17の人格の誕生
空に浮かぶは
何者にもただ見上げることしかのできない
万物を飲み込む黒、そして、万物を照らす金の炎から創られた
矛盾する一頭の竜の形をした魔力生命体
収級 金黒天魔
魔術名 ウェーシュオアデスペェア
世界に放たれれば、その世界は滅ぶ、いや消滅する
黒魔王竜と金天帝竜の両方と契約を結んだからできる本来の魔術
その竜は羽ばたき、色の違う双眸はこの世界の行く末を決めているよう
しかし発動させた本人は浮かない表情をしている
「はっ、失敗したのか
これで次はコンティニューじゃなくてまたリセットかよ」
その呟きは誰にも届かない
真横に佇む竜の頭を撫で再び見下ろす。
「わかるやつにはわかるんじゃないか?これがどれぐらいヤバいものなのかは」
問いかけてみるが反応はない
それもそうだろう、分かるやつどころではなく、誰が見てもそれは抗えることのできないものだとわかるのだから
「……これで俺の役目も終わりかなぁ……」
……な、なんなのよあれは……
唯一エルムの記憶がないアリスは今激しい動揺にさいなまれていた。
知らない障壁
知らない召喚術
知らない魔術
全てをエルムは使っていた。
そして今、魔術で黒と金の竜を作り出した。
それも見るからに絶望しか感じないような
次元が違いすぎる。
魔術の天才何て呼ばれていた私でも彼の足元にも及ばない
「ビーナ!貴方の記憶でもいい!彼は!いや、エルム君は何者なの!?」
「だから言ってるじゃない!エルム=レイル=ギールは神災…なのよ!」
「その神災ってなに!どうしてそんな二つ名がエルム君についてるの!」
「……彼は何でも出来すぎたのよぉ
全てのことを
魔術、異能、召喚術、武術、武器の扱い、人を惹き付ける魅力、見ただけで覚えることのできる完全記憶能力、政治、交渉術、そして、消えたはずの魔術、滅亡魔術まで」
「ならなぜ!これまでのエルム君は回復、治癒、解呪の三つの魔術しか使わなかったの!?」
「分からないわぁ……でも……人格が関係してるんだと……」
『その通りだよ』
突如グラグと同じく脳内に響くその声はどう聞いてもエルムのもの
「聞こえてたと言うの!?この距離で!?」
『ああ、別に聞こうとしなくても入ってくるからね、頭に』
「どういう……」
『アリス、君にもあげるよ、消した記憶を、昔のアリス本人の記憶を』
皆にあげた記憶はエルムの記憶ではなく、エルムの記憶の中の彼女たちの記憶である
そのエルムの言葉と共に流れ込む記憶は強制的に繋げられていた記憶と記憶の間を埋めるように入っていった。
「こ、れは10才頃の記憶…?」
『そうだ、その時の記憶だよ
ああ、ビスルト、俺は最初の人格から順に才能を封印していってるんだ。だからお前が知っている、エルム=レイル=ギールは7つ目の人格、ということはお前が言った才能の他に6つあるんだよね』
「……え?」
『それと、もうひとつ
その封印していった才能はその人格に最も関わりを持った人にコピーされる。ここまで言えばもうわかるんじゃない?』
「私にもエルムの才能のコピーが…あるってこ…とぉ?」
『なんのかは自分で考えろよ?俺にはもう時間がない』
「ま、まって!エルム君!」
『ん?どうしたアリス』
若干アリスの声は震えていた。
記憶の影響でエルムに恐怖を感じているのだ。
「私の魔術の才能はエルム君のものだった……の?」
『安心して、その才能は君の元々のものだから、まあ、あとは君ら次第だ…………俺をどうするかは』
それを最後にエルムの念話は途絶える……
「終わりかな……」
黒と金の竜型魔術生命体はエルムにすりよりまるで全てが終わりを迎えようとしているかのように
「お前もありがとな、次の時は……お前が俺を消してくれ」
キュルルル……
「嫌だよな、でも頼むよ……次で終わりなんだから」
エルムのビスルトが知らない才能の一つ
人間以外すべての生物と心を通わせることができる
声が聞こえ声が届く
植物でも動物でも
空に生きる生物でも
陸に生きる生物でも
海に生きる生物でも
たとえ創られたものだとしても生きているのなら対象である
「君は自由だ、グラグとサンに替わって全生物の頂点に君臨した竜だ」
キュゥ……
「エルムがいるって?はは!もうわかってるだろ?失敗したんだ、あの三人は、だから俺はもう戻れない。
エルム=ギールは封印された
これで俺が封印されてない才能はもうない、だから次はない。
俺の残っていた四つの才能は全てアリスにコピーされてる
だから俺はもう要らないんだ」
キュゥ…キュゥ
「優しいなぁ、お前は、ああそうだ、セルナを守ってやってくれよ、彼女は唯一俺を…怖がらずにいてくれてそのあとも俺をずっと見守ってくれてた俺の……恩人だから」
…キュ!
「ありがとう……」
キュウ!キュキュ!
「俺に名前をつけてほしい?どうしてまた?」
キュゥキュ!
「内緒って……まあいいよ……じゃあ、フィアロールとかは?」
キュゥウウ!!
「そんなに気に入ったのかよ?適当だぞ?」
キュゥ!!
「可愛いやつめ……ああ、もうすぐ時間切れかなぁ……」
俺はフィアロールの頭に手を当ててとある魔術をかけた
「エターナルボーカル」
滅亡魔術の一つ
動物干渉魔術
どんな言葉でも話すことができるようになる。
人間にかければ外国なんて普段使っているかのように会話が可能になり
動物もしかり
言葉が話せて不便になることはほぼない。
だけど話せるようになるのなら人間と仲良くして欲しい、
いや、楽しく生きて欲しいから
もう体に力が入らない
すでに一の人格としての俺は封印されていっているようだ。
「ありがとう……マスター」
「ふふ……気に…する……なって、
フィア」
「……はい」
「俺…の分……まで…自…由に……」
楽しく生きて……
最後の時、また会おう
プツリとそこで一の人格、エルム=レイル=ギールの世界は真っ暗になった。
その瞬間エルムが展開していた浮遊魔術は消え、支えるものがなくなったエルムは自ら上がった約30メートルをただ落ちる
エルムに攻撃をした学生たちは落ちるエルムを誰も助けようとはしない
エルムの精神世界から帰ってきたラル、ニル、ソワラスも
ビスルト、そしてアリスでさえも
誰も動かなかった。
否、誰も動けなかった。
セルナとフィア以外
セルナは半竜化し背中に翼を生やし自由落下状態のエルムを抱きしめ
フィアは全てを見据えこういい放った
「これ以降マスターに何かあるようなら我は世界を滅ぼす!!」




