第79話 幕間:【鳳姫】の激動人生<仙界編・伍>
◇◆◇ 長生界 長生樹派 丹極鳳姫 麻夢蝶/無聴 ◇◆◇
わたくしの受けた『完全敗北』の衝撃から少々。
結局、あの後は少しお話ししただけでお開きになりました。すぐにお迎えが来たからです。
これは騒ぎが起きているのにすぐに帰らなかった……帰れなかったわたくしと師姉の迎えもですが、実はどこかから秘かに抜け出してきていたらしい幽清桜さん……清桜の迎えもです。
大通りの真ん中で騒ぎが起きていたためか、単なる迎えにしては人数が妙に多いです。そんな迎えという名の護衛たちも、多数の勢力が集まる中で事件があったためか、どこかピリピリとしています。
「う~ん、残念ねぇ。ぎょくちゃんともむーちゃんとも、もっとお話ししたかったのに~」
「ふふ、またすぐに会えるわ。清桜」
「……(ポクポク)」
もっとも清桜はそんな緊張など知らんと言わんばかりに、ふわふわとした雰囲気のまま頬を膨らませています。ポクポク。
しかしもっとお話しをしたかったとは言いますが、初対面で呼び捨てを超えてあだ名まで付けるのは、十分なお喋りの範疇ではないでしょうか?
しかもこの短時間でわたくしたちに妙なあだ名まで受け入れさせたわけですから、とんでもないです。
おそらく彼女は人たらしと呼ばれる類の人物なのでしょう。その他人の懐に入る能力は侮れません。
表向きのふわふわとした雰囲気もとても可愛らしいのですが、少し話しただけでふわふわとした外面の内にしっかりとした芯があることが垣間見え、そう内面の強さを見つけるとより強く惹かれて……はっ!?
いけませんいけません! わたくしは慶雲お兄さま一筋です!
……あ、言うまでもないと思いますが、『ぎょくちゃん』というのが玉藻師姉のことで、『むーちゃん』というのがわたくしのことです。
「――ふふっ、そうね~。ぎょくちゃんとむーちゃんは【金蝉双金美】のお二人だものねぇ。次に会うときは【術錬大会】かしら~?」
そんなわたくしの内心を余所に、そう言って茶目っ気に満ちた顔を向けてくる清桜。
仕草の意味は分かりませんが、口元に笑みをたたえながら片目を閉じているその姿は、すごく愛嬌があります。
……そういえば、わたくしたち個人につけられた別号は話しましたが、二人合わせての別号についてはまだ話してません。
おそらくわたくしたちが【仙樹錬姫】の噂を聞いたことがあったように、あちらも【金蝉双金美】の噂を聞いたことがあったのでしょう。
つまり垣間見せた茶目っ気の意味は、わたくしたちのことを事前に知っていたということでしょう。
そのことでわたくしたちを驚かせようとしたのです。
「んふふふふ! そうね、また三人でお話しましょ? また今度ね~」
◇◆◇
その後、清桜が『パチンッ』と弾けるような音と共に消え、わたくしたちは普通に宿に帰りました。
どうやって消えたのか少し考えてみたのですが、そういえば清桜のいた場所には火花のようなものが散っていたので、おそらく自身を雷へと変えて去っていったのでしょう。
その直前にはわたくしたちの目の前に唐突に現れたこともありましたし、【長生樹派】の身法の一つである【化雷霊身】は有名です。
――ちなみにあれから何度か許可を得て師姉と外出してみましたが、残念ながら都合よく会うことは出来ず、その再会は【術錬大会】まで持ち越されていました。
「――師妹ー? そろそろ出るわよー?」
「……(ポクポク)!」
――はい、というわけで今日がその【術錬大会】の開催日です。
先日の清桜には、とある分野において『完全敗北』を認めたわたくしですが、今回の【術錬大会】においては簡単に負けを認めるわけにいきません。
今のわたくしの【魂力位階】は第七位階で、玉藻師姉も清桜も同じ第七位階。
しかも【魂力位階】には【武道境地】と違い、『初期』・『中期』・『後期』のような細やかな区分が存在しません。これは数多の分野が存在する術道において、同じ魂力の強さであっても、その者の特性によって得意分野がはっきりと分かれることに関係します。
そして今回の【術錬大会】の種目は『錬丹術』と『錬器術』。
どちらも火の扱いこそがモノを言う分野であり、わたくしは鳳凰の系譜として【天賦・神鳳霊体】と【神脈・鳳凰神脈】を宿し、【規則・火極之力】によって【神通・鳳凰真火】さえも展開することができます。
さらに『錬丹術』においては【天賦・神丹化身】が効果を発揮し、それらの天賦神通を十全に生かす【錬成術:神鳳錬天造化訣】も取得しています。
つまりどちらも得意分野ですし、錬丹術はわたくしの天職です。
負けるつもりもありませんし、負ける道理もありません。
張り切っていきましょう!
