷は、朝日が差し込むと同時にその惨状を露わにした。


 天井は崩れ、畳はところどころ腐り、柱は傾き、庭は雑草が生い茂っている。


 そんな屋敷の前に、兵庫と四人の娘が立っていた。


「……ここで暮らすんですよね」


 お紺が眉をひそめる。


「なんや、昨日よりボロく見えるなぁ……」


 お梅が呆然とつぶやく。


「これは舞台装置としても使えないレベルだねぇ」


 お蝶が扇子で口元を隠しながら笑う。


「……とにかく掃除です。徹底的に」


 お鈴が冷静に言った。


 四人の不穏な空気を感じ取った兵庫は、努めて明るく声を出す。


「まずは掃除じゃ! 掃除こそ、裏大奥の第一歩!」


 兵庫が号令をかけると、四人の娘は渋々動き始めた。


 ◆


 お紺は屋敷にある布を集めて整理していた。


「この布……カビてますね。燃やしましょう」

「待て待て! まだ使えるかもしれぬ!」

「使えません。布が泣いてます」


 お紺は呉服屋の娘らしく、布の扱いに厳しい。

 しかし、古布を見つけると目を輝かせた。


「これは……柄は古いですが、組み合わせ次第で使えますね」

「お紺殿、頼もしい!」

「褒めても何も出ませんよ……少し、嬉しいですけど」


 ◆


「よいしょっ!」


 お梅は腐った畳を軽々と持ち上げた。


「お、お梅殿!? それは二人がかりの仕事では……」

「うちは農家やけん、これくらい普通や!」


 お梅は笑顔で畳を運び、庭の雑草を根こそぎ抜き、ついでに庭の土を耕し始めた。


「お梅殿、掃除のはずが畑になっておる!」

「畑にした方がええやろ!」

「……確かに」


 ◆


 お蝶はつまらなそうに、縁側に腰をかけている。


「ねぇ兵庫、本当に掃除するの? 舞の稽古じゃないの?」

「掃除でござる!」

「じゃあ、掃除を華やかにしようか」


 お蝶は扇子を広げ、舞うように埃を払っていく。

 その姿に、お紺が呆れた。


「あなた……掃除を芸事にしないでください」

「いいじゃないか。楽しい方が続くよ?」

「……それは否定できませんね」


 ◆


 お鈴は眉間にしわを寄せ、何やら考え事をしている。


「兵庫殿、掃除の手順を決めます」

「手順?」

「はい。まずは玄関から。次に廊下、部屋、最後に庭です。無秩序に動くと効率が悪いので」

「お鈴殿、頼もしすぎる……!」

「当然です。兵庫殿が無計画すぎるだけです」

「ぐっ……!」


 ◆


 兵庫たちが掃除に励んでいると、若君が顔を出した。


「兵庫兄上、皆さん。何をしているのですか?」

「掃除でござる! よろしければ若君も手伝われますか?」

「はい!」


 若君は小さな手で雑巾を持ち、床を拭き始めた。


「若君、雑巾はこう持つのです」

「若君、そこは危ないで!」

「若君、無理しないでね」

「若君、こちらの方が効率的です」


 四人が一斉に世話を焼く。

 若君は少し照れながら笑った。


「皆さん、ありがとうございます」


 その笑顔に、四人の心が一気に和らいだ。


 ◆


 夕方。

 屋敷は見違えるほど綺麗になっていた。


 埃は消え、畳は張り替えられ、庭は整えられ、お紺が飾った布が華やかさを添えている。


「……すごい。まるで別の屋敷のようでござる」


 兵庫は感動して涙をこぼした。


「泣くの早い!」

「まだまだこれからやで!」

「明日はもっと華やかにするよ」

「兵庫殿、明日の予定を立てます」


 四人の声が重なり、屋敷に温かい空気が満ちる。


 若君がぽつりと言った。


「僕……ここ、好きです」


 その一言で、全員の疲れが吹き飛んだ。


 ◆


 夜。

 兵庫は屋敷の前で空を見上げた。


「秀頼様……拙者は、必ずや若君を守り抜きます。そして、この裏大奥を……立派なものにしてみせまする!」


 その背後で、四人の声が飛んできた。


「兵庫殿、まだ仕事が残ってますよ!」

「兵庫様、はよ来て!」

「兵庫、逃げるなよ?」

「兵庫殿、働いてください」

「ひぃぃぃ!!」


 兵庫の忙しい日々は、しばらく終わりそうにない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