学院長、逃亡す
「えぇー!そーちゃんとかすっごく久しぶりなんだけどぉ!!」
ビスルトが発した言葉には懐かしさを含んでいた。
それもそうだろう、なんせ7年半会っていなかったのだから、
もはや覚えてなくても仕方がないんだが
「そうなんだけどビーナもひどいなぁ、私の事を忘れちゃうなんてさ!」
「いやぁ、だってぇ流石に7年も会わなかったら忘れちゃうよぉ、逆にこれまで何してたのよぉ?」
「まあ、ほんとに色々あったのよ、色々ね」
「だいぶ含みのある言い方をするなぁ」
「まあ、これはまた今度言うわよ」
「そぅ?それならいいんだけどぉ」
「じゃあ今度はこっち!!あのあとあの街はどうなったの!?」
あの街……
それは少し前のエルムをサプライズ&ドッキリのコンテスト会場に輸送する際に立ち寄るはずだった二つ目の街、リュアルである
その話題を持ち上げるとビスルトは顔を背ける
「……リュアルの住民たちはみんな……」
……やはりあのワイバーンの影響だろう。
「原因はなんだったの?」
「……詳しくはわからないのぉ、でも、何らかの魔力によってきたと言うのが私たちの見解よぉ」
「……何らかの魔力……あのタイミングで……」
ここに来てからもなにもしゃべらないアリスの口から溢れたのはそんな言葉だった。
そしてそんなアリスの視線の先はなにも言えない人形となっているエルムがたっている。
「どうしたのぉ?」
「いや、何でもない……」
そんなこんなのやり取りがあるなか、リアとラナは無表情のエルムを見つめてなにかを言いたげにしている。
だが、今のエルムに何をいっても意味はないと割りきったのか、それとも諦めたのか、再びビスルトたちの方に耳を傾け始めた。
「それはそうとぉ、ラルたちはなんでそーちゃんとセルナちゃんと一緒にいるのさぁ?面識とか会ったっけぇ?」
「いや?僕たちは無かったんだけどアリスがソーラの弟子だとかなんとか?」
「あ、そうなのぉ?」
「ええ、そういえばビーナには言ってなかったわね、紹介しようかしら?」
「いやぁもうしってるからねぇ」
「どーよ、私の弟子は」
「スゴかったわよぉ」
「棒読みじゃないの」
「まあいいじゃなぃ?というかそもそもを忘れてたぁ」
「そもそも?」
「なんでここに来たのぉ?」
「……あ!忘れてた!!理事ちょ……あれ?」
「どうしたの?ソーラ?」
「り、理事長は?」
「え?普通にそこにいる……あれ?あれ?」
「…………」
「「「どこいった理事長ーー!!!!」」
いなくなったことに気がついたのはここに来てから数分後のことだった。
「捜索よ!!探し出さないと!!ビーナも手伝って!!」
「え、えぇ?わかったぁ、えっと、リアとラナ、聴いていたわねぇ?」
「「は、はい!!」」
「じゃああなたたちはぁこの棟の捜索を『ああっ!!』今度はなにぃ!?」
「どうしたのよ!アリス!」
「消えた……!?」
「消えたってなにがぁ!?」
「エルム君が!!消えたのよ!!」
何の前触れもなくそして、そこにはもとからなにもない、とでもいえそうな消えかただったのだ。
色々なことがあり、それのせいでエルムを見ていたアリスはそのエルムの消滅を目の当たりにしていたのだ。
「エルちゃん!!?アリス!!どういう風に消えたの!?」
「なっ、なぜそんなことを!?」
「いいから答えなさい!!」
「足から徐々に消えたとしか……」
「足から……転移じゃない?」
考えだしたソワラスに代わりセルナがある行動を始める。
「グラグさん、これはどう言うことかわかりますか?」
『それは恐らく…出現型魔方陣だ、転移が魔術できるようになってから使われることはなくなったのだが……』
「それではどこに出現したのかは?」
『少し待ってくれ……あ?』
「どうしました?」
『いや、見つからない……』
「どう言うことです!?」
『俺の探知は本人の魔力を元に辿っていくのだが、魔力残滓がそこの時点で切れている……転移でも魔方陣でもそれはないはずなのだが……
くっ!!このところエルムを中心に俺のわからない異変が多すぎる!!』
「ダメ……ですか」
『すまない、なにかわかったら知らせる』
「……お願いします」
「アリス!この棟の探知は!?」
「やってます!ですが!どこにもいません!」
「くっ!」
「しかし!人とは明らかに違う魔力が!!地下に!!」
「地下!?そんなものがあるっての!?」
「あります!が!入り口がありません!!」
「入り口がないなら近くにも魔方陣があるはず!」
「……えっとぉ!!……あります!この部屋のとなりに人が1人が乗れるぐらいの恐らく転移魔術の魔方陣……いや、転移魔術の掛級です」
「行くわよ!!」
「でもどこに繋がってるかなんて!」
「そんなん地下に決まってるじゃない!!」
「いくよ!アリス!四の五のいってる場合じゃない!!」
「ニル!?」
「エルムがどうなるかわからないのよ!?ならいくしかないじゃない!!」
「ラルも…わかった、行きましょう!」
隣部屋に移動し続々とその転移魔術に乗っていく。
そして転移した場所は薄暗く、三つの魔方陣のようなある部屋だった。
「いまのってるを含め、3つ、ということは色が同じである右側が転移魔術でしょうか?」
「恐らくそうでしょうね……そしてそっちの方は……出現型魔方陣ね、こっちからエルム君をよびだし……」
「こっちに移動させたのか」
「けどこっちにはグラグさんすらわからない場所が……」
「待っててエルちゃーーん!!」
「ちょ!!ソワラス姉様!!?」
そうして、今度こそ本物だった転移魔方陣に乗ったソワラスたちはまたもや薄暗いところに転移された。
「待ちわびたぞ、天才ども、そして、聖女ソワラス」
「理事長っ!!エルちゃんをどこにやった!!」
「何のことだ?」
「とぼけやがって!!」
「なんてな、知ってるさ、もちろん、知ってるに決まってんだろぉ!!そこにいるんだからなぁ!!」
「そこ!?どこにいる!」
「見えないかぁ!見えないよなぁ!!いま明かりをつけてやるよぉ!!」
その言葉と共に天井から吊るされている蝋燭に火が灯る。
蝋燭の本数16本、ちょうど繋げたら円が描けそうに並べられていた。そしてその蝋燭はとても長く、とても溶けるのが早い。
ポタポタと地面にに垂れていく、そしてその垂れた蝋が地面にある窪みに流れていく。
「魔方陣?こんなに大がかりな?」
「でも媒介が蝋だけでは……」
「お前らもひどいやつらだな、上を見たときに気がつかなかったのか?」
「上?」
そしてここにいる理事長以外の全員が同時に天井に顔を向ける。
「え……?」
誰が漏らした声かはわからない、でも、心境は皆同じだろう。
天井にエルムはいた。
手足を固定された状態で。
そして……
人としてもっとも重要な器官である心臓に一本の剣が刺さっている状態で
誰もが言葉を失って静かになったこの部屋にエルムに刺さっている剣を伝って地面に落ちる血だけが唯一、音として成り立っていた。




