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EP3 ミヌイ・マーニュリンという人物

お待たせいたしました。


「英雄は勇者と決別し、世界の敵となるのか?」第2章の第3話をお届けします。

結局、牢屋から出ることができなかったヒューズたちですが、今後はどのような運命をたどるのでしょうか。


ぜひ、お楽しみください。

【EP3 ミヌイ・マーニュリンという人物】


ヒューズやハナは今ではグッスリと眠っている。ヒューズは神経が図太いのだろうが、ハナは疲労が蓄積していたのだろう。

「……まったく、これからどうしようかな」

眠れないわけではなく、ただ夜中に目が覚めてしまったフィアナは鉄格子の外を眺めながらそうつぶやく。他の牢屋には誰もいないので、おそらく治安がいい国なのだろうと推測できた。

「ミヌイさんって人と会えないと、次の一手が打てない。手紙の内容はわからないけど、おそらく重要な内容だとハナちゃんは語ってたしね」

手紙を受け取った後、ヒューズはその中身を見てみようと提案したが、ハナはそんなことをしたら死んでしまうという剣と魔法の世界でも非現実的なことを言い出したのだ。

なんでもハナが言うには、秘密の手紙を見てしまうとなぜかそれがバレてしまい殺されるのだそうである。

フィアナは変な冗談だと思ったが、ヒューズは刺客がやってくるならとやる気満々だった。面倒なことは避けたいので、手紙を見ずに本人へ渡すことに決定した。

「とにかく、そのフラフラのシスターさんが来てくれることを祈るしか……ん?」

フィアナの目に人影が入ってきた。見張りの交代かと思ったが、交代はさっき行ったばかりだし、そもそも交代した人物は椅子に座りいきなり居眠りをしだしたのだが。

「誰? 何か用なの?」

本人は完璧に隠れていたつもりだったのだろう、声をかけられるとその人影は素直に前に出てきた。

姿を現したのは背の小さなかわいいシスターで、メガネをかけていた。

「あっ……!」

意外な人物にフィアナは大声を上げそうになったが、それを抑えた。だが頭は混乱している。

まさか、こんなところで昼間に助けようとしたシスターに出会えるとは。


「えーと、ミヌイさんのお客さんってあなたたちですか?」

見た目の割に偉そうな言い方だなと、フィアナは彼女から「かわいい」という形容詞を抜くことにした。

「ねえ、あなたってさあ……」

とフィアナは話しかけると、

「はい、昼間に助けてもらいました。ですが、事情があって魔法騎士団に外にいることを知られたくなかったので逃げさせていただきました。そうしたら、どうやら大事になってしまったようで謝りに来た次第です」

話し方が堅苦しい。同じ敬語を使っているハナでも、ここまでではない。

「今夜は不便をかけますが、明日にはミヌイさんを連れてきます。安心してください」

女の子のシスターは一方的に言うだけ言って、去っていってしまった。

何も言えずに彼女を見送るフィアナ。なぜこの時間にシスターがこんなところまで出歩いてくるのだろうかと思ったが、教会の外にいることを知られたくないという話と関係があるかもしれない。

