第12話 逃亡3
南の町は農作の町であったため、周辺には首都ほどスクラップは落ちていない。ゴミ山というよりは、金属片と機械の残骸にまみれた草原の景色が広がる。ヘッドライトは自動運転のセンサーに最低限必要な、ロウソク程度の光量しか持たないため、ソラにはほとんど景色が見えていない。
「ハツ、障害物あったら教え──あ、もう目ぇ光らせないでいいよ。町を出たから塔の指示も聞こえないはず」
ソラがトラックのハンドルをポンと叩く。首都周辺のスクラップ場が安全なのは、塔の電波範囲が大きく影響している。指示がプログラムに直接書き込まれていればそれも関係ないが、機械人形のトップは統治しづらい場所をわざわざ掃除しようとは思わないらしい。それを踏まえると、町の外でも動くハツがさらに不可解になるわけだが。
「……電波妨害ガ、切れません。燃料ノ消費ガ激しいです」
「おぉう……とりあえず、食べ歩いといてよかった」
頭を振ったり目を覆ったりいろいろと試しているようだが、瞳の光が消える気配は無い。初めて存在を知った機能は、本人でも扱いきれないようだ。
「ああ、そうだ。……そりゃ」
何かを閃いたソラがハツの頭を軽く小突くと、無事光は収まった。
「……消えました」
「よかったよかった」
ハツの機能は頭部に集中している。頭を殴られて発動した機能ならば、同じ場所を殴れば切れると考えたのだ。スクラップ場の老人がこれを見たら、再び「雑な機械もあるもんだ。」と呆れるだろう。
「ソラ、こノ機能から私ノ“役目”ヲ予測できませんか」
「思いつかないなぁ」
これだけ機械人形に詳しければあるいは、と淡い期待を持ったハツを、ソラはバッサリ切り捨てた。
「だってさ、こんな機械人形の敵みたいな能力聞いたこと無いし」
「ソラでモ無いノですか」
平坦な声色が落ち込んでいるように聞こえて、ソラは慌てて説明を付け足す。
「そもそも機械人形って“役目”に特化した能力しか無いんだよ。工事するやつは力が
強いし、細かい作業するやつは湧き水の虫まで見える。でもその分……ほら、店番してたやつは走れなかっただろ?」
「ハイ」
ハツは機械人形として万能すぎる。そのせいで“役目”を想像する余地が無い。
「でもハツは力持ちだし走れるし外見凝ってるし機械人形の動きも止められる。そんなの、首都でも見たこと無い。“一般住民”のニコニコさんは15歳くらいの俺を抱き上げて腕が取れてた」
久々に町に入ってよみがえった思い出を付け足してみる。機械人形に人間の成長は分からなかったのだ。
「まぁとにかく、謎がいっぱいってこと。俺の方だってなんも分かってないのに、ハツだけ旅が終わったら寂しいだろ。次があるあるぅ」
「次モあるノですか」
「うん。旅、出たばっかじゃん」
ハツが首を傾げた。今回が唯一の情報だと思い込んでいたようだ。
「ハツは困ってるかもしんないけど、俺にとっては他人事だからさ、ちょっとわくわくした! 存在が違法とかかっこいいじゃん」
さらに正直に言うと、ソラにとってハツの“役目”はどうでもよかった。会話が成立する機械人形と話している、という事実が楽しくて仕方がないのだ。
「ソラハ町ヲ出てからずっと、嬉しい、ノ顔ヲしていますね」
ハツの意識がやっと自分の“役目”から逸れた。
「うん! ニコニコさんのデータ変だった。なんかある。もしかしたら生きてるかも!」
ソラの声が弾む。その言葉が「ニコニコさんは死んでいると思っていた」と自白しているようなものとは気づいていない。
「ツギガアルアル、ですね」
「そうそう。次はどこ行こうかなぁ。……でも眠いしこの辺りで寝る?」
そういいながらソラはアクセルを緩めた。目を凝らしながらの運転に疲れてきたのだ。しかし、ハツがそれをとめた。




