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第21話 はじまりの機械人形

 夕焼けの町に踏み込んだ2人は、ひとまず目的地を決めることにした。


「間違えて来たとは言え、せっかく来たならニコニコさんの手がかり探しはしたいよなぁ」

「ハイ」

「ここでも塔に行こっか。目指してればトラックも食料燃料も見つかるかも」

「承知シマシタ」


塔は町の中心にある。ここから歩けば日を跨ぐだろうが、手がかりの心当たりは塔しかない。


「塔ニ行けば」

「ん?」


ふと思い出したように、ハツが塔の方角を見やる。


「違法個体ト追われる可能性ガあるノデハ?」


どこか警戒している横顔は、まるでトラウマを想起しているようだった。だからソラは、安心させるように微笑んだ。ハツの視線がソラに戻る。それは、ハツが初めて見る表情だった。ソラのものではないような表情。これは、S‐2525のものだった。


「大丈夫。ハツについて聞くつもりは無いよ。ハツの手がかりは西の町にある」

「どうして分かるノですカ」

「俺の心の準備ができたら教えるよ」

「……承知シマシタ」


腑に落ちないハツを見て、ソラがいつも通りにカラカラと笑う。


「もし違法個体と言われても、東の機械人形に俺たちを追う能力は無いはず」


悲しい話だけどさ、とソラはまた笑った。


「もうすぐ分かるよ。ほら、畑の真ん中に家がある。行ってみよう」

「ハイ」


 東の町の郊外は、南の町と同じくらいのどかだった。どこまでも続く畑と、ぽつりぽつりと建つ小さな家。おかげで東の町の全貌が見渡せた。中心に塔、西の城壁に駅、中央に行けば行くほど四角い灰色の建物が増えてゆく。


「あれは工場だよ。多分そう」

「機械人形ヲ作っているノですか」


民家の庭に入りながら、ソラが遠くを指した。


「それは西の町。あそこの工場では織物を作ってるって話」


古いが丁寧に磨かれたドアをノックすると、キイィと音を立てて開いた。開いたドアの向こうには、剥き出しの錆びた鉄が臭いを放つ機械人形が立っていた。人型だが、服は着ておらず、目の代わりに大きなレンズが1つ。農作業用の機械人形だ。


「こんにちは。俺たち客人。もてなしてほしいんだ」


ソラがそう言うと、農作業用の機械人形はスッと道を開けてソラとハツを中に入れた。中は古いが、綺麗に手入れと掃除が行き届いている。先ほどの仕草からも、この機械人形には家事全般を行う機能も備わっているようだ。


「ハツ、工場には……この町にはあれがたくさんいるんだよ」


ソラが部屋の隅の機械人形に視線をやる。その先には、下半身が機織り機と融合した機械人形があった。機織り機を動かし続けているが、材料の糸が無いため何も生産されていない。


「だから追われることもない……と思ったけど、農作業用のが他にもいそうだね」

「あの機械人形ノ”役目”ハ」

「無い。もう」


ハツがユウリに捨てられたのだとしたら、機織り機の機械人形とハツは同じ境遇だ。


「悲しいね」

「カナシイ」


ぼんやりとハツが繰り返す。


「古い機械人形は、こうやって東の町に送られて、機織り機と合体させられてしまう」


それが、この国で編み出された機織りの自動化方法だった。皮肉って東の町を「機械人形の墓場」と呼ぶ者もいたが、30年前からはそれが事実になってしまった。機械人形は服を必要としない。織物業で栄えたこの町も、機械人形が支配する国には必要がない。


「今日はもう寝よう」


ソラは壁際にリュックサックを置き、農作業用の機械人形がベッドメイクした寝床に横たわった。シングルサイズだが、ソラが小柄なお陰でまだ余裕がある。


「ハツ、おいで」

「ハイ」


ハツがその隣にモゾモゾと入る。


「ハツ、おやすみ」

「おやすみ、なさい」


フォン、と静かな音を立ててハツがスリープモードになった。しばらくその寝顔を眺めて、ソラも大きなあくびをする。


「まぁいいや、気が向いたら話そっと」


やがて、ソラも眠りに落ちた。


 翌朝ソラは、農作業用の機械人形が持って来た野菜を食べた。人間の村で分けてもらったパンと一緒に。ハツは、小屋の表に置かれていた缶から燃料を補給した。家々を回って燃料を配る機械人形がいるらしい。農作業用の機械人形が、機織り機の機械人形に燃料を補給していた。


「ソラ」

「どした?」


家を物色し身支度を整えるソラに、ハツが声をかけた。寄り添って暮らす2体の機械人形を見つめながら。


「2体ヲ壊してください」

「できないんだ。ごめん」


無意味に動き続けるくらいなら壊した方がマシだ、と、ソラも思っていたところだ。


「どうしてですか」

「機械人形を攻撃すると、町全体から反撃を食らう。南の町みたいに」

「そう、ですか」

「こいつみたいな機械人形が他の家にもいるなら、逃げるのにまた苦労する」

「承知シマシタ」


テロ組織や首都から逃げた人間が東の町に入れないのは、人間だと感知されるからだ。ソラの四肢と首の輪はそう感づかれないためのもの。だが、機械人形を攻撃すれば、人間だと思われ総攻撃を受けることになる。


「ハツは優しいね」

「違います」


被せるような即答だった。それを聞いてソラが、ハツの頭を撫でる。


「優しいよ。優しい」

「……」


ハツが何も返せなくなったので、ソラは再び身支度に戻った。ハツな無い心臓を押さえて、じっと機織り機の機械人形を眺めていた。


 小屋を出て太陽が昇りきるまで歩くと、道端の木陰に弦楽器を持った機械人形が座っていた。錆びついた身体に弦のほとんどが切れた楽器。


「”吟遊詩人”だ。見たこと無いくらい型が古い。」


その機械人形は最初期の太陽光電池を背負っていた。ソラはそのパネルを服の袖で拭いて、何度も呼び掛けた。


「ねぇ、歌ってよ」

「”吟遊詩人”ハそんなニ珍しいノですか」

「うん。人間用の娯楽だからね。修理の優先順位が低くてどんどん壊れてってるんだ。こんなに古いの……何話すんだろう」


声を弾ませながら、ソラが”吟遊詩人”を日向に運んだ。すると、錆びついた金属の軋む音が響いた。


「コレハ、ムカ、シ、ム、カシノ、オハナシ」


ギギ、と楽器がかき鳴らされる。


「よし、動いた! ハツ、こっちに座ろう」

「承知シマシタ」


”吟遊詩人”の前に腰を下ろした2人は、”吟遊詩人”の錆びついた音楽に耳を傾けた。


 物語はこうだった。ある男が機械人形を作った。機械人形は人間の良き友として作られた。機械人形は人間に寄り添って暮らした。機械人形は人間の良き友となるために心を欲した。


 ”吟遊詩人”はそこまで語って動かなくなった。

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