まあ、答えは出なさそうである。

「明日ねえ……。期待せずに待ってみますか」

静かにつぶやき、フィアナは再び眠りにつく。



次の日、事態は急転した。

「おい、出ていいそうだ。お前たちに会ってもらえることになったぞ」

見張りの騎士団員がそう言いながら牢屋の鍵を開ける。急な展開に3人とも頭に「?」マークを付けていると、人がゾロゾロやってきた。

「ごめんなさい、冒険者の方々。こちらの連絡ミスでこのような事態になってしまったこと、心よりお詫びいたします」

現れたのは複数のシスターたちであり、その中心にいた女性が謝罪した。

「私はミヌイ・マーニュリンといいます。なんでもあなた方は私を探しているとのことですが……」

自己紹介をしてくるミヌイの佇まいはとても上品で、騎士団の男なんか間違いなく見とれている。

「あなたがミヌイさんね。確かにあたしたちはあなたに会いたいと思ってここに来たの」

ここはフィアナが代表となって話を進める。他の2人はそれに反対する理由などない。

「でもここで話すには少々よくない話だし、場所を変えてもらえると助かるんだけど……」

「わかりました。では、応接室を使いましょう。一緒に来てください」

シスターたちの後ろをヒューズたちはついていく。



「本当にごめんなさい、事情は把握させていただきました。なんでもシスターを助けていただいたのにあのような目に遭われていたとか……」

廊下を移動中、不意にミヌイは謝る。ヒューズたちが自己紹介を済ませた後もミヌイは謝罪を繰り返している。本人としてはかなりの失態なのだろうとフィアナは思った。

「もう、謝罪なんて必要ないわよ。あたしたちだってそれなりに馴染んでいたし……」

「あの、私は犯人を追い詰めるところまで行ってましたよ……」

牢屋に泊まることが決まって精神崩壊したハナは、どうやら事件を解決寸前まで頭の中で進ませていたようだ。彼女のことだから、壮大なサスペンスになっていることだろう。

「すべて私が悪いんです。買い物で不足している物があって困っている時にこちらの方がやってきて、手伝うと言ってくれたものだから、つい」

と、昨夜フィアナが出会ったメガネのシスターがペコリと頭を下げる。

ミヌイは続けた。

「彼女はマウ・ザベルケといいます。ここ第一教会のシスターをしております」

ミヌイに紹介されたマウの姿を見てハナは笑顔になり、

「こんなに小さな子でも神様への奉仕をするなんて、すごいですね」

と言う。すると、マウのメガネがキラリと光ったように見えたかと思うと、

「あの、これでも私は16歳なんですが」

と言ってくる。その言葉にハナは固まった。

「私、まだ14歳……」

思わぬ年上の出現に、ハナは何も言えなくなってしまう。

「でしたら、今から10歳ぐらいの設定で話をやり直しますか?」

会話が続かないことに不安を覚えたマウはそのような提案をするが、問題はそこではないことには気づいていない。

そんなやり取りを見ていたフィアナは、

「言葉選びが下手な人って、どこにでもいるものね……」

このようにつぶやくと、ブレンのことを思い出す。その後、どちらがとんでもないことを言うだろうなどと考えもしたが、あまり見たくないとの結論に達した。

「さあ、こちらへどうぞ」

ミヌイが案内した先では大きな扉が開かれていた。中を見ると装飾品などに彩られた絢爛という言葉が似合う部屋である。

「シスターさんってこんなに煌びやかなものが好きとは思ってもいなかったぜ」

牢屋で寝るのに疲れていたのかまったく話さなかったヒューズも、この部屋の造りには驚きを隠せない。

「決して教会すべてがこのような造りになっているわけではありません。国の偉い方が入ることもあるので応接室だけはこのような装飾で飾っているのです」

ミヌイはそう言うと、3人に座るように勧める。


着席すると人数分のお茶が用意される。その香りは芳醇でおそらく高価なものなのだろうとフィアナだけは推測できた。

「それで、お話というのはなんでしょうか?」

お茶にひと口つけてから、ミヌイは話を始める。

フィアナは1つの封筒をテーブルに置き、ミヌイの方へと動かす。

「あたしたちは旅の途中で1人の神父の方と会ったんだけど、その人をあたしたちでは助けることはできなかったのよ。代わりにこの封筒をミヌイさん、あなたに届けるように言われたの」

封筒を手にするミヌイ。彼女はさっそくその裏表を見てみるが、何も書かれていない。

「いったい誰なんでしょう? それに神父様が亡くなったという話は聞いたことないのですが」

そう言って封筒から手紙を取り出し、目で追い始めた。

「これで突発クエストもクリアですね。やっと観光に行けます」

嬉しそうな表情をするハナ。よほどこの国の観光をしたかったのか、牢屋から解放されたかったのか、フィアナには判断がつかない。

ミヌイはすべてを読み終わったのか手紙を丁寧にたたみ直し、そして目を閉じて深呼吸をする。

「これはどういう意味なのでしょうか?」

と予想外の感想をミヌイは述べる。

「えっ、どういうこと?」

そう言ってフィアナは手紙を受け取ると、すぐに中身を読んだ。


「今度の休みの日の夕方、『黒い子の籠亭』にて君に会えはしないだろうか。どうしても君に伝えたいことがある。この話は君にとって重いものかもしれないし、立場上、難しい判断を強いるかもしれない。それでも私は君に伝えなければならないのだ。どうか来てほしい。  エムレー・マス」


