EP1 1通の手紙を胸に抱き
お待たせいたしました。
「英雄は勇者と決別し、世界の敵となるのか?」の第2章がスタートします。
今回は薬学と医療の国キュアシエラから神星王国テーリアに舞台が移り、新しい事件にヒューズたちは巻き込まれていきます。
信仰の本拠地であるテーリアでの物語をどうぞお楽しみください。
夜の街中を懸命に走る男性の姿がある。彼は後ろを何度も見ながら、自分の追手が来ないかを確認しているのだ。
「これをあの人に渡したい、けど今のままではどうしても捕まってしまう……」
追手の数は多く、易々と男性の思惑は叶いそうにない。実際に、先ほど曲がった角からはすでに黒ずくめの者たちが複数追ってきているのだから。
「くそっ、粛清部隊め。私を異端として処理するつもりか!」
後ろを向きつつ男性はそうつぶやいた。残念ながら、彼には戦闘を行う力はない。ただ、逃げることだけが彼の戦う術なのだ。
「とにかく、街の外に出れば部隊も追手は来れまい……んっ?」
前から突如人影が現れた。それは男性に光の球体を打ち込んでくる。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
男性の断末魔が夜空を切り裂いた。
『英雄は勇者と決別し、世界の敵となるのか?』
~第2章 神では人を救えない~
【EP1 1通の手紙を胸に抱き】
キュアシエラの事件から1ヶ月ほどが経過しているが国を事実上救った3人は途方に暮れていた。
あれから追撃は手を抜いてくれない。
「ごめんね、いい方法だと思ったのよ」
両手に厳つい籠手を装着している女性が少女に話しかける。彼女はパーティーのまとめ役で何でも屋であるフィアナローザ・スパス・サイガといい、騎士の国である「シェーリーダン」の騎士の家系の出身だ。
「だ、大丈夫です……。色々ありましたが、生きていますんで」
そう答えたのは転移者であり世界を滅ぼす力を持っていると言われているタマキ・ハナ。黒髪、黒い瞳、黄色い肌と転移者狩りの目標にされそうな見た目をしているので、黒いローブのフードを被っている。
フィアナは追撃のことを考えて闇市場の宿屋(ハナが人攫いに連れていかれそうになった)や暗黒街の宿屋(ハナが転移者狩りに捕まりそうになった)を使ったりしたが、しっかりと休息できる場所にたどり着いていないのである。
そしてとうとう、シェーリーダンやキュアシエラより離れ、神星王国「テーリア」の近くの国まで来ていた。
「そろそろまともな飯も食べたくなってきたしな」
2人の疲労困憊っぷりなど意にも介さず、平然と食事の話をしてくる身の丈ほどの大剣を持った青年、ヒューズ・ブロングは話をしてくる。
「今食事にしたら、逆に胃にダメージをあたえそうです……」
ハナにとってはこんな疲労感で食事をしたら胃が受け入れてくれないだろうとの思いだった。
「うーん、ハナちゃんは限界かもしれないわね」
疲労困憊な表情だがフィアナはハナを見る。彼女は誰かに聞こえるか聞こえないかの、か細い声で、
「ここは、テントじゃなくコテージの出番です……。HPとかが全開になります……」
とわけのわからないことをつぶやき始める。世界を滅ぼす前に、自分のアイデンティティが滅ぼされそうな心配ができる。
「大丈夫だ、ハナ。フィアナのことだから、次の展開も考えてるって!」
「……う、う、うん」
完全のノープランなのに、こういう時に限って頼ってくるヒューズに対し、フィアナは少し苛立つ。しかし今のハナを前にしてプランがないとも言えずに、曖昧な返事になってしまった。
「……んっ? あっちになんかあるぞ」
そのように言うヒューズにつられて、フィアナもハナも見てしまう。そこにいたのはうつ伏せで倒れている男性の姿であった。
一斉に駆け出す3人。なぜ倒れているかは知らないが知らんぷりはできないという感情が前面に出てしまった形だ。
「大丈夫ですか?」
ハナが言葉をかけると、男性は顔だけを向けてきた。その男性は明らかに神父の格好をしていたため、ヒューズもフィアナも声をかけるのをためらっていたのだが、事情を知らないハナは気にせず声をかけてしまった。
「……ああ、私はまだ神に見放されていないようだな」
弱々しい声、そして泣きそうな声でそう言うと、男性は1つ封筒をハナに渡してくる。
「これを、この手紙をテーリアの第一教会にいるミヌイという女性に渡してほしい。彼女ならなんとかしてくれるはずだ……」
最後の力を振り絞るかのように声を出し、男性はそこで息を引き取った。
「で、どうするんだ、この手紙?」
どうしていいかわからずに受け取ったまま硬直したハナを見て、ヒューズはフィアナに尋ねてみる。
「どうするも何も……できるだけ、関わらない方がいいような……」
「何を言っているんですか!」
フィアナは明らかにいざこざに巻き込まれたくないという姿勢だったが、ハナはそうではないようだ。
「命を賭して託された手紙、最近のサスペンスものではなかなかない展開ですよ。そんな場面に立ち会えるなんて……最高じゃないですか!」
