第十八話 変異持ちたちの宴
「ゆっくりしていってください」
レイミアは軽く会釈すると奥へと戻っていく。
「兄さん、どうしたんですか?」
彼女を見送った後、
動けずにいた僕はその声に振り返る。
遙花とキリーンが廊下から顔を出していた。
薄汚れたエプロンを着て雑巾を持っている。
その表情は明るく元気そうだ。
「ナイジェルに話があっただけだ」
僕は誤魔化す。
「またフレアさんと一緒に何か調べてるんですか」
遙花は少し怒ったように言う。
「言っただろ。遙花はここで待機。それが仕事だ」
納得いかないという風に頬を膨らませながらも、
それ以上文句は言わなかった。
自分が邪魔になっているという自覚はあるのだ。
「仕事が終われば、遙花にも付き合うよ」
「絶対ですよ」
「もちろんだ」
それから遙花の近況を聞いて僕は教会を出る。
遙花は朗らかだった。
もうしばらくここにいてもいいだろう。
そう思った。
外の庭にはフレアと痩躯の男が待っていた。
「教会で繋ぎをつける予定だったが、
直接会えるとはな。
やあ、ラッカード、待っていたぞ」
「何の用だ、ケイマン」
男は先日関わりのあった独立派の幹部だった。
「あなたに個人的に頼みがあるんだ。
正確に言うと、あなたの護衛にだけどね」
「どういうことだ?」
「ドラゴンレイスが、
あなたの護衛に再挑戦したがっているんだ。
手間をかけるが受けてもらえないだろうか。
相応の礼はするつもりだよ」
僕は少し考える。
断るようなことではない。
罠を疑うような相手でもない。
僕はフレアに目をやった。
(どうする?)
フレアは頷いた。
(私は構いません。
彼相手ならよい訓練になるでしょう)
僕はケイマンに答えた。
「受けよう。どこでやる?」
ケイマンは目を丸くする。
「いいのかい?」
「断る理由がない」
その答えにケイマンは微笑む。
「ありがとう。彼も喜ぶだろう」
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
翌日――
僕とフレアは朝食をとると宿を出る。
集合場所は黄衣派領域内の広場だ。
時計台の前に着くと既にケイマンがいた。
「場所は都市の外に用意している」
合流すると都市の外へと向かう。
戦闘艦内部の大通りを歩いて、
廃材で造られた緩やかなスロープを下ると、
天井がなくなり、視界が広がる。
そこは宇宙と直接繋がるベルトの表面だ。
暗黒の空と輝くスターライトの下、
外壁と大通りに沿うように広がるバラック街の、
迷路のような路地を抜けて、
更に外周部へと向かう。
バラック街の外れに、
幾つかの小屋が、固まっているところがあった。
ケイマンはその中心へ歩いていく。
「ここは?」
「迷宮の出入り口だ」
よく見ると、
店構えはお世辞にも上等とは言えないが、
洗浄屋や休憩所、その他の店が軒を並べていた。
そしてその周りには、
明らかに人ではない姿をした者が集まっていた。
店員も同じく人ではないようだった。
ケイマンは微笑んで、言う。
「変異持ちの探索者は都市内の入り口を使えない。
だから都市の外に専用の拠点を持っているんだ」
入ってきた僕らに店員の一人が寄ってくる。
「スワルガ番外地にようこそ!」
陽気な声を上げたのは猫のような娘だ。
彼女は異形の姿をまるで隠さず、
毛皮で覆われた身体を給仕の服で着飾っていた。
ゆらゆらと揺れる尻尾には、
黄色のリボンが誇るように結ばれていた。
「トラウェイさん、その子が例の?」
猫娘はフレアを見てケイマンに尋ねる。
「ああ、そうだ」
「へー」
にゃーとでも言いそうな顔だ。
「竜人にガチで殴り勝った子とは思えないにゃー」
あ、言った。
猫娘はフレアに手を差し出す。
毛深いが、五本指のある人間の手だ。
「お食事処ネコ屋のミーアだよ」
「フレア・スティールマンです」
フレアは躊躇なくその手を取る。
握手しながら猫娘はごろごろと喉を鳴らす。
手を離した後、娘は僕をちらりと見る。
「こちらの方は?」
「彼女の雇い主、ラッカードだ」
「へー」
興味なさそうに、
にゃーと言いそうな顔をすると、
「こちらへどうぞ、にゃー」
にゃーと言った。
あざといな。そう感じた。
ミーアは中心に向かう。
歩く間にも多くの変異持ちが、
僕らの姿に歓声を上げる。
正確にはフレアの姿に、だろうか。
二足歩行の熊としか言えない何かが、
途中から傍を一緒に歩き始めた。
「あんたがドラゴンレイスを破った女の子かい?
