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第45話 【剣罡】と【剣影】と【月欠無窮】

◇◆◇ 天魔神教(てんまじんきょう) 天魔仙跡:白蛇(はくじゃ)原始樹海(げんしじゅかい) 第六公子 白眉剣龍(はくびけんりゅう) 日月慶雲(じつげつけいうん) ◇◆◇



 命を削る劇薬・【爆血丹(ばくけつたん)】の服用。

 穴道を狂わす禁功・【逆穴魔功(ぎゃくけつまこう)】の発現。

 さらに生命の根本である先天真気(せんてんしんき)の刹那的運用。


 ある種の超越状態となり、超絶頂の境地でありながら化境の境地の証明である【剣罡(けんこう)】を発現するに至った天狼剣(てんろうけん)

 『以気成罡(いきせいこう)』の境地というには不安定すぎる【剣罡】であるが、それでもその威力は【剣糸】のそれとは一線を画し、【覇体恒星身】十成に至り『金剛不壊(こんごうふえ)』の境地を成したと自負していた本座をして、なんとか剣を手放すことなく耐えるのが精いっぱいであった。

 もし仮に本座が外功を修めていなければ、とうの昔に手のひらが裂け剣を手放していただろうことは疑いようもない。いかに不安定で不完全であろうとも、流石は【罡気(こうき)】である。


「――フンッ!」


 ――ザシュッ!


「むっ! ……ほう、『剣膜(けんまく)』を破り、本座の肉を削ぐか。流石は【剣罡】よ、大した威力であるな!」


 功力が格段に増した天狼剣の攻勢は、徐々に『剣影(けんえい)』の範囲を広げることで本座の動きを封じていき、ついにはその【剣罡】が本座の『剣膜』を貫くに至った。

 【天狼(てんろう)九究剣(きゅうきゅうけん)】は狼の群れが襲い掛かるがごとき武功であり、その剣路に残る『剣影』は九匹の狼の爪牙の痕跡である。

 【剣糸】で構成された『剣膜』が【剣罡】に貫かれるのは当然であるし、それほどの攻撃であれば本座の【覇体(はたい)恒星身(こうせいしん)】十成段階の『金剛覇体(こんごうはたい)』すらも貫かれてしまうようだ。


「ふむ……動きに支障はない、か」


 即座に飛びのいて傷の状態を確認する。

 幸いにして骨にまでは至っておらぬようであるし、切り裂かれた筋肉部の傷も浅く武功の動作に支障がない程度である。

 『剣膜』を打ち破った天狼剣の一撃は、本座の左上腕の皮膚を切り裂き筋肉を僅かに傷つけて終わったようだ。


「――フッ」


「――おっと。ハッ、追撃であればもっと急いだほうがよかろうな。本座の肉体の真骨頂とは硬さばかりでは無いぞ?」


 飛びのいた本座にすぐさま追撃の『剣雨』を仕掛けてきた天狼剣であるが、残念ながらそれを喰らう本座ではない。

 【三頭千魔(さんとうせんま)】の【天脳覚知(てんのうかくち)】に加え【理智海賢(りちかいけん)神功(しんこう)】でブーストされている本座の思考速度は常人の其れではなく、傷の状態の確認を一瞬で終え、即座に追撃に備えることも難しいことではないし、そもそも本座の【超感覚】は天狼剣から意識を外していたわけでは無い。


 そしていま、()()()()()終わったところである。


「……っ!?」


「フンッ、別段驚くようなことはあるまい。そもより勝ち目の薄い戦いがさらに厳しくなっただけのことではないか」


「……バカな」


 とはいえ天狼剣が驚愕するのも無理はない。確かに切り傷というよりも擦過傷と称した方が適切な浅い傷だったとはいえ、人の本来の回復力であれば完治に数日ほどの時間がかかることが推測できるような、そんな傷だったのである。

 しかし本座が傷を負ってから完治するまでに要した時間はわずか一秒弱。まさしく一瞬にして傷が塞がったと言っても過言ではない。


「【玄魔(げんま)養生功(ようじょうこう)】第十成段階……といっても分からぬかな?」


「……っ、邪術か」


「フハハッ、これは異なことを言うではないか。養生功とはあくまで体内の気血を整える健康気功よ。本座のこれはそれが少しばかり大きく作用しておるだけだ」


 そう、これこそが【玄魔養生功】の真の力にして、金剛不壊、高速思考、超感覚に続く本座の肉体の真骨頂の一つ。

 完璧な肉体を作り上げることを目的としたこの武功は、内傷・外傷を問わず怪我を負った体を不完全な状態と見なし、完璧な状態へと回復する力があるのである。

 以前も幼魔館で話したように、十成程度であっても擦過傷や打ち身程度であれば一瞬で、骨折であっても一晩で完治するものであるが、今の本座の【玄魔養生功】の成就は十二成。骨折はおろか、仮に腕を斬り飛ばされたとしても押し付けていればくっつくほどの回復力を持っている。それを思えば邪術呼ばわりも致し方ないのかもしれない。……養生功ってなんだっけ?


