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第67話 【龍呪】解法と【血緑蛇】の内丹と新たな仲間

◇◆◇ 天魔神教(てんまじんきょう) 天魔仙跡:白蛇(はくじゃ)原始樹海(げんしじゅかい) 第六公子 白眉剣龍(はくびけんりゅう) 日月慶雲(じつげつけいうん) ◇◆◇



 【太初之火】。


 それは仙界の『太初神教』にあって、宗門の宝とされる希世の力。

 身に余る力とは言え、ただ封印しておくだけではあまりにも勿体なく、どうにか有効活用出来ぬかと考えていた本座であったが、残念ながら特に何も思いつかなかった。


「――師匠、とりあえず外に出ようか。もうここに長居する理由もあるまい。そろそろこの『実践演習』も終わりを迎える頃だ」


 よって一旦未来の自分へと放り投げ、脱出を優先する所存である。

 まあそう焦る話でもない。この潜魔館の卒業後はそのまま閉館修練に入るのが通例である。その時にでもいろいろと試してみればよかろう。


「ホホッ。そうじゃったか、詳しい日付など覚えておらぬわ。【火】を抑えることばかりに集中しておったからの。――いや、費やした時間を差し引いても実りが多い場所じゃったなここは。【真龍血源】に、【頂上霊宝】の剣に、【太初之火】じゃ。ああ、壁と床に刻まれた武功もあったの。あれの習得はもう良いのか童?」


「……ああ【太初滅世輪廻掌】のことか。まあ、とりあえずすべての招式を覚えることは出来た。恥ずべきことに未だ三招しか習得出来ておらぬがな」


 化境の極になってなお、全十二招式中の三招式しか理解が及ばない【太初滅世輪廻掌】。

 おそらく根本的に本座の武学が足りないのだ。これ以上を悟るには玄境の境地が必要となるのだろう。

 ――否、これを悟れた時こそ、本座は玄境の境地へと上がることができるのか。どちらにしろ、この武功の体得が次の目標の一つとなるのは間違いない。


「ふむ、まあ妾には武功のことは良く分からん。覚えたということであれば良いのじゃが……。ホホホホッ、それで童よ、これからはどうするつもりじゃ?」


「? 一応、予定としては散歩がてらにこの仙跡中の探索でもしてみるつもりだが? もうこの仙跡での収穫は十分であるのだが、【碧霊玉蚕】のような希少な素材を取りこぼしでもしたら勿体ないからな」


 それか【萬重轟毒湖】で【毒仙龍魂道典】の修練の続きをしても良い。【真龍真脈】や【覇龍霊体】を得た今の本座であれば、前とは比べ物にならぬ速度での成就が可能となろう。あるいは残った数日で二層までたどり着けるかもしれぬしな。


「ホホホホホッ、やはり忘れておるようじゃな」


「ん?」


「この潜魔五号生の試練・『実践演習』の課題である『毒蛇に類する霊物(れいぶつ)内丹(ないたん)』。そして前に戦った()()のことじゃよ」


「……」


 あー、あったな課題(そんなの)。そして、居たなそんな蛇。

 色々と得た物が大きすぎて目が眩んでいたとはいえ、これは確かに間が抜けていたわ。


 まあしかし、だ。もはやあの白蛇が本座の相手にならぬことは事実でもある。

 ――かつては拮抗していた肉体の強さも、あれはあくまで本座が境地で劣っていたからこそ起こったこと。【覇龍霊体】の獲得による肉体のポテンシャルの底上げと、本座の境地が化境の極に至ったことで発揮される力が爆増した【覇体恒星身】。単純な膂力では負ける方が難しい。


 そしてかつての戦闘で何よりの問題となっていた鱗の硬さについては、その難点にあつらえたかのように存在する【太初滅世輪廻掌】。

 未だ三招式しか習得できておらずとも、その招式の威力は桁違いの其れで、【覇】を以て鱗を割り砕くも、【透】を以て鱗を素通りして臓腑を潰すも、まさに自由自在である。


 当然、残りの毒も幻術も問題にならぬとなれば、やはり相手にならぬという評価に落ち着かざるを得ないのだ。


「――というわけであの白蛇はもう本座の相手にもならん。前はあれとの戦いで本座も悟りを得たのだ。慈悲を以て痛みなく殺してやろう」


 ついでに内丹を切り取れば一石二鳥よな。雪辱戦も課題も一遍に片付くことになる。

 いや、むしろ奴のおかげでこの隠し洞窟を見つけたのだ。

 そこにあったのは龍の血と仙界の宝剣と【太初之火】。

 やはり得た物が多すぎるな。痛みはおろか、恐怖すら感じる間もなく殺してやろう。大慈大悲も感涙の慈悲深さである。


 …………龍の血と仙界の宝剣?

