EP2 思わぬ再会の2人
「英雄は勇者と決別し、世界の敵となるのか?」の第2章の第2話をお届けします。
前回、到着早々に牢屋にぶち込まれたヒューズたちですが、どのような活躍をするのか楽しみにしてください。
【EP2 思わぬ再会の2人】
「うーん、参ったなぁ」
腕組みしながらブレンはつぶやきつつ歩く。ブレンが困っているのはヒューズたちの行方を捜す手段がなくなってしまったからだ。
彼は冒険者ギルドの上層部と組み、冒険者の情報網を駆使してヒューズたちの行方を追っていた。しかし、現時点での情報では消息不明となり、どこにいるかはわからない。ブレンの直感では周辺諸国での目撃情報があるので、ここテーリアが怪しいと睨んではいるのだが、この土地の冒険者ギルドは他の冒険者ギルドと違って神星教団が実権を握っている。
そのため、わざわざ協力のお願いに行ったのだが、結果は散々であった。
「この国にいるとは思うんだけど、一体どこにいるんだろ」
ブレンも色々な場所を考えて行ってみたが、どこもハズレだったのだ。もっとも、ブレンが名探偵だとしても3人が牢屋の中にいるとは思いもしないだろう。
「一度、宿屋に戻ってこっちの用事も終わらせる方法を考えないと……んっ?」
何気なく見た前方に見知った顔がいるのを発見するブレン。
前方には亜麻色の髪をした女性のシスターともう1人、綺麗な金髪の女性で冒険者っぽい恰好をしている。
「あれって革命軍の……」
名前は聞いてないが、金髪の女性の方はキュアシエラで自分に敵対していた転移者をわざわざ助けた革命軍の変わり者で間違いない。
「うふふふふ、ウィルディさんが戻ってくださってこちらとしては大助かりです。最近の若い子はどうも規律を遵守するという意識が低くてね」
「20歳の女性が言う若い子って何歳を相手にしてるんですか。それに私は顔を見せに寄っただけで、教会に復帰するなんて言ってないんですけど……。話を聞いてましたか、ミヌイさん」
シスターが話を聞いてくれず、困惑しているウィルディ。
「へえ、君ってウィルディっていうのか……」
そんな困惑など気にもせず、ブレンは急に話に割り込んでくる。普通なら女性2人の会話に男がいきなり混ざるのは変な男認定されるのだが、ブレンはそんなこと1ミリも考えていない。
「えっ、誰ですか? って、ブレンさん!?」
ウィルディは変な男が声をかけてきたのだろうぐらいの認識で声の主を見ると、そこにいたのは勇者ブレン・ネゲブだった。
「……よりにもよってこんなタイミングで、しかも彼になんて」
誰にも聞かれないようにウィルディはつぶやく。ブレンはキュアシエラでの騒動にて自分のことを色々と知られてしまった人物だ。革命軍に所属し、元々テーリアの魔法騎士団に所属しており、神星教団の神秘と言われる回復魔法を使うことができる。キュアシエラの土地で協力してもらったヒューズたちよりも個人情報を知られている相手だ。
「えーと、どちら様ですか? ウィルディさんの知り合い?」
先ほどミヌイと呼ばれた女性は、何事かと言わんばかりにブレンの顔をマジマジと見てくる。彼女もなかなかの美人だが、ふんわりとした亜麻色の髪をした美人となるとブレンはどうも嫌な記憶が思い出され直視できないでいた。
「えーとですね、彼はブレン・ネゲブさん。聞いたことあると思いますが、先日、魔王を討伐した勇者本人です。剣を7本所持してる姿を見ると不審者に見えますが、勇者なのは間違いありません」
不審者とか余計な情報を込みで、ウィルディはブレンを紹介する。
「へえ、勇者様なんですね。私、本人に会うのは生まれて初めてでして。見た目は私たちとは変わらないのですね」
かなり驚かれるとウィルディは考えていたが、そこまでの驚きはなかったらしい。むしろ、勇者にどのようなイメージを持っていたのかウィルディは気になってしまう。
「僕も神星教団のシスターに会うのは初めてだけど、お互い同じ生き物らしいね」
ブレンもブレンでミヌイと負けず劣らずおかしな発言をしてくる。この2人、もしかして同じ波長なのではと思うウィルディであった。
「で、ウィルディはここで何してるの?」
よりにもよって、ここで最もしてほしくない質問をピンポイントでしてくるブレン。ウィルディは慌ててブレンにチョークスリーパーを極めてくる。
「えーと、苦しんだけど……。僕、なんでこんな目に遭ってるの?」
