第28話 若君奪還作戦 ―江戸城潜入―
夜の江戸城は、巨大な獣のように静かに息を潜めていた。
月明かりが石垣を照らし、風が松の枝を揺らす。
その闇の中を、六つの影が走っていた。
兵庫。
左門。
お紺。
お梅。
お蝶。
お鈴。
裏大奥の家族が、ついに江戸へ乗り込んだ。
◆
江戸城外堀の影に身を潜め、左門が低く囁く。
「若君は北の丸に幽閉されている。監物は処刑を急いでいる。明日の朝では、間に合わぬだろう」
兵庫が拳を握る。
「ならば……今夜しかないでござる」
左門は頷き、皆を見渡した。
「役割を確認する」
●お紺
変装の用意。
兵庫と若君の脱出用の姿を整える。
●お梅
力仕事。
門の閂を壊し、突破口を作る。
●お蝶
陽動。
城内の巡回兵を舞で引きつける。
●お鈴
情報収集。
事前に集めた江戸城の情報で助言をする。
●左門
暗殺と先導。
敵の気配を察知し、最短経路を確保する。
●兵庫
若君奪還の中心。
若君を抱えて脱出する役目。
左門は最後に言った。
「これは、命を賭けた作戦だ。誰ひとり欠けても成功しない」
兵庫は皆を見渡し、深く頷いた。
「皆、頼むでござる」
「「「「任せて!!」」」」
◆
左門の合図で、一行は城壁の影へ走り出した。
「お梅殿、頼む!」
「任せとき!」
お梅が閂に鍬を振り下ろす。
――バキィッ!!
音を最小限に抑えながら、木が割れた。
「通れるで!」
お鈴が先に入り、手で合図する。
「巡回兵はいません……今です!」
全員が影のように城内へ滑り込む。
◆
城内の庭園に差し掛かった時、お蝶が扇子を開いた。
「兵庫、行って。あたしが引きつける」
「お蝶殿……!」
「大丈夫。あたしの舞は、誰よりも派手だから」
お蝶は月明かりの下で舞い始めた。
扇子が光を反射し、衣が風に揺れ、その姿はまるで天女のようだった。
「な、なんだあれは……!」
「女が、舞っている……?」
巡回兵たちが吸い寄せられるように集まっていく。
お蝶は微笑んだ。
(兵庫、早く……!)
◆
北の丸の裏口に到達すると、お紺が布を広げた。
「兵庫殿、これを」
「これは……?」
「若君を抱えて逃げる時、兵庫殿が目立たぬようにするための衣です」
お紺は震える手で兵庫の肩に布をかけた。
「……どうか、若君を……」
「任せるでござる」
お紺は涙をこらえながら微笑んだ。
◆
お鈴が小声で言う。
「この先に、若君の部屋があります。ですが、監物の部下が二人……」
「任せろ」
左門が影のように消え、次の瞬間、二人の兵が倒れた。
「行け、兵庫」
「うむ!」
兵庫は扉を開けた。
「若君……!」
若君は小さな体を震わせながら、兵庫の姿を見て目を見開いた。
「兵庫兄上……?」
「迎えに来たでござる」
若君は兵庫に飛びついた。
「兵庫兄上ぇぇ……!! 本当に……来てくれたんですね……!」
「当たり前でござる……!」
兵庫は若君を抱き上げた。
「さぁ、帰るでござる。皆のもとへ……裏大奥へ!」
その時――
「逃がすと思うか?」
背後から、冷たい声が響いた。
黒田監物が、刀を抜いて立っていた。
「片桐兵庫。貴様だけは、この手で斬る」
兵庫は若君を抱きしめ、左門が前に出る。
「兵庫。ここは私が……」
「いや……!」
兵庫は若君をお鈴に預け、刀を抜いた。
「監物……! 拙者が相手でござる!!」
監物の目が細くなる。
「来い、豊臣の大罪人……!」
刃が交わり、火花が散った。




