EP4 利用する者、利用される者
お待たせいたしました。
「英雄は勇者と決別し、世界の敵となるのか?」の第2章の第4話をお届けします。
無事に牢屋から出てこれたヒューズたち、そして何やら思惑があるブレン。
彼らがそれぞれ動き出します。
※現在、過去の作品を読み直してもう少し読みやすい状態にならないかと改行や地の文の見せ方を試行錯誤しております。読みやすくなってきているや前の方がよかっただけでも良いので、コメントを頂けると助かります。
【EP4 利用する者、利用される者】
第一教会から出てきたウィルディはひどく疲れ切っていた。
「あの人は相変わらずフラフラと出かけて……本当に困りました」
ミヌイが第一教会に向かったのはミヌイに会うためだ。昨日のとんでもない誤解をなんとかしなければと思ったのである。
ミヌイは人と接することが多いので、世間話としてこの話題を出してしまう可能性が高かった。
以前は訓練の素振り中にメイスを足に落として骨折したという話を、ミヌイの管轄する教会のシスター全員に知られるという事態を招いたことがある。
つまり、口が軽いというわけだ。
あの骨折話のように「以前、魔法騎士団にいたウィルディが勇者ブレンと恋仲になっている」などと広まればこの国での活動に支障をきたす。それどころか生きた心地がしない。
ちなみにミヌイはヒューズたちに宿を紹介するために別な出口から外出しており、完全な入れ違いだったのだが、ウィルディはいつものフラフラ癖だろうと思いこんでいた。
「まあ、もとはといえばあのブレン・ネゲブがすべて悪いのですけどね」
革命軍からの命令を受けてこの街に来て、ミヌイを見つけてうまく接触できたところまではよかったのに、ブレンが現れてから狂いが生じたと思っている。
「だいたいあの勇者は、何を考えてるのかまったくわからないんですよ!」
「えっ、僕がどうしたって?」
「そう、あなたがですね……って、ぎゃあああああ!」
あまりに唐突な出現に、ウィルディは恐ろしい化け物に出会った時にしか出さないような悲鳴を上げる。
「ちょっと待ってよ、僕は世界を救う勇者をやっているだけで、そんな恐怖の対象になった覚えはないんだけどなぁ」
ウィルディの気持ちなどまったく汲みもせず、勝手なことを言い放つブレン。この疫病神と2日連続で遭遇する不運に、ウィルディは頭痛を感じざるを得ない。
「あなたはどうして唐突に姿を現すんですか? 暗殺者か何かですか?」
「いや、勇者だけど」
ウィルディは相変わらず会話がかみ合わないと感じる。皮肉すら通じないなんてどういう神経をしているものなのか、そもそも人なのか疑わしい。
「いやー、でも助かったよ。この教会に動きがないか見張ってたのに全然わからなくて、どうしようかと困ってたら君の姿を見つけてさ」
まったく悪びれた様子もなく、自分の言いたいことをブレンは語る。
ウィルディはキュアシエラの街でそういう会話パターンの研究者の相手をして慣れてたこともあり、特に苛立ちなどを感じることはない。
「第一教会を見張って何があるんですか? シスターのナンパなんてした日には魔法騎士団に包囲されますよ」
まあ、ブレンなら魔法騎士団に包囲されても難なく突破するだろうと心の中で付け足した。
「それにしてもここだけじゃなく、この街の教会はどこも大きいよね。出入口も複数あるみたいだし、僕だけじゃ全員の出入りを掴むことなんてできそうにないよ」
ここまで素直に自分からやっていたことを白状してくるブレンに対し、ウィルディはこの人って大丈夫なのかという心配をするのであった。
「なるほど、そこに私が来たものだから協力してほしいということですね。でも、お断りします。昨日も言いましたが、私は今とても忙しい立場にあるんですから」
ウィルディはアジトに残っている資料を精査しなければならないし、ミヌイの誤解をなんとかしなければならない。どちらかといえば、誤解の件のほうが最優先事項ではある。
「ああ、それは知ってるし、そこまで協力してもらおうなんて考えてないよ。ただ、僕の知っている情報と交換で、元魔法騎士団に所属していた君に教えてもらいたいことがあるだけなんだ」