言葉の割にブレンは余裕そうだ。しかしウィルディは必死に、とても必死にここからブレンがいなくなってほしいと願っている。神はないものかと恨んでいたその時、
「勇者様と仲がいいだなんて羨ましいですね。私は第三教会の方に用事があるので、後は若い者同士でごゆっくりと」
ミヌイはそう言って、この場を退散してしまう。ウィルディは彼女が何を思ってこの場を離れたのか想像できるし、次に会った時はどう説明すればいいのか頭を悩ませる。
「ねえ、そろそろ外してくれないかな? こんなので倒れはしないけど、さすがにこの状況は周囲から奇異な目で見られるし」
ブレンがそういうとウィルディは周囲を確認した。明らかに自分たちは目立っており、周囲の視線がとても痛い。
「と、とりあえず、この場を離れましょう!」
そう言ってブレンの手を引いてウィルディたちはこの場を後にした。
観光客も多いということで、ここテーリアは「カフェの文化」が盛んである。どこか話をしようとなると普通は冒険者ギルドや酒場、もしくは酒場を併設した宿屋というのが定番だ。しかし、テーリアは至る所にカフェがあり、住民も観光客もお茶やお菓子を楽しんでる。
ウィルディは先ほどの現場より少し離れたカフェにブレンを連れていき、話をしようとしていた。
「ブレンさん、あなたは何てタイミングで現れるんですか」
いきなりの存在否定から始まるウィルディの言葉。さすがのブレンもここまで言われてしまえば登場のタイミングを失敗したとわかる。
「困っていたところに顔を知ってる人がいたもんだから、声をかけてみたんだよ」
登場のタイミングは失敗したと思っているが、だからといってブレンは反省するわけもなくあっけらかんと事実を述べた。
「困ってるって、ヒューズさんたちが見つからないとかですか? そんなこと私に聞かれても困りますし、だいたいキュアシエラ以降お会いしてないんですから」
見事ブレンの困りごとを当てたウィルディに、ブレンは彼女の思考回路に驚く。
「そうか、それは残念だな……」
と言いながら、ブレンは何かを考える仕草をし、
「で、君は魔法騎士団を辞めたのにどうしてこの国にいるの?」
バシッ!
ブレンの顔面に向けて手拭きが投げられ、それをブレンはもろに喰らってしまう。
「あのですね、そういう人のプライベートにずかずか踏み込んでくるのやめてください!」
ウィルディが怒っているのは間違いなさそうだ。そういえば昔、フィアナからも同じようなことを言われて拳で数発殴られたことがあったな、とブレンは呑気に考えていた。
「変なことを言われる前に言いますけど、私は革命軍の命令でこの地に来たんです。昔、ここで魔法騎士団をしてましたし顔は広いですが、誰にも私が革命軍に所属しているとは知られたくないんですよ」
「そりゃあ、そうだろうね。名前だけの革命軍なんだから」
言われたくないことを言われ、ウィルディは下をうつむいてしまう。
だが、ブレンは知らない。革命軍は活動を行えてはないが世界中の情報を網羅しそれを各支部が共有しているという情報収集に長けた機関であるということを。その情報収集能力は、先のキュアシエラの事件の時にヒューズたちを大いに助けたのだった。
「まあ、あなたも悪人というわけではありませんので事情を話しますけど、この街の革命軍の支部を担っていた男性が行方不明になったんです。それで支部に人がいなくなったので、この国の事情を知っている私が招集されたというわけなんですよ」
周囲にあまり聞かれたくないことなので、ウィルディは少し声のボリュームを落として話し始めた。
ことの発端は、ウィルディの前任がこの国の問題点を発見したという報告からだった。だが、彼は確証が取れないので情報収集をもう少し進めさせて欲しいと言ってきたのである。革命軍側も不確定情報を少しでも減らしたいという思いからそれを了承したが、それ以降その男性とは連絡が取れなくなった。
「この国にも『異端審問官』という粛清部隊がありますし、そこに狙われたのが一番確率が高いのですが、どういう情報を掴んでいたのかを全く支部内に残してなくて……」
困り顔のウィルディ。それをお茶をすすりながらブレンは見ている。
「それって、最初から情報を集めないといけないってことじゃないの?」
