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第75話 幕間:【鳳姫】の激動人生<仙界編・壱>

◇◆◇ 弁財界 金蝉寺 百雷鳳雛(ひゃくらいほうすう)改め○○○○ 麻夢蝶(まむちょう)改め○○ ◇◆◇



『拝啓


 親愛なるお父さま、お母さま。

 尊敬するお爺さま、お婆さま。


 なにより、わたくしの愛する慶雲お兄さま。

 あなたの大切な妹、夢蝶が遠く離れたところからご挨拶申し上げます。


 わたくしが攫われたあの日から、もう十年が経ちました。

 ここに来た頃は毎日のように泣いていたわたくしも、今では十五歳のお姉さんです。

 特に身体の成長が著しく、仙界の気がよほど体質に合ったのか、この十年で記憶の中に存在するお母さまよりも大きくなってしまいました。


 ここでのわたくしの立場は、金蝉寺の長老の一人である【静月(せいげつ)神尼(しんに)】様の直伝弟子です。

 武道に類する仏学系の功法に加え、術錬師として名高い【静月神尼】様の錬魂法や瞳術、錬丹術、錬器術を修め、『武道』と『術道』双方の修行に励んでいます。


 正式に得度を受け仏門に入ったのは、ここに来てから一年ほど経った頃のことで、そこで授かった法名は奇しくもわたくしの名である『夢蝶』と読みを同じくする『無聴』でした。


 ――元々わたくしの身体には、血脈に由来する先天的な魔気が存在しておりました。

 しかし当然のことですが、仏道を歩む金蝉寺が魔気を抱えたわたくしをそのまま見逃すはずもなく。その魔気は長老たちによる幾重もの降魔真言によって封じられ、わたくしは副作用で口が利けなくなっておりました。


 つまり与えられた『無聴』の名は、この世界――すなわち数多ある仙界の一つであるこの【弁財界】の、誰一人としてわたくしの声を聞いたことがないという事実に由来したものでした。


 ……まあ法名の他に【丹極(たんきょく)鳳姫(ほうき)】の別号も授かりましたので、普段はこちらで呼ばれることの方が多いですね。これは錬丹術で頭角を現したことと、極めて強い鳳凰の天賦を有することを併せて、金蝉寺の方丈様が授けてくださった別号になります。


 ウフフッ、天魔神教での【百雷鳳雛】も大げさなものでしたが、こちらの【丹極鳳姫】もわたくしが恥ずかしくなるほどに大げさなものですね。



 ――さて、伝えるべきはこれくらいでしょうか?

 ご心配をおかけしていることでしょうが、そんなこんなで夢蝶は元気にやっています。


 お父さまとお母さま、何より慶雲お兄さまに会えないことは寂しい限りですが、そこは頭の中でお手紙を書くだけで我慢いたします。


 それにわたくしは信じています。


 いつかは必ず会えると信じています。


 家族全員が揃って笑い合える日が来ると信じています。


 慶雲お兄さまが臥龍となって、わたくしの元まで駆けつけてくる日が来ると強く強く信じているのです。


 ……最後になりましたが、この度十五歳になって成人と認められたお姉さんなわたくしから、皆々様にご健康とご多幸をお祈りする言葉をお送りいたします。


 敬具』



◇◆◇



「…………?」


 何か足りませんね?


「…………!」


 ああ、そうです!

 あのことを伝えておかなければいけません!


「…………」


 とても大事なことですから……。



◇◆◇



『追伸


 これは慶雲お兄さまへのご報告なのですが、お兄さまもご存じの通り、わたくしの天賦である【太古天眼】には、元々『遠隔視』の能力が備わっておりました。


 そしてその能力は、わたくしの修為の向上と共に、世界さえ超えて望んだものをその眼に映す【神通・天眼通】へと進化致しました。


 ……何が言いたいかと言うと、ここ数年の閉関修練にあるお兄さまの様子はもちろんのこと、それ以前の潜魔館にあるお兄さまの様子も、わたくしはずっと見てきました。


 ずっと。

 ずーっと。

 ずーーっと。

 いついかなる時も見失わずに、ずーーーっとです。


 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………。


 ところでお兄さま?


 潜魔館にいる間、お兄さまの傍にずーーーーーっと居座り続けていた、あの清純な黒髪女は誰でしょうか?


 五号生試練の時、お兄さまの傍でずーーーーーっと楽しそうに笑っていた、あの妖艶な女は誰でしょうか?



