第4話 裏大奥、最初の一歩
兵庫は四人の娘を連れて、主膳の隠れ家へ戻ってきた。
「主膳殿! 連れてきたでござる!」
「……連れてきた、とは?」
主膳は襖を開けた瞬間、目を疑った。
呉服屋の娘・お紺。
農家の娘・お梅。
旅芸人の娘・お蝶。
旅籠の娘・お鈴。
そして、その後ろで兵庫が胸を張っている。
「なぜ庶民の娘ばかりなのじゃーーー!!」
「美しければ問題なし!」
「問題しかないわ!!」
主膳の叫びが屋敷に響いた。
◆
「えっと……ここが、その“裏大奥”とやらですか?」
お紺が眉をひそめる。
「なんや、思ったよりボロいなぁ……」
お梅が天井を見上げると、蜘蛛の糸が垂れてきた。
「きゃっ、髪に落ちた!」
「まぁまぁ、落ち着きなよ。こういうのも味ってやつさ」
お蝶が笑いながら扇子を広げる。
「味ではありません。これはただの老朽化です」
お鈴が冷静に突っ込んだ。
四人の視線が兵庫に集中する。
「兵庫殿……これは、どういうことでしょうか」
「ほんまにここで暮らすん?」
「説明してもらえるかな?」
「掃除は私がやるんですか?」
兵庫は胸を張った。
「ここから始めるのだ!」
「「「「始められません!!」」」」
四人の声が揃った。
◆
兵庫は深呼吸し、真剣な目で四人を見つめた。
「皆、聞いてほしい。ここは確かにボロ屋敷だ。だが、若君を守るための最初の砦なのだ」
四人は静かに耳を傾ける。
「若君は、豊臣秀頼様の御子息。徳川に滅ぼされたはずの豊臣家の、最後の希望」
お梅が息を呑む。
「そんな大事な子を……ここで守るん?」
「うむ。だが、拙者一人では守りきれぬ。だからこそ、皆の力が必要なのだ」
兵庫は一人ひとりの目を見て言った。
「お紺殿。そなたの美の才が、この場所を華やかにする」
「……っ」
「お梅殿。そなたの生活力が、裏大奥の土台となる」
「う、うち……?」
「お蝶殿。そなたの芸が、若君の心を豊かにする」
「まかせな」
「お鈴殿。そなたの気配りが、皆を支える柱となる」
「はい」
四人の表情が、少しずつ変わっていく。
◆
その時、襖が静かに開いた。
「兵庫兄上……?」
若君が顔を出した。
幼いながらも気品があり、どこか寂しげな瞳をしている。
若君は身元を隠すため、兵庫のことを「兵庫兄上」と呼ぶようになっていた。
四人は息を呑んだ。
「この子が……」
「豊臣の……」
「若君……」
「なんて綺麗な子……」
若君は四人を見て、少し照れたように微笑んだ。
「兵庫兄上が……僕のために、皆を呼んでくれたのですか?」
兵庫は胸を張った。
「はい! 皆、若君を守るために来てくれたのです!」
若君は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。僕は皆さんに会えて、とても嬉しいです」
その一言で、四人の心が一気に傾いた。
「……仕方ありませんね。ここまで言われて断るのは、粋じゃありません」
お紺が微笑む。
「うち、頑張る! 若君のために!」
お梅が拳を握る。
「面白くなってきたじゃないか。乗ったよ」
お蝶が扇子を鳴らす。
「……あなたが無茶をするなら、私が支えます」
お鈴が静かに言った。
兵庫は涙をこらえきれず、叫んだ。
「皆……! ありがとう!!」
「泣くの早い!」
「まだ何もしてへんよ!」
「これからが大変なんだよ?」
「まずは掃除です。徹底的に」
四人の声が重なり、屋敷に活気が満ちていく。
前代未聞の裏大奥はここから始まった。