とある。

「……えっ、ラブレター?」

読み終わったフィアナは、自分がなぜここにいるのかすらわからなくなってきた。



ウィルディは革命軍のアジトで調べ物をしている。前任者のエムレーがいなくなったとはいえ、集めた情報をある程度まとめた資料は残していたらしく、彼女はそれを精査していたのだ。

「うーん、いったいどう考えればいいものか……」

資料を読み進めながらウィルディは1つの疑問に突き当たっていた。

「なんで、彼の資料にはミヌイさんの記述が多いのでしょうか。確かに教会の上層部から逸材と言われる人物ですし、シスターたちからの人望も厚いです。でも、彼女との付き合いは長いですが、何か調べなければならないような秘密を抱えている人とは思えませんけどねぇ」

椅子の背もたれに全体重を預けて、腕組みをしながらウィルディは考え込む。

ミヌイとの付き合いはかれこれ3年ほどだろうか。自分が魔法騎士団の団員としてこの国の歪みを感じずに過ごしていたころ、交渉役として現れたのが最初だった。

年齢が近かったこともあり意気投合し、友人として過ごしていたが、ウィルディにはどうしても看過できないこの国の歪みを正したいという思いが膨らみ、1年ほど前に旅に出ると偽って魔法騎士団を辞め、革命軍に所属したのである。

1年という期間で彼女に変化があった可能性は捨てきれないが、昨日再会した感じではそうは思わなかった。

「……あぁぁぁぁぁ!」

昨日といえばミヌイにブレンとの関係を変に勘繰られ、まだ誤解されたままだったことを思い出し、ウィルディは大声を出してしまう。

「彼女、想像力が豊かというか妄想が激しいんですよねぇ……」

エムレーが調べていた情報も重要だが、ミヌイの件も優先事項だとウィルディは感じた。



「えーと、ラブレター……ですか?」

ミヌイはよくわからないという表情でフィアナに尋ねる。

「ごめん、あたしにはそのようにしか読めない代物だわ……」

遠くまで来たこと、人助けをしたのに牢屋に入れられたこと、そして重要な手紙かと思っていたらラブレターだったこと、その全部がフィアナにのしかかり、彼女は潰されそうになっている。今までにない疲れっぷりだ。

「よくわかりませんが、ラブレターなんて素敵ですね!」

何か琴線に触れる要素があったのだろう、ハナの目はキラキラと輝いている。しかし、それに水を差すようにヒューズは言葉を口にした。

「なあ、神父とシスターの恋愛ってご法度じゃなかったっけ?」

「はい、その通りです。よくご存じですね」

ヒューズの言葉にうなずくミヌイ。もともとシスターには共通の父という「神」に加え、神父という教会などのコミュニティ上の父がいるということになっている。父親と娘が恋愛関係になること自体を神星教団は禁忌としているのだ。

「それに私、男女の恋愛というものにまったく興味がなくて……」

目を閉じ、静かな言葉でミヌイは話を続ける。

「……やっぱり男(・)同(・)士(・)の(・)く(・)ん(・)ず(・)ほ(・)ぐ(・)れ(・)つ(・)がいいですよね」

ミヌイが満面の笑みで紡いだその言葉の意味をこの場にいる誰も理解できなかった。

ただ1人を除いて。


「ちょっと待ってください! 男女の恋愛物語こそがいいに決まっています!」

他の者たちはミヌイの言葉の意味も、ハナがかみつく理由もわからず、置いてけぼりだ。

「ハナさん、あなたはまだお若いからそういうものがいいと思っているだけです。人生経験を積み、いろいろな見識を広めることで、男同士のカプが素敵だとわかるようになるものなんですよ」

