第24話 散り散りの道
裏大奥が踏み潰されてから、三日が経った。
かつて賑やかだった屋敷は、今や瓦礫と化した。
風が吹くたびに、破れた布が寂しく揺れている。
兵庫は牢に繋がれ、若君は江戸城へ送られ、左門は処罰を待つ身となった。
そして娘たちは――
それぞれ元の場所へ帰るよう沙汰が下った。
裏大奥は、完全に解散した。
◆
大坂・船場。
お紺は実家の呉服屋の前に立っていた。
店主である父が、驚いた顔で迎える。
「お紺……! どこへ行っておったのだ……!」
「……ただいま戻りました、お父様」
お紺は深く頭を下げた。
だが、心の中では別の言葉が渦巻いていた。
(兵庫殿……あなたの着物を、もう一度仕立てたい)
お紺は裏大奥で使っていた布を抱きしめた。
「……必ず、戻ります」
◆
大坂郊外。
お梅は、荒れた畑の前に立っていた。
「うちの畑、めちゃくちゃや……」
鍬を握る手が震える。
だが、お梅は涙を拭き、鍬を振り上げた。
「兵庫様……うち、強くなるで……!」
土を耕しながら、心の中で叫ぶ。
(兵庫様が帰ってきた時、胸を張って“おかえり”って言えるように……!)
お梅の鍬が、静かな畑に響いた。
◆
大坂・道頓堀。
お蝶は舞台の裏で、扇子を握りしめていた。
「お蝶ちゃん、戻ってきたんかい!」
芸人仲間が声をかける。
「……うん。戻ってきたよ」
お蝶は微笑んだが、その目には深い影があった。
(兵庫……あたしの舞、また見てくれるかな……)
扇子を開き、静かに舞い始める。
その舞は、かつてよりもずっと美しく、そしてどこか切なかった。
◆
大坂・旅籠。
お鈴は店の暖簾を見つめていた。
「お鈴……帰ってきたのかい」
母が涙を浮かべて抱きしめる。
「……ただいま戻りました」
お鈴は静かに答えた。
(兵庫殿……あなたの帰る場所を、私が守ります)
お鈴は旅籠の帳場に座り、裏大奥の記録帳をそっと開いた。
「……必ず、また会いましょう」
◆
江戸城・一室。
若君は狭い部屋に閉じ込められていた。
「兵庫兄上……皆さん……」
小さな手が震える。
だが、若君は涙を拭いた。
「僕、負けません。兵庫兄上が迎えに来るまで……絶対に、負けません……!」
その瞳には、幼いながらも強い光が宿っていた。
◆
大坂の地下牢。
左門は鎖につながれながら、静かに目を閉じていた。
(兵庫。お前はまだ、終わってないな)
左門は薄く笑った。
(ならば……私も終わらぬ)
鎖が軋む音が響く。
「裏大奥は……まだ死んでいない」
◆
大坂の牢。
兵庫は壁にもたれ、血の滲む手で拳を握った。
「若君……皆……」
目を閉じると、裏大奥の笑顔が浮かぶ。
「拙者は、必ず戻る……!」
兵庫の声は震えていたが、その瞳は決して折れていなかった。
「裏大奥は……拙者の家でござる……!」
その誓いは、牢の中に静かに響いた。