 そういえば一つ確認しておきたいことがあったのを忘れていたな。課題のことといい、白蛇のことといい、流石に忘れすぎだ。まあそれだけ大変だったということでもあるのだが。


「そういえば師匠。冷仙月が龍の呪いを受けていることは知っておるよな?」


「ん? おお、童の恋人の剣の娘じゃな。勿論覚えておるが……あの者がどうかしたかの?」


 ……剣の娘、か。たしか師匠はいつも仙月のことをこう呼ぶ。

 以前までは剣を振っているイメージしかないゆえかとも思えたのだが、今となっては意味深が過ぎるな。

 やはり仙月こそが、無上剣宗の象徴【四季至尊剣】の冬の……、まあこのような考察は後で良いか。今は彼女の龍呪の話だ。


「いや、仙月の龍呪の解呪についてだ。今更なのだが【真龍血源】がその役割を果たせたのではないかと思ってな」


 そう。本当に今更なのだが、仮にそうであればわずかでも残しておけばよかったと思ったのだ。

 あるいは【真龍真脈】と【覇龍霊体】を得たことで、真龍族となった今の本座の血で代用が出来ぬかと。


「! ホホホホホホホッ、何をバカなことを言うのじゃ童よ。龍の呪いというのは、往々にして龍に血を流させることで生じるものじゃ。それを龍の血で解除できるわけがないじゃろう」


「……」


 ……確かに言われてみればその通りである。

 龍を傷つけたことで生じた呪いが、龍を傷つけねば得ることのできぬ龍血で解除されるわけがない。それでは龍呪自体が他の龍を傷つけることを推奨しているようではないか。


「ではどうすればよいのだ? 以前、本座と仙月が戦った時に彼女の天賦の封印が二つほど解けたことがある。それが突破口にはなると思うのだが……」


「……ふむ、それは【第一次序列大戦】の決勝でのことじゃな。それは妾も覚えておる。――おそらくあれは【黒龍六眼】と【三頭千魔】という龍の力を持つ童が、何の敵意も持たずに剣の娘と立ち合ったことで封印が緩んだのじゃ」


 ……合点がいった。あれ以来どうあがいても仙月の龍呪が解けなんだのはそういうことか。

 本座の内にある龍の力が足りなかったのだ。


「ゆえに今の童、龍の力を持つだけでなく真に真龍族となった今の童であれば、剣の娘に敵意を持たず優しく抱擁すれば……いや、それでは弱いの。うむ、双修すれば完璧に龍呪が解けるはずじゃ!」


「…………」


 ……は?


 龍の呪いの解法、それは双修。つまりは性交である。

 ……本座も仙月も、未だ十二歳ですけど?


「――よし、とりあえずの疑問も解消されたことであるし。そろそろ出るか」


 本座はまたしても未来の自分へと放り投げた。如何に龍呪の解除という大義名分があるとはいえ、流石にこの問題を現時点で解決するにはモラル的にヤバいのである。

 ……まああれだ、この潜魔館を出た後は閉館修練に入るのが常。そこで三年ほども過ごせば、神教でも大人の仲間入りと見なされる十五歳である。その時にまた考えるとしよう。


 その時まで龍呪の影響下で修練が妨害されることに関しては……ああそうだ、おそらく本座の想像通りであれば冷仙月の転生前の兄弟剣……姉妹剣? と思われる四季至尊剣の『烈日』を預けておけばよかろう。

 境地の突破も期待できるが、それ以上に仙月の剣意が遥かなる高みまで鍛えられることを期待しよう。剣の資質では今の本座ですら遠く及ばぬのが彼女なのだ。


「ホホホッ、まあ童がよいのなら良いのじゃが。それとあちらの巣には白蛇が戻ってきておるかもしれんからの。気を付けるのじゃぞ」


「ああ」


 師匠としてもまだ早いと思っていたのか、それ以上の言及はなかった。

 その後は何処か気まずい空気の中、黙って移動を始めた師匠と本座であった。



◇◆◇



 【樹海の王者】白蛇が、仲間になりたそうにこちらを見てる。


「…………」


「…………」


 顔を見合わせて固まる本座と白蛇。


「……どうしたものか」


「……シャシャ?」


 ことの発端は少し前、本座と師匠が隠し洞窟の通路抜け、白蛇の巣穴である水中洞窟へとたどり着いた時のこと。

 予定調和のごとく当然のように白蛇と接敵し、またしても、否、今度は一方的な蹂躙となる戦いが始まるかに思われた。


 そんな時である。

 本座は目の前の白蛇から龍の血の気配を感じ取り、白蛇は本座の身に宿る濃密な真龍の気配に当てられたように身を竦ませた。

 その結果が先の仲間になりたそうな視線というわけである。……もっとも本座が爬虫類表情を読み取れるという訳では無い。ただなんとなく、そういう雰囲気が感じられたというだけのことである。


「ホホ、童よ。さっさと決めよ。妾としてはその蛇が死のうが生きようがどちらでも良いのじゃが、其方らはいつまで顔を付き合わせとるんじゃ!」


 合わせて師匠の方を向き、その後再び顔を見合わせる本座と白蛇。

 なんだ、嫉妬か?