ブレンはとんでもないことを言い出した。辞めたとはいえ、もともとお世話になっていた組織の内部事情を教えろというのだ。それはこの国を好きなウィルディ自身の気持ちを裏切る行為にもなりかねない。
だが革命軍に入り情報を多く扱ってきた身としては、ブレンの提案には誘惑もある。
「……あなたの知っている情報とは?」
その時のウィルディの声と目つきは、ブレンの登場に悲鳴を上げた人物と同じとは思えない鋭いものがあった。ブレンもさすがにそれにはすぐ気づく。
「それ、ここで話してもいいけど、ウロウロしている魔法騎士団にでも聞かれたら大事になっちゃうよ」
ブレンのその言い方でウィルディは察した。彼はかなりヤバい情報を持っており、それを提供してでも自分の持っている情報を欲しているのだと。
「わかりました。では、少しお茶に付き合ってください」
ウィルディがそういうと、2人はこの場から離れたのであった。
第一教会から少し離れた場所にそのカフェはあった。格式としてはかなり高級で、裕福な観光客がそのランクに見合うお茶や菓子を求めてやってくる。
そしてもう1つの顔がこの店にはあった。個室が複数あり、スタッフは誰が出入りしたかやどんな話をしたかを絶対に口外することがないという面だ。
そう、密室での話し合いに適した場所になっている。
ウィルディはこのカフェに到着するとほとんど顔パスで個室に案内され、ブレンと2人きりになる。そこに高級そうな菓子や芳醇な香りが漂うお茶が運ばれてくる。
「ねえ、君って本当にただの革命軍の人? 顔パスでこんな所に案内してくれるなんて普通じゃないよ」
出てきた菓子を頬張りながら、ブレンは質問する。
「元魔法騎士団ですからね、このぐらいの力はまだ残っていると思ってください」
これが当たり前というような表情で答えてくるウィルディの姿に、ブレンは彼女がただの魔法騎士団員ではないなと感じた。
「それで、勇者様はどのような情報を提供してくれるんですか?」
ウィルディの空気が一変したのをブレンは感じる。さっきまで自分に文句ばかり言ってきた女性ではない。強いて言えば、魔王討伐の旅で他者と交渉する時のフィアナと同じ、つまり交渉人のそれである。
元から自分には交渉事は向いてなく相手のペースになるだろうとブレンは思っていたが、予想以上にできる人物だったようだ。
「初めに言っておくけど、僕が今からする話はこの国の根幹に関わることであり、それが知れ渡れば間違いなくこの国は混乱に陥る。だからこそ、他言無用でお願いしたいんだ」
国の根幹に関わる話とは大きく出たなとウィルディは思った。
しかし付き合いはあまりないが、彼は嘘やハッタリが得意な人物には見えない。すると、少なくとも彼にとってはこの国を混乱に陥れるに値する情報なのだろう。
「わかりました。情報を聞いてみないと判断は難しいですが、よほどのことがない限り他言無用にするとお約束します」
とりあえず、ウィルディは提案を受け入れる。ここで少しでも彼の意に反することを言えば、おそらく彼は話す気を失うだろう。それならば、上に判断を仰ぐために情報を共有する可能性があることは隠して話を進めた方が得策だ。
「そう言ってもらえると助かるよ。僕には今、魔王討伐の時と違って頼れる人がいないからさ」
ウィルディには、そう語るブレンの表情が少し寂しそうに見える。
そのころ、ヒューズたちはミヌイの案内で「いい宿」に向かっている。その間、転移者の先輩としてミヌイがハナへこの国のことを教えていた。
「つまりこの国の王は一定期間を終えると、また一部の上位の者による選挙が執り行われて新しい王が決定されるというとても珍しい方式をしているのですよ」
ミヌイが今教えているのは、この国の王に関することだ。
この国では王は血筋ではなく教団の上位の者だけによる選挙によって決められる。上位の者とは「外交管理官」、「軍務管理官」、「財政管理官」、「法務管理官」、「国土管理官」の5役であり、新たな王が決定されると彼らは全員退任して、まったく新しい人物を王が決めるのだ。
