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12 生徒会の糾弾

お久しぶりです……。


 いつも通りに授業を終えて帰り支度をしていると、百合子ちゃんがやってきた。「生徒会室に一緒に行きませんこと?」と、いやに凄みのある――つまりは、提案の形をとった命令であり、拒否できそうもなかった。

 放課後の予定なんてないから、別に問題はないかな。


「あれ、春にい。会長も、茨木先輩まで?」


 生徒会室に行くと、役員が勢ぞろいしていた。しかも茨木先輩以外の全員が難しそうな顔をしていた。いつもにこにこしている会長まで。

 でも、会長は私に気づくといつにもまして嘘くさい笑みを浮かべた。


「やあ桃ちゃん、よく来たね。実は聞きたいことがあってさ」


 私に用があるのは会長のようだ。特に問題は起こしていないけど、何を聞きたいんだろう。


「何でしょうか?」


「黄泉くんの使い魔から霊障を受けただろう?」


「っ!! ……どうして、いや、えっと」


 不思議に思って聞き返すと、先日黄泉に口止めされた出来事についてだった。

 なぜ知っているんだ。あまりの不意打ちに思いきり動揺してしまった。

 自分でも下手を打ったとわかるから、舌打ちしたくなる。約束したのに。

 それを見ていた会長が背もたれにぐったりと身体を預けて上を仰ぐ。


「やっぱりかあ……。茨木さんの言った通りなわけだ。桃ちゃんは使い魔についてどれくらい知っているんだい?」


「自分よりも弱い妖魔を(くだ)すか、契約を結ぶと、一時的に妖魔に命令できる、ということくらいです」


「教科書通りだね。あんまり言及されることはないけど、使い魔が霊障を引きおこすなんて、ありえないんだ」


 そして使い魔はふつう霊障を起こさないと言われた。でも、そうすると、私に霊障を受けさせた珠ちゃんは使い魔じゃないってわけで。黄泉は調伏していない妖魔と一緒にいるというわけで。

 それでは退魔師としてあまりにも無責任すぎる。


「つまり、その、黄泉の使い魔は使い魔ではない、と?」


「そういうことになる。違法かもしれないし、妖魔に騙されている可能性もある。だから、黄泉くんにも事情を聞きたいんだけど」


「でも、あまり凶暴な妖魔にはとても見えませんでしたよ? なんならとっても仲良しに見えましたし、黄泉も霊障になっていなかったですけど……」


 珠ちゃんは大人しそうだったし、黄泉によく懐いているようでもあった。妖魔は人間が好物だし、それなら手近な黄泉をまず喰らうだろうけど霊障になっている様子もなかった。

 なにより、黄泉が――私がずっと勝てないでいる相手が、そんなへまを踏むなんて信じたくなかった。困惑と怒りがないまぜになってだんだんと自信がなくなっていく。


「なんで一瞬で黄泉が霊障じゃないってわかったのかが気になるけど。あのね、鈴鹿ちゃん。妖魔は妖魔よ。信用なんて絶対にしちゃだめ」


「そうですよ桃さん、朱音さんの言う通りです。今回は桃さんは無事でしたけど、ほかの方が霊障にならないとも限らないんですから。早急に対処が必要ですわ」


 茨木先輩と百合子ちゃんが宥めすかしてくるのが申し訳ない。わかっているけど、わかりたくないんだ。

 頭でわかってても、どうしても受け入れたくなくて。歯を食いしばって、味方のいないこの空気と、だってと言いたい言い訳を噛み殺す。根拠のない主張はみっともないから。


「念のため、黄泉ごと浄化するのが良いだろう。浄化の陣は人間には影響がないから。最悪、黄泉が妖魔にのっとられている可能性もあるし、それも加味した陣を組まないといけないな」


「一時的に使い魔を全て失うことになるだろうが……」


「でも安全は保証されます。それに、あいつならすぐに新しいのを捕まえますよ」


「……やはり人命が一番だろうな。治癒の得意な退魔師を手配しないと」


 床を睨みつけている横で、春にいと会長と茨木先輩の話が進んでいく。

 春にいは黄泉から妖魔との契約を完全に取り除く陣を提案し、会長はそれに難色をしめした。その陣では黄泉が法に従って契約した妖魔との関係も清算されてしまうために、黄泉の力を削ぐことになってしまうからだ。それでも、彼の潔白を示すにはこれ以上ない陣だと茨木先輩に言われて会長は頷いた。

 あっという間に黄泉ごと浄化する作戦は本決まりになる。


「あの、黄泉に一度話をするべきだと思います」


「ダメよ。事前に言ったら妖魔を逃がしちゃうでしょ? 全部キレイにしなきゃ」


 私はあまりにも一方的な決定に慌てた。だって、黄泉と珠ちゃんの仲をこうも簡単に引き裂くべきではないと思うのだ。黄泉の友達なんて、たぶんあの子くらいなんじゃないかと

さえ思うし。

 仕方がないことなのかもしれないけど、こちらの都合で黄泉の弱体化させるも、私にとっては私が負けたような気分になるから不愉快だ。

 そう思ってせめて黄泉に浄化することを伝えるように提案するけど、茨木先輩に潰されてしまう。口調は軽いものの、そこには断固とした響きがあった。


「……決行は、一週間後。新月の夜は妖魔との契約が一番弱まるから、浄化もやりやすいだろう。授業参観に紛れて、大人たちに浄化してもらう」


 会長は悩んだように黄泉を浄化する日付を決めてしまった。生徒が浄化するんじゃないんだ。普通と言えば普通なんだけど、なんだか肩透かし……。

 一人前の退魔師たちが授業参観に来ることはほぼないらしいんだけど、今年は根回ししてきてもらうんだって。


「あ、大人たちがくるなら学校の結界の強化も頼もう。こっちは日中にやってほしいけど。なんか、きな臭いっていうか……、落ち着かないっていうか……、気の巡りが変っていうか……」


「おい、まさか逆行してないよな?」


「逆行……言われてみればしっくりくるな。……うわ、マジか」


「勘弁してくれ……」


 せっかく大人が来てくれるならと、春にいが学園の結界についても頼むようだ。柄にもなくしどろもどろな説明だったけど、会長の言葉でしっくり来たみたいだ。二人で暗雲を背負い始めた。あ、百合子ちゃんまで。

 気が逆行しているってそんなに大事(オオゴト)なのかな? 私は全然、学園の雰囲気が違うなんてわからないんだけど。


「巡りが逆行すると、何かあるんですか?」


「あれ、桃ちゃん知らないの? 自然を捻じ曲げるものだよ。逆行の陣をよく使う九星教とは犬猿の仲だよ」


「水、金、土、火、木ってな。普通は反対だろう? 自然に反するってことで一種の禁忌だ、妖魔も湧きやすくなるし、不老長寿なんて夢物語だしな」


「へえ……」


 今日はなんだか自分の無知を突きつけられるなあと相槌を打つ。うんざりした様子の二人には、過去に何かイヤな思いでもしたのかもしれない。

 でも、黄泉にどうにかして浄化の陣について伝えないと。禁止されてないし。


「あ、鈴鹿ちゃん。黄泉に浄化の陣のこと、話しちゃだめよ?」


「はい……」


 私が黄泉の浄化に納得していないのはバレバレだったようで、あっけなく茨木先輩に釘を刺されてしまった。はあああ……。

 黄泉に対して引け目なんて感じたくなかったのに。



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