第30話 裏大奥、再建の一歩
大坂の空は、どこまでも澄み渡っていた。
江戸からの長い旅路を終え、兵庫たちはついに、裏大奥の跡地へ戻ってきた。
そこにはかつての賑やかさはなく、瓦礫と焦げ跡だけが残っていた。
若君は兵庫の手を握り、静かに呟いた。
「ここが……僕たちの家……?」
兵庫は深く頷いた。
「うむ。ここが裏大奥でござる」
お紺は瓦礫の中に落ちていた布を拾い上げた。
「私が干した布……まだ残っていたのですね……」
お紺の目に涙が滲む。
お梅は畑の跡に膝をつき、土を握りしめた。
「うちの畑、めちゃくちゃや……でも、また耕せる……!」
お蝶は崩れた舞台の板を拾い、胸に抱きしめた。
「ここで、舞ったんだよね……また舞えるかな……」
お鈴は壊れた井戸の前で手を合わせた。
「私たち家族の家を、また作りましょう」
左門は静かに瓦礫を見渡し、小さく呟いた。
「……悪くない。ここから始めればいい」
若君は瓦礫の真ん中に立ち、皆の顔を見渡した。
「兵庫兄上……皆さん……」
その声は震えていたが、確かな強さを宿していた。
「僕……ここが好きです。壊れていても、何もなくても……ここが僕の家です」
兵庫の胸が熱くなる。
「若君……」
「だから、もう一度作りましょう! 裏大奥を!!」
その言葉に、全員の胸が震えた。
◆
兵庫が刀を地面に突き立て、皆に向かって言った。
「皆……! 裏大奥を、再建するでござる!!」
「「「「「「おおおおお!!!」」」」」」
お梅が鍬を振り上げる。
「まずは畑や! 食べ物がなきゃ始まらん!」
お紺が布を広げる。
「私は皆さんの衣を整えます!」
お蝶が扇子を鳴らす。
「舞台も作り直すよ! 皆で楽しめる場所にしよう!」
お鈴が井戸の前に立つ。
「水場を整えます。生活の基盤は、私に任せてください」
左門は瓦礫を片付けながら言う。
「兵庫。お前は中心だ。皆を導け」
「うむ……!」
◆
兵庫は瓦礫の上に立ち、夕暮れの空を見上げた。
(主膳殿……拙者はやり遂げたでござる)
若君を守り、皆を取り戻し、裏大奥を再び作る。
それが兵庫の使命だった。
「皆……! 裏大奥はここからまた始まる!! 若君のために! 皆のために! そして……拙者自身のために!!」
その声は、夕暮れの空に響き渡った。
◆
数日後。
瓦礫は片付き、簡素ながらも家の形が見えてきた。
若君は笑顔で言った。
「兵庫兄上。ここが僕たちの新しい家ですね!」
兵庫は優しく頷いた。
「うむ! 裏大奥は永遠でござる!!」
皆が笑い、風が吹き抜け、新たな生活の音が響き始めた。
裏大奥は――
再び、息を吹き返した。