このサイクルは建国時から変わっておらず、人員が循環するという面ではよいシステムである。だが、思想が似た人物ばかりが王や上位5役になるというデメリットがあり、政治が大きく動くことはほとんどない。
今の王であるデオボ8世も世間では裏表がなく人気のある人物だが、思想極めて保守的である点は歴代の王と変わりはなかった。
「政治に詳しくないので変な質問かもしれませんが、それって政治腐敗を招きませんか?」
ハナの質問はもっともだ。このシステムはいわば密室政治と何ら変わらず、さまざまな不正を招きやすいのは想像に難くない。
「普通でしたらそうかもしれません。しかし、この国の王や5役に選ばれるのは教団に所属する者として極めて優秀な人物で、彼らは神に背を向けるようなことは決してしないのです。ハナさんと私のいた世界では考えられないことですが、この国はそのような絶妙なバランスで成り立っているのですよ」
ハナにとってはとても不思議な国に思えた。ハナ自身がもともと神様というものに無頓着ということもあるが、神に背くことをしないようにと自分を律することができるとは、この国の人々の意志の強さを実感した。
「ハナちゃんたちの世界ってそんなに不安定だったのね。この世界だと安定が500年続いているのが普通だからね」
フィアナにとってはどこもかしこも不安定な世界だなんて想像もつかないことだった。3大国は軒並み建国から500年前後であり、以来、その睨み合いによってギリギリのところで世界は安定している。
3大国の建国より昔は戦争の絶えない世界だとの記述は読んだことはあるが、あくまで読み物なのでフィアナには実感がなかった。
「3大国が睨み合いという名の平和を維持していると考える奴らも多いから、それを変えようとする革命軍に賛同者が増えないってわけなんだよ」
ヒューズがフィアナに補足する。革命軍といえば、キュアシエラで世話になったウィルディのことをハナは思い出した。最後に挨拶ができなかったが、元気にしているだろうかと考える。
「さあ、到着しましたよ。ここが私の一押しの宿である『血の滲む努力亭』です」
ミヌイがそう言って扉を開くと、
「むぅぅぅん、いらっしゃいませーっ!!!」
上半身裸で筋骨隆々の男性たちが満面の笑み迎える。
それを見たハナは真っ先に扉を閉めた。
「まず初めに言っておくけど、この国は15人の者によって政治が行われているんだ」
「えっ、6人じゃないんですか?」
ウィルディの中では今、ブレンは変なことを言う人として認定されている。
この国の政治が王と5役によって行われているのは子供でも知っている常識であり、さらに9人も政治を動かす者がいるとは聞かされていない。
彼女自身、魔法騎士団に所属し(ブレンには黙っているつもりだが)役職を持っていた。そんな自分が知らない役職があるとは思えない。
「6人って、それは今の政治の話だよね。僕が言っているのは建国から500年、15人の者が入れ替わりで王や5役となり政治を行っているということだよ」
「500年間、15人が、ですか……?」
ウィルディの思考がついていかない。ブレンの言葉の意味が一瞬では理解できない。
500年もの間、王や5役を15人でローテーションできる方法が思いつかないのだ。
「僕の言っていることが理解できていないみたいだね。それは仕方ないよ。だって君は前提条件を間違えているんだからさ」
ブレンにとってウィルディの反応は予想通りであり、そのまま話を続けようとする。
「……前提条件って、なんですか?」
ウィルディの勘はブレンは嘘偽りなく話していると告げている。だとするば、答えは自動的に導かれてくるのだが、その事実を受け入れられずに恐る恐る尋ねた。
「その15人全員が、不死者ということだよ」
それは衝撃的な事実であり、聞いてはいけない情報であった。
ウィルディの頭にも一応はよぎった結論ではあるが、改めて言葉にされると思考が停止してしまう。