あいつが負けたと聞いた時もびっくりしたけど、
こんなかわいい子だとは、二度びっくりだぜ!」
聞き取りにくい、くぐもった声だった。
「どんな風だと思っていたんですか」
フレアが尋ねる。
「そりゃ身長三メートルはある鬼婆みてえなよぉ」
熊のような男はひゃひゃひゃと笑い、
その尻を猫娘が蹴り飛ばす。
そうこうしている間に居並ぶ小屋の中心に着く。
そこには大きな広場があった。
広場の周囲には獣の皮のカーペットが敷かれ、
そこには朝っぱらから、
観劇の準備を整えた多くの人間が座っている。
その全てが変異持ちだった。
竜人ドラゴンレイスはその中心に立っていた。
「お客さんの到着だ、にゃー」
猫娘が声を上げる。
広場の視線が一斉に集中する。
猫娘が手で広場の中心へ向かうよう促す。
「どうぞどうぞ、にゃー」
(どういうことでしょうか)
フレアが僕を見る。
僕はケイマンを睨みつける。
「これは、どういうことだ?
僕が受けたのは、
あくまでドラゴンレイスとの再戦であって、
それを見世物にする気はないぞ」
ケイマンが少し困ったように周囲を見渡す。
「あなたたちの噂が広まって以来、
一度見てみたい、という者がいて、
少しならいいと思ったんだが、
それにしても、こんなに集まるとは……」
そして決意したように言う。
「これは私の失敗だな。日を改めて……」
「私は構いませんよ」
フレアは外套を僕に預けると、
四肢を鉄製防具で固めた姿を晒した。
(いいのか)
「見られて、困ることもありません」
「済まないな」
ケイマンは安心したように息を吐く。
フレアは広場の中心へと歩を進める。
やってきたフレアの姿を見ると、
竜人は黒板を取り出した。
大きな爪で不器用に筆を取るとさらさらと書く。
[ようこそ かんげいします]
蛇ののたくるような文字だった。
竜人は唸り声を上げて、ぺこりと頭を下げる。
「いえ、こちらこそ、
お呼びいただきありがとうございます」
フレアは返す。
「どういうことだ」
広場の隅で僕はケイマンに尋ねる。
ケイマンは答える。
「彼の声帯は人語を話せる構造になってないんだ。
意思疎通が必要な時にはあの黒板を使うんだよ」
竜人はボロ布を使って、
文字を消すと書き足す。
[あなたに まけてから とっくんしました]
[もういちど てあわせを おねがいします]
そして竜人は頭を下げる。
ケイマンは笑った。
「あいつ、本当に悔しかったみたいでね。
今までずっと、
力任せの速さ任せで戦ってきたからね、
それで勝てない相手なんて、
生まれて初めてなのさ」
「子供っぽい奴だな」
「それはそうだよ。
あのなりだけどまだ十五歳だからね」
僕は竜人の姿を見直す。
二メートルを越える巨体。
戦傷だらけの身体は歴戦の戦士のものだ。
たった十五年で彼はここに至ったのだ。
だが当たり前の話だ。
変異持ちの人生に平穏などない。
戦い続け勝ち続けていなければ、
十五歳まで生き残ることもできなかっただろう。
そして戦いの準備は整った。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
二人は三メートルの間合いをとって構えている。
フレアの構えは、
両腕を胸の前で小さく折り畳み、
股を大きく開き、べた足で、
腰を落とした防御偏重の構えだ。
対する竜人は、
前傾気味の爪先立ちで、
両の腕を自然な位置で構えた、
胴体はがら空きの攻撃的な姿勢だ。
「皆さんお待たせしました!
竜人ドラゴンレイス対フレア・スティールマン!