まるで他人事のように言ってくるブレン。まあ、他人事ではあるのだがこういう時に人を慰められるほど彼は器用ではない。
「そうなんですよね。だから、彼がよく行っていた場所とかの情報を集めるためにミヌイさん、さっきの女性ですけど、接触していたんです。邪魔が入りましたけどね……」
かなりの嫌味を込めてウィルディは言ったつもりだが、ブレンはきょとんしながら首を傾げるだけだ。
「まあ、ブレンさんが悪いわけでもないですし、これ以上は責めるつもりはありませんけど。とにかく、そういう事情なのでこれ以上は私の邪魔はしないでもらいたいんです!」
深刻な表情でそう言ってくるウィルディに、さすがのブレンも事態の重要さがわかってきた。
「そういうことなら、僕は邪魔しないようにするよ。そんな状況なら君たちにヒューズたちを探すのを手伝ってほしいとかって言えないしね。それに僕も僕で、この国にちょっとした用事があったのも事実だから」
そう言って立ち上がるブレン。そして、1つ浮かんだ疑問をウィルディにぶつけるのであった。
「ちょっと思ったんだけど、なんで前任の人って内部事情を掴むことができたの?」
ブレンのそのような質問に、ウィルディは説明していなかったのを詫びてから話し始める。
「彼は、エムレー・マス氏は……」
ブレンはどんな答えが出てきても驚かないつもりでいたが、
「……神星教団の神父をしていたんです」
「えっ、よりにもよって神父なのかい?」
さすがに現地の神父が革命軍に所属しているって、神星教団は組織的にダメなんじゃないかとブレンは感じるのであった。
宿屋に戻ったブレンは今後の方針について部屋で考えている最中だ。
「この際、ヒューズたちの探索は後回しでもいいから、死んだ革命軍の神父がどんな情報をキャッチしているのか知りたいよね」
先ほどウィルディがもたらした情報、この国の問題点があるということだが、これは自分の最終目標と同じなのだろうか。もし行きつく先が同じであれば協力しておきたいところだが、あまりこちらの手の内を見せたくないというのが本音である。
「あの人が本の存在を知っているという確証はないけど、知られたらマズいからね」
そう言って、机の上に置いてある本を眺めるブレン。その表紙には「慧眼達識の愛読書」の記載がある。
「個人の追跡機能がないのに、みんななんであれをそんなにも欲しがるのだろう」
不思議そうに机の上にある本を取るブレン。その時の顔は優しく、何かを思い出すかのような表情をしていた。
彼の持っている「慧眼達識の愛読書」はこの世界の昔話やおとぎ話にたびたび出てくる代物である。この世のありとあらゆる理を知ることができるというフレーズで、物語の主人公たちはその本を持つ者に知恵を授かるのが定番だった。ブレンはまさか自分がその物語に出てくるような代物を手にするとは思ってもいなかったのだが。
「まあ、引き受けちゃった以上、勇者としてやらないといけないよね」
そう言いながら、手に取った本を優しく机の上に置いた。
牢屋の中の3人は各々聴取を受けたにも関わらず、再び牢屋に入れられていた。武器も取られ、壁は魔法による破壊を無効とする効果を持ち合わせており、脱獄しようにも簡単にはできそうもない。
もっとも、そんなことしたら大惨事になるのは目に見えているので、さすがにやることはないが。
「ねえ、聴取は一通り終わったんだから、開放してくれてもいいんじゃないかな?」
牢屋の傍に陣取る魔法騎士団員に話しかけるフィアナ。団員は一度はフィアナの方を振り向くが何も言わずに向こうを向いてしまった。
「フィアナ諦めたらどうだ。まあ、ここだったらブレンの追撃は無理そうだし、ゆっくり休息できるじゃないか」
「牢屋でくつろぐことができるのは、あんたぐらいよ!」
寝そべりながら毛布を掛けているヒューズに、フィアナは思いっきり蹴りを入れる。
「フィアナさん、やめてください。牢屋に入れられて苛立つのはわかりますが、さすがにこれで5発目ですよ」
牢屋に入れられた最初の方こそ失意のどん底にいたハナだが、今は少し回復しているようだ。
「しょうがないじゃないの、元々はこいつが悪いんだからさ」
「いや、悪いのは助けたのに礼も言わずに消えたシスターだろうが……」
あまりの風評被害っぷりにヒューズも黙ってはいられなかった。しかし、フィアナはそんなことなど気にも留めずに考えを巡らせる。