少し冷めたお茶を一気に飲み干し、ウィルディは目を閉じて心を落ち着かせようとする。
ブレンの出してきた情報はあまりにも突拍子もない内容であり、すぐには信じたくないことだった。
だが、500年間の政治を15人でローテーションするにはその結論がもっとも理にかなっているのは確かである。
「ですが、教団には『不死者は穢れた存在であり浄化しなければならない』との教えもあります。もし、自分たちが不死者だとバレたらどうするつもりなんですか?」
「自分たちの上の者が不死者かどうかなんて、わざわざ自分の首をかけて調べる人間なんていないよ」
ブレンの返答を聞き、ウェルディは彼の語ったことが事実なのだろうと思った。
「15人のうち6人は王と5役で間違いない。残りは王や5役にもっとも近い立ち位置にいる人物の中にいるんだろうね。彼らはそうやって権力を常に掌握しながら生き続けていたんだよ」
ブレンの情報はとんでもない内容だ。確かにこんなことが知れ渡れば国は混乱するだろうし、最悪壊滅の危機を迎える。そうなっては残り2つの大国がどのような行動に出るかわからないし、この世界は再び戦争の日々を送ることになってしまう。
ウィルディはそれだけは避けたいと思うと同時に、国の政治が15人の不死者によっていいようにされていることに憤りを感じてもいた。
道理で常に保守的な国のはずだ。回復魔法を少しでも世界に普及させ、キュアシエラの薬学や医療だけで人の命を支えている現状をなんとかしたいと上申しても、却下されるはずである。
彼女の推測が間違いなければ、神星教団の神秘とされる上位回復魔法は不死者の何らかの力を使っていることになるからだ。
「ということは上位回復魔法が使える者、つまり私も含みますが、全員が不死者となっているということになりませんか?」
ウィルディの理解はとうに限界を超えている。普通の人であれば知恵熱を出しそうなぐらい情報が重すぎる。
だが、彼女はここで倒れるわけにはいかないという気持ちでブレンとの話を進めていく。
「うん、君には辛い事実かもしれないけど、その通りだよ。おそらく、上位回復魔法を習得する前に洗礼を受けてるよね。それが相手を不死者にする儀式なんだ」
完全に肯定されて、ウィルディの視界はますます眩む。さすがに重すぎる現実にウィルディの息は荒くなり、心拍数も跳ね上がっている。
「僕からの情報提供はここまででいいかな?」
ウィルディの状態を察し、ブレンもこれ以上はマズいと情報の開示を止めた。彼女はブレンの質問に答えることができず、かなり憔悴しきっている。
あれから10分ほどが経過した。
呼吸も整い始め、心拍数も落ち着いてきたウィルディはやっとブレンの顔を見ることができたのである。
「……あまりに衝撃的な内容でしたが、あなたの情報は確かにこの国の根幹に関わることで間違いないですね」
今度はこちらの番とばかりにウィルディは両頬を軽く叩く。
「それで、私はブレンさんにどんな情報を提供すればいいですか? あれに匹敵するような重要な情報を持っているつもりはありませんが……」
ウィルディの言葉に対し、ブレンは不敵な笑みを浮かべる。
「この国にいる『異端審問官』の配置と、先ほど話した15人になりそうな人物の情報だよ。僕は勇者としてその全部を敵にしないといけないからね」
全部を敵にしないといけない、というブレンの言葉の重みは、付き合いがほとんどないウィルディでも十分に伝わった。
お読みいただきありがとうございます。
早々にこの国のとんでもない部分が勇者によって暴露されてしましました。
今後、それを知ったウィルディの運命はどうなるのか。
そして、ミヌイの魔の手からハナたちは逃れられるのか。
どうぞ、楽しみにしていてください。
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完結まで頑張りますので、よろしくお願いいたします。
投稿は毎週水・土の22時になります。遅い時間の更新になってしまいますが、よろしくお願いします。
次回の投稿は11月7日(土)です。