試合開始! にゃー!」
歓声が湧き上がる。
その中で最初に飛び出したのは竜人だった。
低い姿勢で矢のように飛び込んでいく。
そして最初の一撃。
低空から槍のような右手刀が突き上がる。
下半身のばねを利用した神速の突きだ。
だがフレアは滑るように僅かに身を引くことで、
重心を崩さぬまま回避していた。
完全に見えていたのだ。
だが竜人はそれも予測していたのだろう。
手刀は振り切られず、
強引にひねり込まれて直突きに変化する。
だが体重の乗り切らない拳は、
フレアに簡単に叩き落される。
だが竜人の動きは止まらない。
下半身が地を掴み上体を回転させる。
左の拳がフック気味に打ち込まれる。
フレアはそれを受け流す。
だが竜人はそれさえ予測して、
力の向きを変えていた。
受けたフレアの左腕に、
そのまま全身を預けるようにして体重をかける。
強烈な圧力をフレアは流しきれない。
フレアの身体が浮く。
だが、そこまでだった。
竜人に追撃の余裕はなく、
大きく跳んでふわりと着地したフレアは、
その場で再び構え直した。
開始直後からの熱戦に広場が歓声で満ちる。
だが戦いは始まったばかりだ。
竜人は迷いなく飛び込んでいく。
彼が選んだのは、
手数と技の種類を増やした上での、
フェイントを交えての突破力の強化だった。
竜人の連撃はどこまでも続いていく。
それはフレアがどう防御するかを想定し、
攻撃位置を散らしタイミングをずらして、
その盲点をつこうとする、
高度な読み合いだった。
だが付け焼刃でもある。
単純な上下の揺さぶりや、
タイミングをいじる程度では、
フレアの防御は突破できない。
逆に無理な連携は隙に繋がる。
フレアは力のこもった一撃をすかし、
反撃のチャンスをつくる。
だが追撃はせず、
フレアはそこで大きく距離をとった。
手加減をされたことに気付いたのか、
竜人は動きを止めた。
訝しげにフレアを睨む。
フレアは微笑んだ。
「そろそろ満足したでしょう。
あなたの攻撃では、
私の防御は突破できません。
今度は私から行かせてください」
フレアはそこで構えを解いた。
竜人の構えに似た自然体だった。
竜人は僅かにためらい、
それから腰を落として防御を固めた。
同時にフレアが飛び込む。
そのまま全力の拳を叩きつける。
防御を捨てた攻撃だ。
それを竜人は受けて、流して、弾く。
相手の体力、判断力が十分であれば、
フレアの連携などまだまだ通用しない。
そして攻撃の切れ目に、
竜人は素早い動きでフレアの足を払う。
フレアの体勢が大きく崩れる。
明らかな隙だ。
だが竜人は追撃をかけなかった。
ただ腕を組み、誇らしげに胸を張って、
ごろごろしゃーと楽しそうに喉を鳴らした。
「私も、まだまだですね」
竜人は、おいでおいでと、
指をひらひらとさせ挑発する。
フレアは竜人を睨み返す。
「その余裕、後悔させてあげましょう」
攻防がめまぐるしく入れ替わる乱戦が続き、
終わった頃には、竜人は肩で息をしていた。
やはり体力ではロボットには敵わない。
竜人がバテ始めたところで、
変異持ちが何人か飛び入りで参加してきた。
うずうずしてきたらしい。
乱入者は広場は大混乱に陥れたが、
竜人とフレアに返り討ちにされて、
次々その場に倒れていった。
だが混乱が収まった頃には、
二人はもう戦意を失っていた。
こうして二人の二度目の戦いは、
うやむやの内に中断された。
どうにも締まらない終わり方だ。
だが両者ともそれなりに満足そうな顔だった。
◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇
戦いが終わった後は宴会だった。
フレアは変異持ちの戦士たちに、
囲まれているようだった。
アイドルのような扱いだった。
それを僕は広場の隅で、
毛皮のカーペットに座り込み、
安そうな酒を飲みながら眺めていた。
「随分な人気だな」
僕の相手をしてくれているのは、
最初に会った猫娘のミーアだ。
隣に座って安酒をあおっている。
「ディーくんに対抗できる戦士なんて、
ここ何年か一人もいなかったし。
それがあれだけかわいいんじゃ、
ちやほやもしたくなるのも分かるわ」
何だかやさぐれた様子で、
ミーアは浴びるように酒を飲んでいる。
「語尾に、にゃーは使わないのか」
「あれは商売用よ。
しらふで言える訳ないじゃないの」
やはりそうか。
「夢は壊れたがそんな気はしていたよ」
ミーアはその後も、
まずそうに酒を飲んでいたがふと呟いた。
「ねえ、なんであんた、あの子使ってるの?
