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第20話 東の町

 押し黙ったソラを見て、男は話を締めくくった。


「まぁ、情報はこれくらいだな」

「ん……」


水を飲み干したハツがソラをつつく。


「ソラ。話ガ終わりました」

「え? あ、ああ。ありがとな、おじさん」


スクラップ場の老人曰く、ソラは物事を繋げて考えるのが得意らしい。あのバカ弟子と違って、とすぐにユウリの愚痴へと移ったが。懐かしく思いながら男は席を立った。


「約束だったな。飯にするぞ」

「やたー! もう腹ペコだよぉ」


男は、ソラが首都を追い出されたばかりの頃を知っている。悪夢で飛び起きて、人間と機械人形の見分けもつかなくて、空を見上げ悟った目をしていた。人懐っこいところだけは変わらない。だから、男はなるべくソラを助けたかった。スクラップ場を出るという選択をした時も、最後に残った老人とユウリとソラが気がかりだったから。


 ソラは野菜たっぷりのスープとパンを、ハツは水を何杯もご馳走になった。さらにリュックサックいっぱいに食料を受け取り、2人は人間の村を旅立った。


 そうして再び森の中。


「トラックが見つかればいいんだけどなぁ。」


ソラは乗って来たトラックを探していた。食料が豊富な南の町の大型トラックだ。積荷にはもしかしたら食料が入っているかもしれない。からだったとしても、まだ走れたはず。ここから西の町へ行くためにも足は欲しい。


「ハツ、トラックの方角……分からないよなぁ」

「ハイ」


それが分かれば道には迷わなかった。尋ねながらもあてにはせず、男に教わった獣道を歩き進める。


「とにかくまぁ、森を抜けよう。運が良ければトラックがあるだろうし、無ければ、うん、その時ってことで」

「ソラ」

「だーいじょぶだーいじょぶ。森の抜け方は聞いて来たから」

「ソラ」

「……ん?」


ああ、やっぱり機械人形は敏感だな。ソラは困り眉になりそうなのをどうにかこらえた。


「ソラハ村ヲ出てカラおかしいようです」

「そだね」

「視線、表情、間ノ取り方ガいつもト違う」

「うん」


そんなところまで見ているのだから、機械人形に嘘は通用しない。あれに気づいて動揺した時点で、バレたと思っていい。


「何かヲ隠しているト予測します」

「当たってる」


さて、どうごまかしたものか。少し考えて、ソラは諦めることにした。隠しているという事実を隠すことを。


「でも言えない」

「そう、ですか」


機械人形は詮索しない。だから、最終手段は堂々としていることだ。ハツは当事者で、視野が狭まっている。機械人形でありながら、機械人形の知識も少ない。だから、自力では、ソラの予想まではたどり着けない。


「まだ予想なんだ。はっきりした時、ハツに必要だと思ったら教える」

「ハイ」


そう言われれば、ハツは頷くしかない。ずるいな、とソラははにかんだ。


 ソラの予想。ハツを作ったのはユウリで、心臓はユウリの新作・ダイチが使っていること。ハツの”役目”は”機械人形を壊すこと”。心臓が引き継がれたということは、ハツの”役目”は取り消されたということ。


 そんな可能性は、必死に”役目”を探すハツには言えない。言えば、ハツはきっと落ち込んでしまう。


「ん?」


ソラは、自分の思考の違和感に気づいた。これではまるで、ハツに心があると言っているようなもの。


「なぁ、ハツ?」


さって、この違和感をどう確かめようか。


「ハツに心ってある?」

「イイエ。心ヲください」

「そう、なるよなぁ」


違和感の正体は分からない。ユウリに会えば分かるだろうか。


「ソラ」


ソラが唸りながら歩いていると、ハツに呼び止められた。1テンポ遅れて、ソラが隣を見やる。


「どした?」

「森ヲ抜けました」

「え? ああ、ほんとだ。ん?」


今度の違和感ははっきりと正体が分かった。木々の隙間から見える、夕日に照らされた城壁。低く、崩れかけたそれは、鉱石と工場の西の町とは思えない。


「この国は中央に首都があって、その東西南北に1つずつ大きな町がある」

「ハイ」


ソラは開けた場所に生き、手ごろな枝で地図を描いた。


「俺とハツがいたのは首都。真ん中のここ。汽車で行ったのが南の町。農業の町。さっきまでいたのがこの森の中。森は、南の町と東の町の間にあって……」

「つまり、出る場所ヲ間違えたノですね」

「そそ。あれはどっからどうみても東の町。目的地は西の町でしたっと」


ハツに伝わったようなので、枝を捨てて立ち上がる。


「まぁいっか。東の町は安全だし」

「安全」

「行けば分かるよ」


疑問点を繰り返すハツに笑いかけ、ソラは正面の城壁を指した。


「目的地変更! 一旦東の町に寄り道ぃー!」

「承知シマシタ」

「そこでトラックでもちょうだいして、ちゃちゃっと西の町へ行こう!」

「ハイ」


そうして2人は森を抜け、東の町へ行くことにした。


 歩き進むにつれて、だんだんと自然が薄くなってゆく。だが、東の町の周辺には目立ったごみ山は無い。木が減っただけで、森の延長のような場所に東の町はあった。


 その石積みの城壁は、中の3階建ての建物が見える程度の低さで、一部が崩れて機能していなかった。ソラは入りやすそうな場所を選んで周辺を歩いた。


「30年前の戦争の時に崩れたんだってさ」

「直さなかったノですカ」

「東の町は織物の町。機械人形に服はいらない。汽車も行き来してないとかって聞いたな。つまり見捨てられた町なんだ」


東の町は、機械人形に見捨てられた町。その割に塔や機械人形は機能しているため、人間も立ち寄ろうとはしない。塔と機械人形が動いていれば、テロ組織も太刀打ちできない。それならば、より警備の強い西の町で何をしようとしているのだろうか。


 そこまで考えて、ソラは閃いた。ユウリは機械人形を壊す機械人形を作ったのだ。おそらくはダイチがそれにあたる。だからテロ組織は大きな一手を打つことにした。歴史が動く瞬間かもしれない。ハツのことで頭がいっぱいになって気付かなかった。


「おっ、ここから入ろう」


そこまで考えたところで、ソラは城壁が大きく崩れている個所を見つけた。積み重なる丸石に足を取られながら登って、ハツに手を差し出す。


「俺が踏んだ場所を使って」

「承知しました」


握ったハツの手に体温は無い。人口皮膚の向こうに肉は無く、鉄の冷気が伝わってくる。ソラが慣れ親しんだ、機械人形の手だ。


「ハツって機械人形だよなぁ」


零れた言葉には、ソラ自身も驚いた。


「ハイ。……質問ノ意図ガ分かりません」

「うん。俺も」


どうしてそんなこと言ったのか。ハツを引き上げて、夕焼け空を背景とした町を見下ろす。人間の村にはあった喧騒が、ここには無い。南の町でさえあった機械音声が、この町には無い。この東の町にあるのは、放棄され”役目”などあって無いような道具たちだ。


「ハツ」

「ハイ」


まるで、作って捨てられたハツのように。


「この町で何か思うことあったら言って」

「機械人形ガ何か思うノですか」

「うーん……この町を出たくなったら教えて」

「承知しました」


この町の機械人形は、機械人形が見て気持ちのいいものではないだろう。


 機械人形に育てられたソラには分からない。ソラが、まるでハツに心があるように接していることが。


「じゃあ行こっか」

「ハイ」


2人は夕焼けの町に繰り出した。

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