最終話 裏大奥よ、永遠に
季節は巡り、春。
裏大奥の庭には、若い桜の木が植えられていた。
瓦礫だった場所は、今では新しい木材の香りが漂っている。
畑には緑が芽吹き、井戸には澄んだ水が満ちている。
裏大奥は――
完全に息を吹き返していた。
◆
若君は庭で木刀を振っていた。
兵庫が後ろから見守る。
「若君、腕が上がったでござるな」
「兵庫兄上が教えてくれたからです!」
若君は笑顔で木刀を構えた。
「僕、もっと強くなります。裏大奥を守れるくらいに!」
兵庫は胸が熱くなる。
「うむ! 若君なら、きっとなれるでござる」
◆
お紺は縁側で兵庫の着物を縫っている。
時折、兵庫の横顔を見て頬を赤くする。
「兵庫殿ったら、また袖を破って……」
「すまぬ……」
「ふふ、直しますからね」
お梅は畑で鍬を振りながら叫ぶ。
「兵庫様ぁ! 今日の夕飯はうちが作るで!」
「お、お梅殿……ほどほどに……!」
「任せとき!」
お蝶は庭で舞の稽古をしている。
兵庫が近くを通ると、わざと扇子を落とす。
「兵庫、拾って?」
「む……? お、おう……」
「ありがと。今度は舞、見てよね?」
お鈴は井戸のそばで水を汲みながら微笑む。
「兵庫殿。お茶を淹れますから、少し休んでください」
「お鈴殿、いつもすまぬ」
「いえ……兵庫殿が無事でいてくだされば、それで」
屋根の上。
左門が静かに裏大奥を見下ろしていた。
「……平和だな」
兵庫が声をかける。
「すまぬ、左門殿。いつも見張りを頼んでばかりで……」
「気にするな。私は影だ。光を守るのが役目だ」
左門はわずかに笑った。
「兵庫。お前が中心に立つ限り、裏大奥は安泰だ」
「左門殿……!」
◆
夕暮れ。
兵庫と若君は、再建された縁側に並んで座っていた。
風が桜を揺らし、遠くで娘たちの笑い声が響く。
「兵庫兄上」
「なんでござる、若君」
「裏大奥は……ずっと続きますよね?」
兵庫は空を見上げ、ゆっくりと答えた。
「うむ。皆がいる限り、裏大奥は永遠でござる」
若君は嬉しそうに笑った。
「僕……大きくなったら、兵庫兄上みたいな人になります!」
兵庫は目を細めた。
「ならば拙者は……若君の隣で、ずっと支えるでござる」
◆
夜。
裏大奥には灯りがともり、笑い声と温かい匂いが満ちていた。
兵庫はその中心に立ち、皆の顔を見渡した。
(主膳殿……拙者は守れたでござる。この家族を)
風が吹き、桜が舞う。
裏大奥は――
今日も、明日も、これからも。
家族の笑顔とともに、静かに、温かく、続いていく。
― 完 ―