「そ、そうなのね……」
興奮気味に話してくるハナに、フィアナは気圧される。付き合い始めて色々わかるようになったが、ハナはどうも時々タガが外れるというか変なスイッチが入ることがあるようだ。あちらの世界で様々な物語に触れていたため、同じシチュエーションとかに「もえる」と言っていた。
「とにかく受け取った側には、届け先に手紙を持っていく義務があります」
「おっ、ハナも最近よくわからないことを言ってくるようになったな!」
何が喜ばしいのか、ヒューズはハナの姿を嬉しそうに見ている。その光景を見て頭を抱えるフィアナ。だが、そんなフィアナはあることを閃いた。
「待ってよ、もしあたしたちがテーリアの首都に入ったら、シェーリーダンの後ろ盾を持つブレンの追撃は収まるんじゃないかしら?」
その言葉に他の2人は感心する。ブレンの正確な追撃はどんな情報を使っているのかわからないが、独特な文化を持つテーリアであればそれがなくなるかもしれないと考えたのである。
「どうしてですか?」
今までの粘着ストーカーじみたブレンの追撃にもう回避方法はないと思っていたハナだが、フィアナのその発言が気になった。
「テーリアの首都はね、他の都市と違ってすべてが神星教団が仕切っているの。つまり冒険者ギルドも宿泊者協会も飲食業組合も、すべてが教団の息がかかってて彼らが支配してるのよ」
「つまり、ブレンの謎の情報網も使い物にならないかもしれないということか?」
ヒューズのその言葉に対して、笑顔を見せるフィアナ。
「あくまで推測だけど、ブレンが教団とうまくやり取りできない限りはテーリアでの情報収集はできないってわけ。もしかしたら、久しぶりにのんびりできるかも!」
「まともな飯が食えそうだな!」
フィアナもヒューズも盛り上がっている。それはそうだ1ヶ月もしっかりとした休息を取れていないし、まともな食事にもありつけていない。テーリアまで行くのは予想外だが、それでも休息が取れることは喜ばしい。
「あのぉ、手紙の件、忘れないでくださいよ」
ハナはそう言うが、すでに一番大切なことを浮かれているヒューズもフィアナもすでに忘れていた。
その時は3人は気づかなかった、どうして彼が死んでしまったのかを。
場所は変わってテーリアの王城にある謁見の間。そこでは2人の男が対峙していた。周囲にいる護衛や大臣たちも、この緊迫感に入れそうになく困ったような表情をしている。
「これで何度目かわからないけど、冒険者ギルドに協力してもらいたいんだけど、ダメなのかな?」
全身に7本の刀剣を身に着けた少年、勇者ブレン・ネゲブはそのように話を再開した。それに対して厳しい表情を全く崩さない初老の男性、神星王国「テーリア」の国王、デオボ8世は首を振る。
「何度言われてもダメですな。世界を救った勇者といえど、あなたはシェーリーダンの出身者であることには変わりない。あの聖十字教を信仰する古い貴族どもがはびこる国に手は貸したくない」
仮にも一国の王、しかも神星教団の本拠地を構えている都市の王、ひいては神星教団の現トップでもあるのに少々問題ある発言をしてくる。しかしこのデオボ8世、このような裏のない物言いで民衆に人気があるのだ。
このように自分の考えに折れることのない性格は、長年の教会での生活によるものなのか、元々の素質なのかはわからない。
「しょうがないや、ここまで言って協力してくれないなら、これ以上はやっても無駄でしょ。あまりしつこくして『異端』扱いされるのは勘弁してほしいからね」
そう言って踵を返すブレン。彼は国王が頑なに協力を断る理由がわからなかった。まあ、マイナー宗教の聖十字教に覇権を取られている国に協力したくないという理由はわからなくはないが、それにしては弱すぎる。
「……まさかね」
こちらの目的がバレている可能性も考えたが、さすがにそれはないと否定した。
テーリアの首都は先日足を運んだキュアシエラ同様、石造りの建物が並ぶ街であった。違いといえばキュアシエラは比較的新しい感じがするのに対して、テーリアは古い建物を大切に使用している感じがする。そして、建物の装飾は豪華な物も多く人の目を楽しませてくれるのだ。
「へえ、すごい街並みですねぇ」
いかにも都会に出てきた田舎者のごとく周囲をキョロキョロとするハナ。ヒューズは特にそういうのに興味はないためボーっとしているし、フィアナは何度も来ているために珍しくはない。
「ここはね、昔から神の石像を作ったりしていてその技術が建築にも役に立ってるの。その技術の集大成として100年ぐらいかけて教会を作るという計画も出たんだけど、現実的じゃなく狂気の沙汰だって却下されちゃったのよね」
フィアナの説明を聞き、ハナは自分のいた世界にはその現実的じゃなく狂気の沙汰ってやつを絶賛建築中の国があるんだけどなと思ったが、さすがに話がややこしくなると考え黙っていた。それと同時に、人の営みがあると異世界だろうと似たような思考の人はいるんだと安心感も覚えたりもした。
