第15話 私ハ人間です。
「ここハ、森ノどノ辺りでしょうか」
「いやぁ、ほんとにね」
機械人形を連れていれば迷わないだろうと高を括っていた。まさかハツが、道に迷うほど夢中になっていたとは。
「森の歩き方までは教わってないなぁ。手遅れだから白状するけど、どちらかというと行くなって言われてた」
「ハイ。手遅れですね」
「まぁ、森の中って食べ物いっぱいあるらしいし。薄暗いけど太陽光もあるし。多分どっかに水もあるし」
「ここニ住むつもりですか」
「人間見つけるか森抜けるまでは、まぁ、強制的に?」
頭上の木で鳥がクルクルと鳴いた。弾かれたように2人が顔を上げる。
「……しばらくハ、それモいいかもしれません」
「な」
飛び立った白と黒の鳥を追って、2人はさらに森を奥へ進んだ。
しばらく森をさまよい、太陽が真上に差し掛かった頃、ソラの腹がグゥと鳴った。昨日はたらふく食べたが今日はまだ何も食べていない。
「うーん、燃料切れー」
ソラが木のくぼみに腰を下ろすと、葉に擬態する蝶を探していたハツが振り返った。
「食事ヲ取るノですか」
「うーん……そうしたいなぁ」
ずっと背負っていたリュックサックから、ソラが銀色のライターを取り出した。
「食料は持ってないけど、とりあえず火でも起こしてみようと思う。大抵のもんは焼けば食べられるらしいから」
そう言って軽く穴を掘り、枯れ葉や小枝を投げ入れて小さな焚火にした。
「ハツって食べられるものがどれかとか分かる?」
「イイエ」
「俺も」
スクラップ場では、ささやかな畑を作って鶏を飼ったり、たまに城壁の上から棄てられる生ごみを漁ったりして食いつないでいた。食料を探すことについてはそれなりに自信があったが、ここまで大きく環境が変わってはどうしようもない。
「そこらのもん片っ端から焼いてみるのもまぁ、面白そうだよなぁ」
薪のために拾った小枝で、平べったいきのこをつついてみる。スクラップ場で見つけた丸っこいきのこを食べた時には3日腹を下したが、なんとなくこれは安全な気がする。ソラは視界に入るきのこを適当にかき集めて、枝に刺して炙ってみることにした。
「運だめし運だめし。ハツはエネルギー切れ起こしてない?」
「問題ハありません」
「そか」
きのこの表面から水分が飛んでゆく。そこでふと、ソラは重要なことを思い出した。
「ハツ、もし人間を見つけた時にはさ、人間のふりってできそ?」
「……承知シマシタ」
この森で村を作っている人間がいたら、それは機械人形を恐れている者たちだ。機械人形が突然現れたら、最悪の場合は正当防衛を掲げて総攻撃されるかもしれない。そうなれば、古い機械人形の群れを相手にするよりもやっかいだろう。
「ちょっと頼むな」
その時、森の奥から男の声と足音が聞こえてきた。
「……誰かいるのかー?」
「人間だ! やった。おーい、こっちこっち。……おぉー、おじさん!」
「ソラ! 煙が上がったから何かと思えば……」
草むらから出てきたのは、昨年スクラップ場を出て行った男だった。健康的に焼けた肌は以前よりもハリを持ち、相変わらずボロボロの歯を見せて笑っている。
「おじさん、生きてたんだなぁ」
「なんとかな。ソラは元気になったなぁ。……でも、」
男の視線がハツに移った。
「機械人形になる代わりに機械人形の嫁を取ったのか」
苦い思い出にソラが顔をしかめる。
「違うって。この子はハツ」
「私ハ人間です」
ハツによる人間のふりは、どこまでも機械人形じみていた。