「人をそっちの世界に引きずり込もうとしないでください! 私は絶対にBL沼にはハマりませんから!」

ミヌイとハナ、2人による謎の単語の応酬は留まることを知らない。

「BL沼が嫌だとおっしゃるなら、もしかしてハナさんは百合派?」

「どうしてそっちに持ち込もうとするんですか! 私はいたってノーマルです!」

「ハナさんも経験すればわかりますよ。バスケットの相棒同士がある時から一線を越えて……。ああ、即(・)売(・)会(・)であの物語を読んだ時の感動は今でも忘れはしません」

「……それ、絶対に公式じゃなくて薄(・)い(・)本(・)ですよね!」

どこかに意識が飛んでいるミヌイに、ハナは容赦のない一撃を放った。

「……ミヌイさん、絶対に転移者ですよね?」

この言葉が出ると、ミヌイはこの場にいるシスターたちに箝口令を出して部屋を出させるのであった。


複数人いたシスターたちは一斉にいなくなり、部屋にはミヌイの他、ヒューズ、フィアナ、そして口論で疲れて肩で息をしているハナだけになった。

「ハナさん、どうしてあなたは私が転移者だと気づいたのですか?」

さっきまでの恍惚とした表情はどこへやら、普段の顔に戻って話を進める。

「……それは、専門用語が次々と出てくるからですよ」

なぜそれで気づかれないと思っていたのかと考えながら、ハナは返答する。すると、ミヌイはガックリと肩を落とした。

「ねえ、教会であなたが転移者だって知ってる人っていないの?」

次に尋ねたのはフィアナだ。ミヌイは頭だけ上げてこう答える。

「今までそれをひた隠しにしてきましたから。転移者だとバレるといろいろと面倒なことも多くて……」

ミヌイのその言葉にハナは大きく首を縦に振る。この話の様子だと、彼女も転移者狩りに遭遇したことがあるのかもしれない。

「でも、転移者という割に金髪碧眼で肌も真っ白だし、ハナちゃんと同じ転移者とは思えないわ」

「フィアナさんの疑問もごもっともです。なぜかこの世界では東洋人が転移者の典型となっておりますが、私はハナさんと同じ世界のフランスという国の出身なのです。もともと人種も違いますから、気づかなくて当たり前ですよ」

フィアナはその事実を聞き「へえ」ぐらいにしかリアクションができず、逆にヒューズは「世の中にはいろいろいるってことだな」と話を理解した。

「まあ、あれだけ専門用語を出されたら、わかる人が聞いたらすぐにバレますよ」

「そうなんですか? 私は特定のカプ厨というわけじゃないですし、話がよければどちらが受けでもOKと考えていますので、わかりにくいと思うのですが……」

「いや、そういうことじゃなくてですね……」

ハナがここまで頭を抱えるのはバトルジャンキーを暴走させているヒューズぐらいだ。もっとも、暴走しているという点ではミヌイも同じかもとハナは思うのであった。

「とにかく転移者だとバレたのであれば弁明はしません。ただ、ここで会ったのも神様のお導きですし、冒険者のあなた方に依頼をしたいことができました」

突然の依頼にさすがのフィアナも驚く。事情聴取で余計な説明をせずに冒険者だとしたのは正解だったのかもしれない。

「私、今度の休みの日に『黒い子の籠亭』に行きたいのですが、同行していただけませんか? 手紙の主は亡くなったとはいえ、その神父様が何を伝えたかったのか知りたいのです」

ミヌイは冗談ではなく本気のようだ。誰もいないかもしれない待ち合わせ場所、そこへ行きたいと思う彼女の考えをフィアナはまったくわからない。

お読みいただきありがとうございます。


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投稿は毎週水・土の22時になります。遅い時間の更新になってしまいますが、よろしくお願いします。


次回の投稿は11月4日(水)です。

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