第27話 再結集
大坂の町は、夕暮れの光に染まっていた。
人々の喧騒が遠くに聞こえる中、兵庫と左門はお鈴の案内で裏路地を進んでいた。
「兵庫殿。皆さんは、それぞれ別の場所に……」
「うむ。まずは皆を集めるでござる」
兵庫の声は震えていた。
裏大奥が崩壊して以来、彼は一度も皆の顔を見ていない。
(皆、無事でいてくれ……)
◆
まずは態勢を整えるべく旅籠へ向かった。
宿屋の裏口に着くと、お鈴はようやく緊張が解けたようだった。
「兵庫殿……ご無事でなによりです……」
お鈴は涙をこらえながら微笑んだ。
「お鈴殿には心配をかけたな……」
兵庫が申し訳なさそうに言うと、お鈴は首を横に振った。
そして、スッと力強いまなざしで兵庫を見据えた。
「兵庫殿。皆さんを取り戻すために、私も力を尽くします」
兵庫はお鈴の手を握った。
「お鈴殿、頼りにしておる」
お鈴の頬が赤く染まった。
◆
次に向かったのは、船場の呉服屋。
店の奥で、お紺は黙々と針を動かしていた。
兵庫の着物を、何度も何度も縫い直している。
「兵庫殿の……着物……」
その声は震えていた。
そこへ、兵庫がそっと声をかける。
「お紺殿」
針が落ちた。
お紺はゆっくりと顔を上げ――
兵庫の姿を見た瞬間、目に涙が溢れた。
「兵庫殿……!」
お紺は駆け寄り、兵庫の胸に飛び込んだ。
「生きて……おられたのですね……!」
「うむ……! お紺殿も、無事でよかった……!」
お紺は涙を拭い、兵庫の着物を握りしめた。
「兵庫殿……また、仕立てさせてください……あなたの着物を……!」
「もちろんでござる」
◆
次に訪れたのは、お梅の畑。
お梅は鍬を振りながら、涙をこらえて叫んでいた。
「兵庫様ぁ……どこにおるんや……うち、寂しいんや……!」
その背中に、兵庫が声をかける。
「お梅殿」
お梅は振り返り、鍬を落とした。
「……兵庫様……?」
「うむ。戻ったでござる」
お梅は走り寄り、兵庫に抱きついた。
「兵庫様ぁぁぁ!! 生きててよかったぁぁ!!」
「お、お梅殿……! 力が強いでござる……!」
「離さへん!! もう絶対離さへん!!」
兵庫は苦笑しながら、お梅の頭を撫でた。
◆
最後に訪れたのは、道頓堀の芝居小屋。
お蝶は舞台の上で、静かに扇子を広げて舞っていた。
その舞は、どこか悲しく、どこか祈るようだった。
(兵庫……あたしの舞、届いてる……?)
その時、舞台の下から声がした。
「お蝶殿」
扇子がはらりと手から落ちた。
お蝶は震える手で口元を押さえ、ゆっくりと兵庫を見つめた。
「兵庫……?」
「うむ。迎えに来たでござる」
お蝶は舞台から飛び降り、兵庫の胸に飛び込んだ。
「遅いよ……! ずっと……待ってたんだから……!」
「すまぬ……!」
お蝶は涙をこぼしながら笑った。
「兵庫……あたしの舞、また見てよね……?」
「もちろんでござる」
◆
四人の娘が揃い、兵庫と左門が並び立つ。
お紺、お梅、お蝶、お鈴――
全員が兵庫の周りに集まった。
「兵庫殿……!」
「兵庫様……!」
「兵庫……!」
「兵庫殿……!」
兵庫は涙をこらえながら言った。
「皆……! 戻ってきてくれて……ありがとう……!」
左門が静かに言う。
「兵庫。これで裏大奥は再びひとつだ」
お紺が頷く。
「若君を、取り戻しましょう」
お梅が鍬を握る。
「うちらの家族、取り返すんや!」
お蝶が扇子を鳴らす。
「兵庫、行こう!」
お鈴が静かに言う。
「裏大奥は、まだ終わっていません」
兵庫は刀を握りしめた。
「うむ……! 若君を取り戻す!! 皆、力を貸してくれ!!」
「「「「もちろん!!」」」」
夕暮れの空の下、裏大奥は復活した。




