第29話 ラスボス・黒田監物
江戸城・北の丸。
月明かりが差し込む廊下で、兵庫と黒田監物が向かい合った。
若君はお鈴の腕の中で震え、お紺・お梅・お蝶は兵庫の背後に立つ。
左門は監物の動きを見極めるように目を細めていた。
静寂。
風の音すら止まったような緊張。
監物が口元を歪めた。
「片桐兵庫。貴様だけは、この手で斬ると決めていた」
兵庫は刀を構え、低く答えた。
「監物。拙者もまた、あなたを倒さねばならぬ」
お互いがにらみ合う一瞬の間合い。
そして、戦いが始まった。
監物が踏み込む。
兵庫も同時に前へ出た。
――ガキィィン!!
刃と刃がぶつかり、火花が散る。
「ぬぅっ……!」
「どうした謀反人! 裏大奥の力はその程度か!」
監物の剣は重く、鋭く、速い。
兵庫は押し込まれ、後退する。
「兵庫殿!!」
お鈴の声が震える。
だが兵庫は歯を食いしばり、踏みとどまった。
(負けられぬ。若君を……皆を……守るために!!)
監物は刀を振り上げ、叫んだ。
「豊臣の血は……ここで断つ!!」
その刃は、兵庫ではなく――
お鈴の腕の中の若君へ向かっていた。
「若君!!」
兵庫は咄嗟に飛び込む。
――ザシュッ!!
兵庫の肩に深い傷が走った。
「兵庫殿!!」
「兵庫様!!」
「兵庫!!」
「兵庫殿!!」
娘たちが叫ぶ。
兵庫は血を流しながらも、若君を守るように立ちはだかった。
「監物……若君に刃を向けるとは……!」
「当然だ。あの子供こそ、豊臣の残り火。消さねばならぬ」
兵庫の瞳が燃える。
「許さぬ……!!」
監物が再び若君へ向かおうとした瞬間――
左門が影のように割って入った。
「監物。その子に触れるな」
「霧島左門……! 貴様、やはり裏切り者か!」
「裏切ったのではない。守るべきものを選んだだけだ」
左門の刀が閃き、監物の頬に浅い傷が走る。
「貴様……!」
「兵庫。お前は監物に集中しろ。若君は私が守る」
「左門殿……!」
監物の部下が廊下に押し寄せてくる。
「兵庫殿に触るな!!」
お紺が布を投げ、敵の視界を奪う。
「兵庫様を守れ!!」
お梅が鍬を振り下ろし、敵を吹き飛ばす。
「こっちだよ!」
お蝶が舞うように敵を翻弄する。
「兵庫殿、後ろは任せてください!」
お鈴が敵の足を払う。
裏大奥の娘たちが、兵庫の背中を守るように戦った。
兵庫は血を流しながらも、監物の前に再び立った。
「片桐兵庫、まだ立つか」
「立つとも……!」
兵庫は刀を構え、叫んだ。
「拙者は、裏大奥の片桐兵庫!! 若君の家臣にして、皆の守り手でござる!!」
監物が吠える。
「ならば死ねぇ!!」
刃が交わり、火花が散り、床が割れ、血が飛ぶ。
兵庫は何度も倒れかける。
だが、その度に――
お紺の涙。
お梅の叫び。
お蝶の声。
お鈴の祈り。
若君の震える手。
それらが兵庫を立ち上がらせた。
(皆……拙者は……皆のために……!)
兵庫は最後の力を振り絞り、監物の懐に飛び込んだ。
「これで……終わりでござる!!」
――ドンッ!!
兵庫の渾身の一撃が、監物の胸を貫いた。
「ぐっ……! ば、馬鹿な……!」
監物は崩れ落ちた。
◆
戦いが終わると同時に、若君が兵庫のもとへ駆け寄った。
「兵庫兄上!! 兵庫兄上ぇぇ!!」
兵庫は膝をつき、若君を抱きしめた。
「若君……ご無事で……本当に、よかった……!」
若君は涙を流しながら叫んだ。
「兵庫兄上……! 僕、信じてました! 絶対に迎えに来てくれるって……!」
「うむ! 迎えに来たでござる!」
お紺、お梅、お蝶、お鈴、左門が兵庫の周りに集まる。
「兵庫殿……!」
「兵庫様ぁ……!」
「兵庫……!」
「兵庫殿……!」
兵庫は皆を見渡し、涙をこらえながら笑った。
「皆……よくぞ、戦ってくれた……!」
左門が静かに言った。
「兵庫。これで若君は自由だ」
若君が兵庫の手を握る。
「兵庫兄上……帰りましょう、裏大奥へ!」
兵庫は深く頷いた。
「うむ……! 皆で帰るでござる!!」