「この街並みを見るために観光客も来るぐらいだし、もし余裕があれば色々と案内するわよ」
「はい、お願いします!」
この世界に来て初めて観光ができるという期待に胸を膨らませるハナである。
「なあなあ、小さくてかわいいシスターさんよぉ、俺たちの飲みに付き合ってくれよぉ」
少し歩くと、そのような声が聞こえてきた。声のした方向を見てみると、明らかに酔っぱらっている冒険者の男たちが、小さな眼鏡をかけた女の子のシスターに絡んでいるではないか。周囲の人間もその様子を見ているようだが、冒険者が手練れのようなので誰も女の子を庇おうとはしない。
「まったく、昼間っから迷惑なやつっているものよねぇ」
その様子を見ながらため息を付き、ヒューズの肩を叩くフィアナ。
「ロリコンは物語の中だけなら面白いですけど、現実では面白くないです。ヒューズさん、お願いします」
なにかよくわからない単語交じりに語るハナも、ヒューズの肩を叩く。
「はいはい、わかりましたよ……」
セリフはめんどくさそうに言っているが、ヒューズの目は明らかにやる気に満ちていた。
「おいお前ら、その子が困っているだろう!」
「なんだお前……って、やべえ、逃げるぞ!」
やる気満々で冒険者に接触したヒューズだが、冒険者はヒューズを見ると一目散に逃げようとする。いや、正確にはヒューズのいる方向を見て逃げようとしたのだ。
「おいおい、戦わないのかよ……」
冒険者たちはさっさと逃げ出し、1人置いていかれたようになったヒューズが後ろを振り向くと、屈強な男の集団が待ち構えていた。
「……えっ?」
その男たちの1人とヒューズは目が合う。
「お前か、わが国の宝であるシスターに迷惑をかけているというのは?」
目の合った男はヒューズにそう言ってきた。
「おいおい、俺は何もしてないぞ。むしろ困ってた人を助けようとしただけで、そうだろ……って、すでにいなくなってる!」
シスターの女の子に同意を求めようとするが、その女の子はすでにいなくなっており、誰に同意を求めていいか途方に暮れる。
「ちょっと、待ちなさいよ。ヒューズの言っていることは正しいんだってば」
さすがにこのまま事態を見守るほど冷徹ではないフィアナが出てきて、話に割り込んできた。ただ、彼女が出てきたのには重大な使命があった。この連中といざこざを起こしてはいけないという使命が。
「なんだ、お前は? この変態男のなんなのだ?」
「ヒューズが変なのは認めるけど、今回は何もしてないわよ!」
変と認めているために庇われた気持ちがしないヒューズだったが、ここは口に出さずに見守ることにする。けど、自分のどこが変なのかヒューズは実感が持てなかった。
「……なるほど」
屈強な男は何かを悩むように考えると、1つの結論が出たらしい。
「つまり、お前もあの男の仲間で同類ということだな!」
「間違ってないけど、違うわよ!」
男のとんでもない発言に盛大なツッコミを入れることになるフィアナ。
「へえ、やろうってんなら、やってやるぜ」
「だから、あんたも事態をややこしくするな!」
こっちはこっちで面倒な男がいて、話をややこしくしないようにするので精一杯だ。
「いい、あいつらはこの国の『魔法騎士団』の連中よ。『不死身』とか『人じゃない』とか言われてるやつらなの。そんな奴らと戦ったら、また大事になるでしょ。話せばわかる連中かもしれないんだから、ここは変に戦闘とか起こさないでよね」
「つまり、戦うなってことかよ。もったいないなぁ」
残念がるヒューズにフィアナはかける言葉もなかった。
「ヒューズさん、さすがに街中での戦闘はキュアシエラで終わりにしましょうよ」
フィアナの代わりというわけではないが、ハナが言葉をかけてくれる。
「まだ仲間がいたか……。とにかく、わが国の宝であるシスターに迷惑をかけているという報告があったのでな。それについてしっかりと聴取しなくてはならない」
男の言葉に従うように、他の屈強さでは負けずとも劣らない男たちにヒューズたちは包囲された。
そして、
ガシャァァァァァァン!
鉄格子の閉まる重苦しい音が、冷たい空間に響き渡る。
3人が揃って入れられたのは、薄暗い牢屋の中であった。
確かに彼らはブレンの追撃から逃れ、ゆっくりと身体を休められる場所を求めていた。しかし、いくらなんでも、こんな場所(ベッドすらない監獄)は望んでいなかったのだが。
彼らは確かに安心して眠れる場所を求めていた。しかし、牢屋とはあまりにも酷い仕打ちである。
お読みいただきありがとうございます。
第2章の華々しいスタートからヒューズたちは牢屋にぶち込まれてしまいましたが、今後の活躍に期待してください。
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投稿は今回も毎週水・土の22時になります。遅い時間の更新になってしまいますが、よろしくお願いします。
次回の投稿は10月28日(水)です。