 まったく、師匠はこう唐突に可愛らしい面を見せるから困るな。


「まあ受け入れてやっても良かろう。霊物としての境地は元嬰境円満……すまぬ、俗界では化境の極じゃったな。それに肉体の強さは相当のものであるし、身法か天賦かは分からんが、肉体の大きさを変える妙な技も持っておる。あと猛毒と魂力もじゃ。今後童が勢力を作るとして、大駒として考えられる隠し球はあってよいのではないかの?」


「……なるほど」


 元嬰境とやらも気になるが、あれは恐らく仙界での化境の境地の呼び方のことだ。今は気にしても仕方ない。


 となれば今気にするべきは、白蛇を身内に入れたとして、本座に与えられた『毒蛇の霊物の内丹』という課題をどうするかであるな。

 ここまで強くなったのであれば、あるいは課題など気にせずとも序列一位となれるやもしれぬが、本座であれば強くなることにかまけて与えられた任務を放棄した者を重用したりはせぬ。

 本座が目指すは天魔、全ての教徒の模範とならねばならぬのだ。


「確かに本座の麾下は未だ超絶頂が精々であるし、化境の極の隠し球があるのは悪くはない。しかしとなれば……」


「うむ、課題の内丹じゃが、童の【商店】とやらで買えぬのかの? あるいは白蛇を従属した後に情報を吸い上げても良かろうし」


「ああ……」


 白蛇の記憶から探す方法はともかく、『商店』で買うというある種身も蓋もない提案をする師匠。

 しかし『蓬莱商店』か、あれは霊薬や丹薬の販売はあれど内丹は……。新たに追加されておらぬかな?


「シャシャシャ」


 そんな『商店』の在庫確認に移った本座に、白蛇が舌に何かを載せて差し出してくる。

 暗い緑色をした直径5センチほどの玉。中には正体不明の気が渦巻いているように感じる。

 これは……やはり内丹か?


「ホホ? 血緑蛇の内丹じゃな」


「ほう?」


 血緑蛇?


「うむ、血緑蛇はヤマカガシが霊物化したものでの。課題の条件を十分に満たしておる。これならば課題達成でよかろう」


「なるほど、それは重畳だ」


 重畳なのだが、白蛇がこれを差し出したということは会話を理解していたということで良いのだろうか?


「師匠、こいつは人の言葉がわかるのか?」


「んー、いや確かに言葉を解するだけの知能はあるじゃろうが、これまでの生が人と全く関わりのないものじゃったはずじゃからの。今のは妾らが何かを欲している様子から、これはというものを差し出したのではないか?」


「……それならそれで相当に知能は高いのではないか?」


 いや本当に。たとえ人間でも中々できることではないぞ?


「まあ、あまり気にせんで良いぞ。童と繋がりさえすれば、そこらの羽虫でもそこそこの知能を持つようになる。こやつの知能もまたすぐに変わるのじゃ。なんと言っても、かの【万古通霊道典】を学んでおるのじゃからの。今にこだわったところであまり意味はないじゃろう」


 いかに長い年月を生きた霊物と言えども、正真正銘の獣が見せた気遣いの行いに本座が少し感動していると、師匠は肩を竦めてこう言った。

 そんな身を蓋もない……だがそうか、そういう使い方もあるのか。偵察に丁度良さそうだな。


「――しかし無事に内丹が見つかって良かったの。もし見つからぬようであれば、あれじゃぞ。もう巨魔はおろか、魔君やら魔尊やらをばったばったと薙ぎ倒して、自らの実力を誇示するしか手がなかったところじゃぞ? のう童?」


「…………」


 師匠は本座をどのような狂犬に仕立て上げる気なのだろうか。

 仮にできたとしても、その教官やら責任者やらを打ち倒して要求することが試験結果の改竄? ダサすぎるし恥ずかしすぎるわ。

 いや確かに以前教官や階主たちと戦ったことはあったが、あれはあくまで比武。誰彼構わず襲い掛かったわけではない。


 ……誰彼構わず? そういえば一度比武ではなく、生死決を行った時もあったような……?


「ッ!?」


 ……おお、そうだそうだ。これまた忘れるところであった。

 当時超絶頂の熟練でしかなかった本座に三人もの巨魔を暗殺者として送り、なんとも丁重にもてなしてくれた男が一人いたのだった。


「……師匠」


「ん? なんじゃ?」


「ばったばった薙ぎ倒すとまではいかぬが……一人くらいはやってしまっても良いのかもしれんな」


「ッ! ホホホホホホホッ!!!」


 潜魔館主・【焔牙魔君】。

 奴とは決着を着けねばなるまい。


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