「しかしなかなかやるな。骨は傷ついておらぬとはいえ、本座が未だ絶頂のころに行った三人の階主との比武では皮膚すら斬られることは無かった。『金剛不壊』に至ったと自負しておったのだが……本座の過信であったかな?」


「【剣罡】ですら骨まで届かんのか……本物の化け物だな」


「フッ、よく言われるぞ」


 本座の肉体の強さと異常性があらわになるたびに驚愕しているようではあるが、その反面絶望が未だ見えてこない。

 先の一件もそうだ。『剣影』で逃げ場をふさいで仕留めると言えば聞こえは良いかもしれないが、しかしそれは残された時間が少ない者にとって焦りを喚起せざるを得ぬような遠回りで悠長な作業となる。


 この天狼剣の何より恐ろしい点を一つ上げるとすれば、それは絶大な量の内功でも不安定な【剣罡】でもなく、刻一刻と死が迫る身でありながら自棄になって攻めかかることなく、落ち着いて確実に本座を仕留めようとする常に冷静な精神性である。

 いつ死んでもおかしくないような身で、かつ普段であれば考えられないような絶大な力を手にして、そこでわざわざ時間がかかるような確実な一手が打てるような者がこの世に何人いるのだろうか?

 なかなか死なせるに惜しい男だ。


「しかしこれでは千日手だな。本座はその方の『護身(ごしん)罡気(こうき)』を抜けず、その方は攻撃は当たれども、本座の治癒能力がそれを凌駕する」


「……」


 例えるならば、本座の場合は【覇体恒星身(VIT)】プラス【玄魔養生功リジュネ】で総合的な防御力を形成しているようなものだ。

 そして本座の攻撃は、【罡気】を身に纏うことで敵の攻撃を防ぐ『護身罡気』の前に脆く散るのみであった。残念なことにあれを【剣糸】で抜くのは無理がある。


「まあ実際には時間は本座の味方だ。真に千日手となれば貴様の時間切れで本座の判定勝ちとなろう」


「……っ、何が言いたい?」


「――つまらぬということだ。せっかく死力を尽くし向かってくる相手にただ自滅を待つのみとは……愚にもつかぬわ」


 本座は溜息を吐きながら首を振るう。

 実に残念だ。可能ならば武功だけで、『武道』の技のみで打ち破ることができればそれに越したことは無かったのだが、本座の未熟ゆえどうにも手が届かぬ。

 ならば致し方ない、()()の開示といこうではないか。


「『瞳術(どうじゅつ)開眼(かいがん)


「っ!? なにっ――」


「『【月欠無窮(げっけつむきゅう)】第一章・幻夢眼(げんむがん)』」


 それは真の切り札。術道の師たる桃琳(とうりん)師匠の下に付いたことで、もはや真似事の産物ではなく本物として完成された【瞳術・幻夢眼】……否、【瞳術・月欠無窮】。

 本来であれば、化境の境地にまで至った達人ならば抵抗できたかもしれないそれは、抵抗の要となるべき『先天真気』が消費されている今では抗う余地のない冥府への導き。


「強かったぞ。天狼()()よ」


「………………」


 巨魔の魔人・天狼剣、改め天狼魔君。

 夢の中へと導かれ、もはや言葉を返すことすらも叶わぬ男への最期の手向け。

 『護身罡気』が消えうせた肉体に本座の剣を阻む力はなく、幸いにして天狼剣の首は苦しむ間もなく綺麗に落ちた。


「……よし、逃げるか」



◇◆◇ 天魔神教 天魔仙跡:白蛇原始樹海 焔牙魔君 ◇◆◇



「……ここか」


 潜魔五号生たちを『実践演習』の演習場へと送った日からすでに十日。

 私、焔牙魔君は【天魔仙跡・白蛇(はくじゃ)原始樹海(げんしじゅかい)】へと赴いていた。六公子様への襲撃を指示した部下の連絡が途絶えたためである。


 元々の予定であれば、仮に襲撃が警戒されていたとしても集中力が限界を迎えてくる三日目あたりには計画の実行が行われるはずであった。

 そしてたとえそれが失敗していたとしても、三人配置した部下が全滅するはずもないため、その内の一人が潜魔館へと戻り計画の状況を私へと報告する手はずであった。

 それがこの有様だ。


「木々が散乱する空き地。ここで戦闘があったことは間違いない。……しかし想像以上に前のことだ。最低でも五日前、あるいはそれ以上。これでは私の追跡術では辿り切れんか」


 そうでなくとも私は怪しまれることを避けるためにあまり長く潜魔館を空けるわけにはいかない。加えてなぜか死体が残ってないので、この追跡の難易度は一朝一夕で処理できるようなものではない。

 それにここ【天魔仙跡・白蛇(はくじゃ)原始樹海(げんしじゅかい)】は、潜魔館と教祖大殿からしか転移できない特別な場所。そもそもの事前情報が少なすぎて襲撃にはあまり向かない場所ではあったのだが、昨年の内に決定されていたことだったので赴任してきたばかりの私には覆す事ができなかったのだ。


「……やむを得まい」


 私は追跡に見切りをつけ、()()()に帰還することにした。

 月に一度の調査……は流石に怪しまれるか。残りの『実践演習』期間が九か月と二十日。四、五回でも調査の機会があればいい。これを機にここの詳細な情報を収集するという名目があれば許容されるだろうし、運が良ければ襲撃対象を発見することもできるはずだ。


「運否天賦は気に食わんが……まあやらぬよりましだな」


 私の策の拙さの証明であるが、できればこちらに全く関係ないところで事故が起こればと思わざるを得なかった。


 そして後日、私の五回に及ぶ調査は無為に終わることになる。


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