絶望と少女たち、そして……
なんでなんだよ
なんで俺がこんな目にあわなくちゃいけないんだ。
全くもって悪いことなんかしてないじゃないか……
「三人とも絶対許さない……どうせ毎日好きだとかいってたけど心のなかでは蔑んでたんだ……」
そんな恨み声をときいていたある二人は恐怖に駆り立てられていた。
「後ろから恨み声が半端なく聞こえるんですけど!」
「あ、ああ、なんだか可愛そうになってきたな……」
そう、この二人は奴隷商の引き取り人である。
役割として……
……?役割?
そう、実際はこれ、三人が仕掛けた結構大がかりなドッキリである。
大事なことなのでもう一度言おう。
ドッキリである。
しかし、その事に全く気づかないエルム(普通は気づかない、てか気づくわけない)は本当に売られたと思い病んでいた。
「みんな死ねばいいのに……いや、俺が死ねばすぐ楽になれんじゃん、別に未練とかまるでないし、そうだよ!何でそんなことに気づかなかったんだろう!アハ!アハハハハ……」
突如大声で笑いだしたエルムにたいして段々怖くなっている引き取り役の二人
どちらかというとエルムよりかわいそうな気がするのは気のせいだろうか?
彼女たちは女王ビスルトの護衛を任されている一応相応の位の高い女の子たちだ。
そんな彼女たちが他にもいくつかある役の中でもこの役になってしまったのはくじ引きでこの役を引いてしまったからであり、彼女たちは今になって自分等の運のなさを恨んでいた。
役的にはただ指定の場所に運ぶだけだったはずなんだがこんなことになるとはあの三人以外は誰も知らなかっただろう。
「ヒィ!……や、病んでる……」
「しかも、ホントは男の娘ってことがより怖いんだけど」
「てか死なれるのは困るんですけど!」
「怖いからちょっと口も縛っちゃおうよ……」
「そうしたいんだけど……近づける?」
「無理……かな?」
「でしょ?」
前であーだこーだもめてるがそんなことは知らない
あーもうなんでもいいや、
変なおじさん方に買われたら自殺するか。
美女美少女だったら身も心も捧げることにしよう。
そんなことを考える余裕は今はある、
でも、でもさ、こんなの、こんなのは酷すぎるよ……
ドッキリってことを知っている人にはこの光景は罪悪感で押し潰されそうになること間違いなしだろう。
とてもよくしてくれていた女の子たちに利用されたかのように
売られる男の子、しかも、絶対な信頼を寄せていた女の子たちに、
その苦痛は想像を絶することだろう。
それにたいして泣き、苦しみ、狂気にさらされる男の子の光景だ。
耐えられるわけがない。
ましてや、男の子に免疫のないお嬢様二人
ほとんどの同世代の男の子たちは言い寄ってくるばかりで逆に少し怖いぐらいだったのに、目の前の男の娘はドッキリとはいえこんなにも苦しんでいる。
途端に小声になる二人
「……なんかもうヤバイんですけど」
「見ててこっちが悼まれなくなるよね……」
「ダメだよ?私だって苦しいんだから」
「言わないって。さすがに命令には背かないけど……さ」
「終わったら……全力で謝ろう」
「謝るだけじゃ私の気が晴れないんですけど」
「だよね……」
そんな落ち込んでいく二人だが一人がパッと晴れるような笑顔を見せる
「仕えさせてくれるように志願してみようか!」
「ちょっ、声でかいよ……」
「ご、ごめん……」
「でも、そうだよね……身も心も女王様に捧げてるけど心の少しぐらいは彼に捧げてもきっと許してくれるよね」
「そうよ……女王様も彼もきっと許してくれるよ」
「うん…………ボソっ(ちょっと彼好みだし)……」
「え?あんたも?」
「え?」
「「……」」
二人は決意を固くした。
芽生え始めた二つの恋心
それは目の前にいるライバルと始まった。
もちろんそんなことをエルムは知るよしもない
エルムにはそれどころではないのだが。
辺りが暗くなり、夜道を走るには危険となってきた。
あの家からだと近く見えたのだが実際は直線的には道はなく、迂回をしながらいくしかないのだ。なので、どうしても時間がかかってしまうらしい。
迂回すると、二つの町を通ることになる。
一つ目の町はそのまま素通りしたが、二つ目の町の近くで完全に日が落ちてしまっため、今は慎重に夜道を馬に歩かせていた。
月光が多少はあるぶん完全に真っ暗ではない。
しかし、この辺には魔物たちの戦略?により多数の魔物が存在する。
ほとんどが村人でも数人でかかれば倒せるほどの魔物だが、ほんの一握りのみ、強い魔物が発見されている。
「早く町見えないかな……」
「そうだね、今は魔物も見てないから……って早速かい!」
「ツッコンでんでないで先頭開始!」
「うん!」
暗闇では少しのミスで大ケガに繋がりかねない。
しかし、彼女たちは王女の護衛のエキスパートだ。
雑魚の魔物くらい一瞬で仕留めることが可能だし夜中でも戦えるようには訓練していた。
ので、今回の魔物は一瞬にして細切れとなった。
「ねえ……」
「……?どうしたの?」
「彼が格子から見てる……」
「……うわぁ!!」
「どうしたのかな?」
「さあ?」
「聞いてみようか……どうかしたの?えっと、エルムさん?」
「いや、変な物音がしたから気になって……」
未だ元気はないが、時間がたったお陰で多少は精神的にましになったようだ。
「変な物音?」
「それ、私たちが魔物を倒した音じゃないの?」
「魔物?大丈夫なんですか?怪我しとかしてないですか?」
彼の根の部分である優しさは自分がこんな状況なのにもかからず、他人に向けられる。しかも、自分を引き取りに来た人なのに。
その事に気づいた二人は芽生え始めた恋心は少しずつ延びていくのを感じた。
「いや、大丈夫ですよ、あれくらいなら」
「でも、一応、軽治癒」
ほんの少し疲労感を取ってくれる簡単な治癒魔術
でも、彼女らには新鮮なようで……
「おーー!!これが治癒魔術ってやつですね!!」
「でも、なんともない気がするんだけど?」
「ほんの少しの疲れを取ってくれる一番低い治癒魔術ですよ、疲れは溜めてはいけないですから……」
「あ、ありがとう」
「いえ、こんな魔術ためにしか生きてない俺を仕事の一環だとはいえ、安全に運んでくれるのは二人のお陰ですから……」
「……」
「あ、あの、」
「はい?」
「あなたのことを教えてくれませんか?」
「私にもお願いします」
「いいですけど……どうして?」
「いや、まあ、気になったので……」
「まあ、いいですけど……どこから話しましょうか……」
「最初っからでお願いします!」
「それだったら一旦、町までいきません?町の方が邪魔が出ないでしょうし」
「「はい!」」
町に付いたら話しますよみたいなことをいったら夜道なんか関係ないみたいな勢いで馬車を走らせ出した。
そんなに俺の過去が知りたいのかな?
知っても意味なんてないよ?
こんなクソみたいな人生は……
そして、町の明かりが見え始めたときに、突如俺が入れられている馬車の荷台に衝撃が襲った。
ゴォアアアアァァァ!!
暗くて見えにくいが、そいつは……緑色をした魔竜だった……