◇◆◇
「――それではお時間となりましたので、始めさせていただきます!」
術錬師組合・長生界統括支部。
その大講堂とも呼ぶべきここには、【長生界】や【弁財界】を含む近隣の仙界に存在する宗門や名家が集められています。
近隣二十の仙界に存在する三十八の勢力から、それぞれ十人の代表が選抜され、さらにそこへ主催地である【長生界】の【長生樹派】から選抜された二十人を足して、総勢400人。
もちろん、全員が50歳以下の若者ばかりです。
「本日は術錬師組合主催、【無窮星域・術錬大会】にご参加くださり、深く感謝申し上げます! 今回の司会進行、および審判は我々術錬師組合職員が務めさせていただきます。何卒よろしくお願い申し上げます!」
この司会進行さんが言う『無窮星域』というのは、【長生界】や【弁財界】を始めとする、この近隣の仙界が所属する【星域】のことです。
これはわたくしたち金蝉寺のような閉鎖的な宗門が使うことがあまりない呼び方なのですが、この諸天万界のあらゆるところに存在すると言われる術錬師組合では、このように呼称してそれぞれの仙界がある地域を区別しているそうです。
「また今大会の開催にあたりまして、様々な方よりご支援を頂きました。これより祝辞を賜り――」
……。
「~~! ~~~~!」
…………。
「~~~~! ~~~~~~~!」
………………。
「~~~~~~。 ~~~~~!」
……………………ふむ、話が長いです。
そういえば一つ、余談になるのですが、この諸天万界に一つの仙界のみならず、複数の仙界を支配している宗門があることは伝えたことがあると思います。
そして中には複数の仙界のみならず、複数の【星域】すらも支配している宗門も存在するのだとか。わたくしには想像もつきませんね。ポクポク。
「――それではさっそく、第一回戦を始めさせていただきます!」
おや……?
どうでもいい来賓の挨拶を聞き流していた結果、いつの間にか大会本番が始まろうとしています。
いや、本当にいつの間に?
「まずは出場の皆様、お受け取りください!」
何かしらの術で拡声した司会の声と共に、何処からともなく握りこぶし大の何かが飛んできます。
これは……霊石ですね。それも下級の。周りからも同じ内容の声が上がっています。
「――はい。皆様もご察しの通り、これは下級霊石です。これから行われる第一回戦の課題は、この『下級霊石を上級霊石まで精錬する』ことになります。こちらの課題の通過は先着で100名までとなり、それ以外は失格となります」
……なるほど、いきなり四分の一にまで減るわけですか。
それに錬丹術と錬器術で分けられている様子もないですし、おそらくこれは両分野を含めた足切りということなのでしょう。それぞれで一々素材を用意していては費用も時間も無駄に掛かりますからね。
「それでは……」
まあなんであれ。
「――始め!」
わたくしが負けることはありません。
◇◆◇
「――そこまで! 第一位【丹極鳳姫】無聴、金蝉寺。第二位【仙樹錬姫】幽清桜、長生樹派。第三位【天香金狐】玉藻、金蝉寺。第四位――」
あら、わたくしが一位ですか。少し張り切りすぎましたかね?
まあ、魂力の高速回復ができるわたくしと他の方とでは、この課題に使える魂力の量に大きな差が生じます。単純にその差が順位として現れただけのことでしょう。
それもこれも慶雲お兄さまの恩寵である【不滅神訣】のおかげですね。ポクポク。
「――以上です! なお上位十名はこのまま決勝戦への進出が決定されます!」
「「「なっ!?」」」
え……そんなお話、ありましたっけ?
「(どういうことだっ!?)」
「(聞いてないぞっ?)」
「(それならば加減などしなかったのに……)」
あ、やはり皆さんも聞いていないようですね。まあ、わたくしにとって悪いお話ではありませんが。
「――静粛に! 静粛に願います! ……その他の方々につきましては、これから錬丹術の予選を行い、明日の決勝に進む残りの十名を決めていただきます。……また今後の予定といたしまして、明日は錬丹術の決勝戦を、明後日は錬器術の予選を、そして明々後日は錬器術の決勝戦を行います。今回の下級霊石に関する基本的な錬成手法の課題で上位十名となられた方々につきましては、すでに錬丹・錬器の各決勝への進出が決定されておりますので、お間違いなきようにお願い申し上げます!」
なるほど……なるほど? ということは、わたくしはもう明日までやることがない?
あれだけ張り切ってきた身としては、肩透かしも良いところですが……まあ、そんなものでしょう。
今回の【術錬大会】ですが、先ほども言ったように二十の仙界から三十八の勢力を集めています。
つまり、わたくしたち【金蝉寺】のような『単一勢力仙界』の宗門の他にも、一つの仙界を複数の宗派が支配する『多勢力仙界』の勢力も数多く来ているということ。
そして以前話したと思いますが、そういった『多勢力仙界』の勢力は、往々にして『単一勢力仙界』の勢力に比べて、劣っている場合の方が多いのです。
……もちろん、そのような勢力の中にも逸材と呼べる人物はいるのですが、それでもやはり玉石混交。いえ、それどころかただの石ばかりと言うところも珍しくありません。
中には制限ギリギリの50歳にもかかわらず、魂力第四位階がせいぜいという者も……これではわたくしたちと彼らが競うのは、大人と子供が争うようなものです。主催者である術錬師組合支部が足切りを考えたのも理解できますね。
『……師妹、聞こえるかしら?』
あら? 玉藻師姉からの伝音術です。
というか毎度のことですが、喋れないわたくしに聞こえているかを問われても、答えることなどできませんよ?
『師匠様がね。そろそろ戻るように、ですって。あなたもわたしも上位十名に入ったから、もうここにいる意味はないし。下手に嫉妬を買わないうちにここから出るわよ』
ああ、そういうことですか。
せっかくなので清桜に挨拶でもとも思ったのですが……それは明日の決勝戦にとっておくとしましょう。
お互いの全力を尽くした、それはそれは素敵な『挨拶』を、ですね。