 お兄さまは、夢蝶だけのお兄さまですよね?』



◇◆◇



 最初の頃……攫われたばかりの頃は、すぐにでもお爺さまが迎えに来てくださると信じていました。


 何故か声が出ず、体内の魔気も封じられ、不安が募る日々に毎日のように泣きながらも、それでもお爺さまはとてもすごい御方なので、必ずすぐにでも迎えに来てくださると信じていました。


 しかし何の音沙汰もなく半年が経ったころ、わたくしの心は、絶えず鼻を衝く線香の匂いと、いつも聞こえてくる読経によってすっかり弱められてしまい、頭の中は『諦め』の感情で支配されそうになっていました。


 そんな時に出会ったのが、わたくしがこの金蝉寺で最もお世話になっている人物、玉藻(ぎょくそう)師姉です。


 毎日のように泣きながら部屋に引きこもっていたわたくしですが、当時のわたくしの歳は、まだ子供も子供である五歳。

 当然、生活能力などあるはずもなく、複数の長老の直伝弟子たちが『お世話』を名目に日々わたくしを訪ねてきておりました。


 もっとも、直伝弟子たちは一緒に連れてきた者にやらせるばかりで、自身がわたくしの『お世話』をしたことはありません。

 あくまで『お世話』とは建前で、本当のところは背後にいる長老たちによる直伝弟子を使った『誘引』だったようです。『お世話』という親切も、当然偽りのものでした。


 ――そんな中、玉藻師姉は少し違いました。

 長老である【静月神尼】の直伝弟子として、わたくしを『すかうと』に来たことまでは一緒だったのですが、しかしこの師姉だけは他の下心が見え透いていた弟子たちとは違い、わたくしのことを心の底から心配してくださいました。


 慶雲お兄さまの【黒龍六眼】に宿る【計略看破】の能力ではありませんが、わたくしの【太古天眼】にも相手の感情を見破る【洞察】という能力があります。


 とにかく、玉藻師姉はとても優しい方なのです。



◇◆◇



 そんな縁から【静月神尼】様の直伝弟子となったわたくしは、一時的に自らの境遇への不満を脇に置き、修行に集中するようになりました。

 連れ去られて始まったこの生活ですが、わたくしがここ金蝉寺で有望視されていること自体は間違いなく、徐々に頭角を現していくにつれ、並の直伝弟子以上の修行資源を受け取ることができるようになりました。


 そんなわたくしの今の実力はこちらです。

 慶雲お兄さま風の表記でお見せいたしましょう。



◇◆◇


◇【麻(ま)夢蝶(むちょう)/無聴】

・種族:仙族 人族 鳳凰族

・身分:*魂*** 鳳凰寵児 天地愛児 金蝉寺直伝弟子

・地位:直伝弟子

・武道境地:合体境初期

・魂力位階:第七位階

・別号:百雷鳳雛 丹極鳳姫

・状態:封呪(ふうじゅ)<降魔真言(こうましんごん)>

<天賦>道骨:涅槃仙骨

    天賦:***魂 <封印>

    天賦:太古天眼

    天賦:神鳳霊体

    天賦:神丹化身

    神通:鳳凰真火

    神通:涅槃法身

    神通:天眼通

    神脈:*魔*脈 <封印>

    神脈:鳳凰神脈

    規則:火極之力

    規則:虚空之力

    体質:調和之力

    体質:無病長寿

<功法>神典:大日如来仏典

    神訣:不滅神訣

    印法:夢想四大印

    剣術:天罡菩薩剣法

   錬魂法:涅槃金剛錬魂法

   錬成術:神鳳錬天造化訣

    法術:金剛界曼荼羅

    法術:胎蔵曼荼羅

    瞳術:胡蝶之夢



◇◆◇



 伏せ字になっているところは、わたくしにもわかりません。

 おそらく魔気が関係するところなので、降魔真言の影響で見えなくなってしまっているのでしょうね。


 【神脈】というのは【血脈】系の天賦の中でも頂点に位置するもので、その他にも法術や印法を学んで……ああ、そうでした。ここ仙界と俗界では、魂力位階はともかく、武道境地には呼び方に差異があるのでしたね。


 ではそちらもわかりやすくお見せいたしましょう。

 せっかくなので魂力位階も合わせて。


 えいっ。



◇◆◇



 魂力第一位階=煉気境相当=三流~一流

 魂力第二位階=築基境相当=絶頂

 魂力第三位階=金丹境相当=超絶頂

 魂力第四位階=元嬰境相当=化境

 魂力第五位階=化神境相当=玄境

 魂力第六位階=融虚境相当=生死境

 魂力第七位階=合体境相当=自然境

 魂力第八位階=渡劫境相当

 魂力第九位階=大乗境相当



◇◆◇



 ――はい。俗界での自然境以上の境地の呼び方が分かりませんが、こんなものでしょう。


 今のわたくしの実力は、俗界風に言うと【自然境】の入気境で、仙界風に言うと【合体境】の初期。ついでに魂力が第七位階。


 ……そう。つまり今のわたくしは、あの時護衛をしてくださっていたお爺さまを超えてしまっているのです。


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