貴族の犬なんでしょ。そんなんでいいの?」
僕は微妙な答えを迫られることになった。
変異持ちを使うことの是非。
それは即答の難しい問題だ。
「成り行きだ。
あいつは、僕が貴族に飼われる前、
山師をやっていた頃からの付き合いなんだ。
それにうちの雇い主は、
優秀であれば、出自なんぞ気にしないのさ」
おおよそのところを言う。
実際のところ、貴族にとっては、
ベルト民も変異持ちも同じく下等な存在だ。
気にしなくてはならないのは、
取引先のベルト民たちの感情ぐらいだった。
僕の答えにミーアはふんと鼻で笑った。
「あの強さなら使い道は幾らでもあるわね」
うがった見方である。
使い捨ての道具のように扱っている。
まるでそう言っているようだった。
「言っておくが無茶なことはしていないぞ」
僕は答える。
「トラウェイさんから聞いているわ、
あんたがふざけた命知らずだってことは。
あの子も同じように命を賭けてるのよね」
「確かに僕と同じ程度にはね」
ミーアは僅かな間黙る。
「あの子は、あんたのこと、
どう思ってるんだろうね」
「ただの雇い主だよ」
ミーアがじろりと僕を睨む。
「そんなことで、
女が命を賭けられると思ってるの。
山師だった頃に出会ったんだったね、
ちょっとその辺り聞かせてみなさい」
僕は例の作り話を簡単に聞かせる。
ラブロマンスの花開く展開である。
聞き終えたミーアは静かに告げた。
「それ、絶対にあんたに惚れてるから。
間違いないわ。誘ったら即落ちるわね」
「やっぱりそう見えるか」
僕は苦笑する。
「まだ手出してないの?」
「出していない。妹のようなものだからな」
「向こうはそう考えてないと思うけどね」
ミーアは笑い、そして俯き、呟いた。
「でも手を出すなら、覚悟がいるわよ。
変異持ちの子供は必ず変異持ちになる。
最悪ただの化け物が生まれることもある。
あの子も見た目はすごく人間っぽいけど、
あれだけの力があるってことは、
身体の中はもうまともな状態じゃないわ。
子供は確実に変異持ち。
いえ、正直に言うわ。
あのクラスの変異持ちなら、
確実に変異持ちですらない、
人間以外の怪物になってしまうでしょうね。
やるなら、その辺り気にしてあげてね。
人並みに子供が産めないのって、
女には結構辛いものだから」
「……そうだな」
僕は答える言葉を持たなかった。
それはミーア自身も含む、
変異持ち全員に共通する呪縛だからだ。
変異持ちを生む家系が忌まれる理由の一つは、
この性質にあった。
その血が広まれば、
集落全体が滅ぶかもしれないのだ。
変異持ちを産む可能性のある血統は、
村内での婚姻を認められず、
多くの場合は追放された。
変異持ちには、
子孫を残すという当たり前のことが、
呪わしい罰となる。
彼らは生まれ落ちたが最後、
孤独な死を運命づけられた存在なのだ。
だからこそ、
こうして集うのだろう。
こうして騒ぐのだろう。
刹那の時を晴れやかに過ごすために。
「でも、あの子も幸せよ。
あんたは変異持ちを全く怖がっていない。
そんな人ってなかなかいないわ」
そしてミーアは眉をひそめた。
「ねえ、あんたは人間なのよね?」
「さあね」
僕もそれは知らない。
「ふうん」
ミーアは追求しない。
そして酒を浴びるように飲む。
そしてしばらくした頃――
暴れていた一部の戦士たちとフレアが、
僕らの前にやってくる。
「おい、兄ちゃん!」
酔っ払った毛むくじゃらの男たちが叫ぶ。
「あんたなんだってな、
あの嬢ちゃんに武術を仕込んだの。
いっちょご指導くだされい!」
「どうやったら、
あんなに強くなれるんでしょうかな!」
黒板を持った竜人が続く。
そこには酔い潰れた文字が書かれた。
[ほくも しいたい]
最後にフレアが付いてきて僕を見る。
「この方たちが私たちの稽古を見たい、
と言うのですが、いいでしょうか?」
僕は立ち上がると、
身体を少し動かしてみる。
アルコールのせいで、
ベストコンディションとは言いかねるが、
演武くらいはできるだろう。
そして僕らは広場で始めた。
「私はいつも彼と訓練しています」
そしてルールを説明する。
筋力を人間並みに制限すること、
極め技は寸止めにすること等々である。
そして実演をした。
「ほう、ほう、ほう。
ゆっくり力を入れずに動くことで、
どう動くか、考える時間を確保しているのか」
いつも通りにできた気はしないが、
それなりに参考になったようだ。
[さすが ふれあです]
実演が終わると、竜人が出てくる。
そして黒板に書き消しを繰り返す。
[すわるがの どうほうを だいひょうして]
[ふれあに ふたつなを おくらせてください]
そして期待に満ちた視線でフレアを見る。
「二つ名ですか?」
竜人は頷く。
[りゅうじんと おなじものです]
[つよいものを たたえるための なまえです]
フレアは僕を見る。
(どういうことでしょうか)
僕は少し考える。
そして、ちょっと離れたところで、
どぶろくを飲み比べているケイマンに尋ねた。
「ケイマン!