どうして、自分たちは未だに牢屋にいるのか。そのことに疑問を持たざるを得なかった。
ブレンから追われていることを隠し、ただの観光客として証言をしたつもりだったし、来る前に打ち合わせもしていたはずである。ヒューズが余計なことを言った可能性も捨てられないが、そんなことまで考えたらキリがない。
ということは、心当たりがあるとすればとハナのことを見るフィアナ。
「まさか、ハナちゃんが転移者だって気づかれてるのかな……」
転移者の存在はどの国でも欲している。何せ1人1人が強大なチートを持ち、場合によっては世界をも脅かす能力を持っていることもある。実際、ハナは魔王に囚われていた時に彼女が世界を滅ぼす能力を秘めていると教えられていた。
ただそのことは聴取で教えていないし、この国は転移者狩りに強く抗議している国でもあるから、自称観光客が転移者だとしても無理やり自分の国の物にはしないだろう。
「……あっ!」
思考を巡らせていると、突然ハナが大声を上げる。何事かと思いフィアナはハナの方を見ると、手には封筒が1つあった。
「そういえば、これの存在を忘れていました……」
この国に来る前に神父の男性から引き継いだ封筒。そういえば元々はこのためにテーリアの地を訪れたのではないか。フィアナはすっかり忘れていた自分に恥ずかしくなる。
しかし、武具などをきちんと回収したのに封筒を見逃すとは、なんとも雑な仕事だろうとフィアナはハナから封筒を受け取ってそう思うのであった。
「これ、どうしましょうね。こんな牢屋にいてはミヌイさんって人を探して渡すなんて不可能だし……」
「お前たち、ミヌイさんの知り合いだったのか?」
フィアナとハナの会話に割り込んできたのは、牢屋の傍で立っていた騎士団員である。封筒まで没収されるかもしれないとフィアナは急いでそれを隠す。
「知り合いというわけではなく、少々お会いする用事がありまして……。ミヌイさんって方、そんなに有名なんですか?」
ハナのその質問に騎士団員はなぜか自慢げに言ってきた。
「ミヌイさんはここ第一教会の他に2ヶ所もの教会を管理しているシスターでな、とても優秀な方なんだぞ。同じシスターや街の者たちからの信頼も厚く、教会の上層部は30年に1人の逸材とまで言っている」
「そんなにすごい人だったの? じゃあ、その人に伝えたい情報があるんだけど呼んできてもらえないかな?」
フィアナはあくまで封筒の存在はひた隠しにする。もし、封筒が今ここにあることがバレたら没収されるのは間違いないし、管理者との取引で牢屋を出してもらえるチャンスもなくなる。
ここは慎重に交渉し、まずは牢屋を出ることを優先しなければならない。
「呼んであげたいのはやまやまだが、あいにくミヌイさんは留守でな。というか、あの人はフラフラとどこかに出かけるのが趣味みたいなもので、場合によっては1日戻らないこともある。もう夕方になってきたし、今日はもう来ないんじゃないかな」
その騎士団員の言葉がフィアナにとっては絶望の一撃に感じた。
もう戻ってこない、ということは今夜はここで寝泊まりさせられるということだ。望んでいた美味しい食事も、ゆっくり眠れる寝床も、街の観光も何もできない。
「フィアナさん、これって主人公が遠隔でヒロインなどを使って事件を解決するシチュエーションですよ」
ハナはまた変なことを言い出すが、これはいつものスイッチが入ったわけではない。おそらく、牢屋で一晩過ごさなければならないという現実に耐えられなくなっただけだ。
「私たちサスペンスの主人公ですよ、やりました……。あはは、あははははは……」
案の定、ハナは壊れた。
「なあ、そろそろ腹減ってきたんだけど、飯っていつ出てくるんだ?」
フィアナもハナも現実に耐えきれなくなっている時に、ヒューズは寝そべりながらいつもの調子で騎士団員に聞く。
それに苛立ったフィアナは6発目のキックをヒューズに見舞うのであった。
お読みいただきありがとうございます。
結局、ヒューズたちは牢屋から出てきませんでしたが、次回こそは出られると思いますのでもう少々お待ちください。
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投稿は毎週水・土の22時になります。遅い時間の更新になってしまいますが、よろしくお願いします。
次回の投稿は10月31日(土)です。




