犠牲とエルム
今話は少し短いです
あらかじめご了承してくれると助かります。
苦しい、痛い、暗い、怖い、寂しい
……誰か……助けて……助けてよぉ……
切実に音とならない叫びをあげることしかなにもできない
なぜなら、彼には、自分の体を自由に動かすことのできない魔術をかけられているから。
そして……
彼の心臓には一本の剣が刺さっているのだから
常人なら即死なはずだ
しかし、エルムは常人ではない
度重なる魔術による虐め、そしてそれによって受けた怪我を治すための魔術を自らに掛けつづけたことにより、身体の破壊と再生を異常なほど繰り返しつづけた結果、常人とは桁外れな物理&魔術耐性、そして、人外レベルの生命力がエルムを常人から人外へと変えていた。
そんな人外となったエルムには市販の剣やただ空中に漂っている魔力が籠り魔剣化した剣などではいかに達人と言えど容易には貫通しなかっただろう。
しかし、刺さってる剣は普通の剣とは違かった。
黒魔王竜、グラグの鱗すらも貫通させるという宝剣。
宝剣、刺千
貫通特化であるその剣は剣を扱ったことのない学園長でも容易に人を殺めることができる。
それもそうだ、普通の剣ですら剣を扱ったことのない人でも簡単に人を殺められるのだから。
それが、普通の剣でなく、宝剣
そして、常人が人外化したエルムになっただけのこと。
しかし、刺された場所が問題である。
心臓に刺されてなおエルムがまだ死んでいないのも、エルムの生命力が異常であったために他ならないのだ。
「な…んで……俺…だけ……こ…んな……に……」
魔術が解けかけてきているのか、ほんの少しだけ動かすことのできるようになった口からはそんな、なぜ、なんで、という掠れ声だけしか出なかった。
「おお、ようやく聖女の魔術が解けてきたか」
この薄暗い空間に似合わない、ちょっと弾んだ声が響く
声の主はエルムをこの状況にした張本人
「…りじ…ちょ…う……」
「良かった、このまま君にあの事を伝える前に終わってしまうところだったよ」
「あ……のこ…と?」
「そうだ、あの事だよ」
「……なん…の…」
「お前にも、なんで、なぜ俺がって思ったことがあるだろ?」
「…は…やく……いい…や…がれ……」
「そうか、自分の死期ぐらいわかるものなのか!
ならしかたがない、少し焦らしたかったのだが言おう
学園の生徒に君を虐めさせていたのはこの私だ」
「……は?……」
「生徒に無料配布する魔導手帳お前も持ってたな?」
「…あ…ああ……」
「あれには学園の校則はもちろんその日の行事、イベント等が反映される。そして、それを反映させているのが私だ」
「そ……れが……なんの…か…んけ……いが……」
「行事、イベントはわりかしどうでもいい、しかし、校則は生徒にとってかなり関係がある。
この学園は校則には厳しくしてあるからね、内容はゆるゆるだけど」
「だか…ら…それ……がっ」
「君がこの学園に入学して一週間以内に私はこういう校則を作った。
『学園内でエルム=ギールに会ったものは武器か魔術を用いて攻撃しする事。なお、攻撃しているのの野次馬になるならしなくてもかまわない。』とね」
「なん…で……な…んの……ため…に……お…れを」
「目的を果たすには君が必要ではなく君の身体のみが必要なだけだから、内容は君が知ることに意味はない」
「じゃ…あ……もう…す…ぐ……って…こと…か……」
「なんかずいぶんあっさりしてるな?」
「ん…なも…ん……こん…な……じょ…う……たい…だから……な」
「私も驚いているよ、普通のではないだろうとは思っていたがこんなに化け物だなんてな
心臓を刺されてなお会話できるのは君くらいだろう。
そうだ、自分であとどれぐらいかわかるものなのか?
そんな体験、君にしかできないだろうからね」
「…はっ……もう…す…ぐ……だっ…て……いっ……てん…だ……ろ……」
「ならよかった。
そうそう、聞き忘れてたよ。
もうすぐくるであろう聖女一行に伝言とかあるかな?」
「……お…まえ…が……それ……を…いう……か」
「ハハッ!確かに!」
「…ぎゃ…く…に……おま……えも…い…い…のこ…す…ことは……な…いな?」
「……どういうことだ?」
「…こん…な…じょ…う…きょう……に…なっ…て……わ…かる……ことがっゴフッ!……くっ…そ……」
「おい!どういうことだよ!!」
「……こ…れだ…けは……かく…ていだ……
おま…え…は……しっぱ…いす……る……」
この言葉言い切ったと同時にただでさえ感覚の薄かった手足が先端から徐々に切り離されていくかのように完全に感覚がなくなっていく。
死がエルムという一人の青年を徐々に、徐々に……
ああ、もっと一緒にいたかった……
ラル、ニル、セリィ、ソラワスお姉ちゃん
……………アリス