二つ名というのはどういうものなんだ?」
ケイマンはこちらを見る。
だが答えたのはミーアだった。
「二つ名は名誉の証だよ。
私たちは確かに人間以下のものだけど、
それでも、その中にも英雄がいる。
私たちはそのことを誇ることで、
強く生きていける。
二つ名はそんな私たちの誇りとなる者に、
与えられるんだ。
あんたは私たちが誇るに値する存在だよ」
それを聞いたフレアは静かに言う。
「重い役割ですね」
「あんたが気負う必要はないよ。
これの意味は逆なのさ。
私たちの英雄が人間の中で困っていたら、
私たちが後ろから支えようって、
そういうことなんだ。
あんたはこのスワルガの会衆が選んだ英雄だ。
困ったことがあれば、
少なくともスワルガと親交のある修道会なら、
助けになってくれるはずさ」
そしてミーアは静かに言う。
「ただ、これはお願いだけど、
もし変異持ちに助けを求められて、
対応する余裕があるのなら、
可能な範囲で援助してやってほしい。
二つ名には、いざという時に助けを求めて、
それを引き受けられるだけの力がある者、
そういう証明の意味もあるんだよ」
フレアは僅かに逡巡した。
僕は言う。
(フレア、断れ。
これは名誉でも何でもない。
呼び名を与えるだけの手間で、
お前をうまく使おうとしているだけだ)
(そうなのかもしれませんね)
フレアは微笑む。
そして竜人に向き直り告げる。
「分かりました。
その二つ名を聞かせてください」
(フレア! 何を考えている?)
竜人は書いた。
[すばらしいぼうぎょを たたえて]
[てっぺき と]
周囲の戦士たちが口々に言う。
鉄壁!
鉄壁のフレア・スティールマン!
それは祝福の声だった。
フレアは静かに微笑み続ける。
「ありがとうございます。
その名を名乗らせていただきます」
歓声が響いた。
それから宴会は続き、
スターライトの暮れる頃になりやっと終わった。
「じゃあまた、にゃー」
ミーアにもう一度、にゃーと言わせたのは、
僕のリクエストだった。
恥ずかしげな表情が印象的だった。
帰り道、ケイマンは言った。
「変異持ちの戦士の中で、
二つ名がある者は、かなり希少な存在だよ。
今後、変異持ちの拠点ならどこに行っても、
歓待されることになるだろうね」
その点については、
色々言いたいことはあった。
だがケイマンに言うことではない。
それに彼に尋ねたいことは他にあった。
「一つ聞きたいんだが、
あの変異持ちの集落は、
独立派の拠点の一つなのか?」
「どういうことだい?」
ケイマンは静かに僕を見つめた。
「今日会った奴らは、
随分とあんたに対して友好的だったな、
そう思っただけだ」
「一応、別物だね。
確かに人道上の援助をしているし、
人材を借りることも多々あるけどね」
「それなら、いいんだがな」
僕らは広場でケイマンと別れた。
そしてフレアと二人、宿へと歩く。
僕は歩みを止めず尋ねた。
(フレア、なぜ二つ名を受け入れた?
奴らに同情したのか?)
背後の足音が消える。
振り返るとフレアは僕を見ていた。
(私は変異持ちです。
偽りの身分として選んだものですが、
その状態で利益を得ているのは確かです。
ならばその不都合も受け入れるべきでしょう)
(意味が分からない)
僕は吐き捨てた。
(変異持ちがどんな助けを求めて来たとしても、
僕は協力しないぞ)
(問題ありません。
これは私が選んだことです)
苛立ちを隠さず僕は歩く。
フレアはそれ以上何も言わなかった。




